特区民泊とは?認定要件やメリット・デメリットを解説

「特区民泊」とは、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊のことを指します。特区民泊の正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」ですが、特区(特別区)における民泊事業として「特区民泊」と呼ばれています。特区民泊ができるのは国家戦略特別区の一部に限られますが、合法的な民泊事業運営方法の一つとして注目を集めています。ここでは特区民泊の概要について詳しくご紹介します。

国家戦略特別区域とは?

国家戦略特別区域とは、安倍内閣が日本の成長戦略の柱の一つとして掲げている、地域振興と国際競争力の向上を目的として規定された経済特区のことを指します。2013年6月に特区の創設が閣議決定され、同年12月に国家戦略特別区域法が成立しました。国家戦略特別区域は「国家戦略特区」と省略されることもあります。

国家戦略特区では、そのエリア内に限って従来の規制を大幅に緩和することが認められています。2017年9月現在、具体的には下記の地域が国家戦略特区に指定されています。

【国家戦略特区の一覧】
東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市、千葉県千葉市)、関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)、新潟県新潟市、兵庫県養父市、福岡県福岡市、福岡県北九州市、沖縄県、秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県、広島県、愛媛県今治市

これらの国家戦略特区については、内閣総理大臣および都道府県知事から「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」についての認定を受けることで、同事業については旅館業法の規定が適用されないというルールになっています。つまり、国家戦略特区に指定されている自治体は自ら条例を定めることで「特区民泊」を行うことができるということです。国家戦略特区の全てで「特区民泊」ができるわけではなく、あくまで条例を定めた自治体だけ、という点には注意をしましょう。

【参考サイト】首相官邸「国家戦略特区」

国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業とは?

「特区民泊」の正式名称である「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」とは一体どのような事業を指すのでしょうか。現行の日本の法律では、原則として宿泊期間が1ヶ月未満の施設では旅館業法が適用され、フロント設置、宿泊者名簿の作成義務、衛生管理、保健所による立入検査など様々な義務が課されます。しかし、国家戦略特別区域法第13条では、下記のように定められています。

国家戦略特別区域会議が、国家戦略特区法の特定事業を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を受けたときは、当該認定の日以後は、国家戦略特区法の特定事業を行おうとする者は、その事業について都道府県知事の特定認定を受けることにより、その事業には、旅館業法の規定は適用されない。

具体的には、「国家戦略特区において外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき条例で定めた期間(3日~10日)以上使用させ、滞在に必要な役務を提供する事業として政令で定める要件に該当するもの」については、旅館業法の適用除外となります。なお、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」という名前がついているものの、実際には滞在するのは日本人でも外国人でも構いません。

それでは、「滞在に必要な役務を提供する事業として政令で定める要件」とは一体どのような要件なのでしょうか。次はその特区民泊の認定要件についてご説明します。

特区民泊認定の主な認定要件

特区民泊の認定を受けるための主な要件としては、下記が挙げられます。

  1. 宿泊施設の所在地が国家戦略特別区域内にある
  2. 宿泊施設の滞在期間が(2泊)3日~(9泊)10日までの範囲内で自治体が定めた期間以上
  3. 一居室の床面積は25㎡以上。(ただし自治体の判断で変更可能)
  4. 施設使用方法に関する外国語案内、緊急時の外国語による情報提供、その他の外国人旅客の滞在に必要な役務の提供
  5. 滞在者名簿の備え付け
  6. 施設周辺地域の住民に対する適切な説明
  7. 施設周辺地域の住民からの苦情および問合せに対する適切かつ迅速な対応

2016年10月31日に国家戦略特別区域法施行令及び施行規則の改正が施行され、それまでは(6泊)7日~(9泊)10日と定められていた宿泊期間が、滞在者の現実的な需要も加味されたうえで(2泊)3日~(9泊)10日までと緩和されました。一方で、近隣住民との調整や滞在者名簿の備付けなどの要件については新規に追加されました。

上記以外にも衛生設備や消防設備など様々な細かい要件を満たす必要がありますが、認定要件を満たすことさえできれば、特区民泊は分譲マンションの一室といった区分所有の建物で運営することも可能です。

なお、区分所有建物で特区民泊の認定を受ける場合、管理規約において区分所有者がその専有部分を特区民泊に使用することが「できる」旨を明示した規定があるときは特区認定の対象となります。一方で、「禁止する」旨を明示した規定があるときは、特定認定の対象外となります。 また、管理規約が標準管理規約のままとなっており、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」との規定がある場合については、管理組合として既に特区民泊を禁止する決議をされている場合を除き、特定認定の対象となります。これは、特区民泊という制度自体がもともと住宅としての施設利用を前提とした制度となっているためです。

特区民泊のメリットとデメリット

特区民泊は、他の方法で民泊事業を運営する場合と比較してどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここでは、分かりやすく旅館業法簡易宿所、住宅宿泊事業法(民泊新法)と比較をしてみました。

特区民泊 住宅宿泊事業法 旅館業法簡易宿所営業
許認可など 認定 届出 許可
提供日数の制限 2泊3日以上の滞在が条件 年間営業日数180日以内(条例で引き下げ可能) なし
宿泊者名簿の作成・保存義務
玄関帳場の設置義務 なし 宿泊者名簿の作成・保存ができれば物理的設置は求めない。 なし(条例による設置義務付けも可能)
最低床面積(3.3㎡/人)の確保(宿泊人数の制限) 一居室の床面積原則25㎡以上(自治体の判断で変更可能)
上記以外の衛生措置
(換気、採光、証明、防湿、清潔などの措置)

(定期的な清掃等)

(換気、採光、証明、防湿、清潔などの措置)
非常用照明などの安全確保の措置義務
(建築基準法において措置)

(家主居住型で民泊部分の面積が小さい場合は緩和)

(建築基準法において措置)
消防設備の設置(消火器、誘導灯、連動型火災警報器)
(建築基準法において措置)

(家主居住型で民泊部分の面積が小さい場合は緩和)

(建築基準法において措置)
近隣住民とのトラブル防止措置
(近隣住民への適切な説明、苦情対応)

(宿泊者への説明義務、苦情解決の義務)
(届出時にマンション管理規約、賃貸住宅の賃貸契約書の確認)
なし
不在時の管理業者への委託義務 なし なし

旅館業法簡易宿所との比較

旅館業法簡易宿所と比較した際の特区民泊のメリットとしては、認定手続きにかかる手間とコストが少なくて済むという点が挙げられます。一方で、旅館業法簡易宿所の許認可を取得すれば、1泊2日の滞在も受け付けることができますが、特区民泊では2泊3日が下限となるため、ビジネス出張など短期宿泊客のニーズに対応しづらいというデメリットがあります。

住宅宿泊事業法(民泊新法)との比較

住宅宿泊事業法と比較した際の特区民泊のメリットとしては、何と言っても年間営業日数制限はないため一年を通じて宿泊施設運営をすることができ、収益性を担保できるという点が挙げられます。一方で、住宅宿泊事業法の場合は届出制と手続きも簡易で、全国どこでも民泊事業が運営可能ですが、特区民泊の場合は運営が戦略特区内に限られるという点と、認定のための手続きやコストがかかる点はデメリットとして挙げられます。

特区民泊が可能な自治体

2017年9月現在、特区民泊が可能な自治体の一覧は下記となります。各自治体の特区民泊に関する取り組みの経緯、特区民泊認定施設の一覧、規則・ガイドライン詳細については下記から確認可能です。

特区民泊に関する最新情報の一覧

特区民泊に関する関連サイト

特区民泊に関連するサイトの一覧を下記にまとめていますので、ぜひ参考にしてください。