政府は2017年2月22日、自民党の国土交通部会など合同会議のなかで、住宅の空き部屋を有料で旅行者に貸し出す「民泊」のルールを定めた住宅宿泊事業法(通称、民泊新法)の概要を説明しました。同法案は2017年3月10日に閣議決定され、2017年6月2日に衆議院を通過、2017年6月9日の参議院本会議にて可決・成立しました。住宅宿泊事業者の登録申請受付開始日は2018年3月15日、住宅宿泊事業法は2018年6月15日に施行されました。
住宅宿泊事業法(民泊新法)の詳細については、下記ウェブサイトを参照してください。
ここでは民泊新法の概要をまとめています。新法の施行に合わせて民泊事業への参入を検討されている民泊ホストおよび事業者の方にとって少しでも参考になれば幸いです。
民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要
住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)は、民泊に関わる一連の事業者の適正な運営を確保しつつ、国内外からの宿泊需要に的確に対応し、観光客の来訪や滞在を促進することで日本経済の発展に寄与することを目指して定められる法律となります。民泊新法の対象となるのは、下記3種類の事業者となります。
- 「住宅宿泊事業者」:民泊ホスト
- 「住宅宿泊管理業者」:民泊運営代行会社
- 「住宅宿泊仲介業者」:Airbnbをはじめとする民泊仲介サイト
民泊新法においては、それぞれの事業者に対して「届出」や「登録」など事業運営において必要となる手続き、および事業者として実施するべき「業務」の内容、そしてそれらの「監督」権限について詳しく定められています。ここでは、事業者ごとに対応するべきポイントを絞ってご紹介していきます。
民泊ホスト(住宅宿泊事業者)の義務
民泊新法の施行後は、民泊ホストは都道府県知事(保健所設置市はその首長)に対して「届出」をすることで、旅館業法の許認可がなくとも「住宅宿泊事業」、つまり民泊を運営することが可能となります。民泊ホストに対する規制の主なポイントは下記となります。
民泊ホスト(住宅宿泊事業者)に必要な届出内容
民泊を運営するためには、下記内容を届け出る必要があります(下記以外の情報が必要となる可能性もあります)。
- 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
- 住宅の所在地
- 営業所または事務所を設ける場合はその名称と所在地
- 住宅宿泊管理業務を委託する場合は、委託先の住宅宿泊管理業者の商号など
- 図面の添付
なお、届出自体は民泊新法の施行前でも可能となる見込みです。ただし、その場合でも施行日において届出をしたものとみなされるために、実際の営業活動は施行後となります。
民泊ホスト(住宅宿泊事業者)の業務
民泊ホストとして民泊を運営するにあたっては、下記のルールを守る必要があります。
- 一年間の営業日数の上限は180日以内
- 各部屋の床面積に応じた宿泊者数の制限、清掃など衛生管理
- 非常用照明器具の設置、避難経路の表示、火災・災害時の宿泊者の安全確保
- 外国人観光客向けの外国語による施設案内、交通案内
- 宿泊者名簿の備え付け
- 周辺地域の生活環境悪化防止のため、外国人観光客に対する外国語を用いた説明
- 周辺地域の住民からの苦情、問い合わせに対する適切かつ迅速な対処
- 届出住宅ごとに公衆の見えやすい場所に国が定めた様式の標識を表示
- 宿泊日数の定期的な報告
最大の焦点であった営業日数上限については180日以内という形で固まりましたが、その他にも民泊ホストとして運営するにあたっては宿泊者の安全確保や周辺住民への配慮など様々な業務の遂行が求められます。
また、民泊ホストは、下記に該当する場合は、民泊の運営業務を住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)に委託することが求められます。
- 届け出た住宅の部屋数が、民泊ホストとして対応できる適切な管理数を超える場合
- 届け出た住宅に宿泊者が滞在する際、不在となる場合
ただし、2点目のポイントについては、民泊ホストが自身の生活の拠点として使用している住宅と、民泊貸し出し用に届け出た住宅との距離や、その他の事情を勘案した結果、委託の必要がないと認められる場合は、住宅宿泊管理業者に物件を委託する義務は免れます。
民泊ホスト(住宅宿泊事業者)に対する監督
民泊ホストに対する監督としては、適正な民泊運営のために必要があると認められる場合、行政職員に対して届出住宅に対する立ち入り検査をする権利が付与されます。例えば180日以上の営業をしていると地域住民からの通報があった場合などは、立ち入り調査の対象となることは十分に考えられるでしょう。
民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の義務
続いて、民泊運営代行会社の義務についてご紹介していきます。民泊ホストからの委託を受けて民泊運営を代行する会社は、国土交通大臣の登録を受ける必要があります。
民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の登録
住宅宿泊管理業者としての登録にあたって必要となる主な情報および手続きとしては下記が挙げられます。
- 登録は5年ごとに更新
- 登録時には登録免許税(9万円)の支払
- 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
- 営業所または事務所の名称および所在地
また、新法制定後は、住宅宿泊管理業者の登録簿が一般に公開されるため、民泊運営代行会社が登録をしているかどうかがすぐに分かるようになります。
民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の業務
住宅宿泊管理業者として登録を受けた民泊運営代行会社は、業務の遂行にあたり下記のルールを守る必要があります。
- 名義貸しの禁止
- 誇大な広告の禁止
- 管理受託契約の締結時には、書面の交付による説明
- 管理業務の全部の再委託の禁止
- 従業員に対し、登録業者である証明書の携帯の義務づけ
- 営業所または事業所ごとに国が定めた様式の標識を掲示
新法施行後は、登録を受けた民泊運営代行会社は登録済の業者であることを対外的にはっきりと示す必要があり、加えて名義貸しや全部委託といった形での運営も禁止されることになります。
民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)に対する監督
民泊新法においては、民泊ホストと同様に、民泊運営代行会社に対しても行政職員による立ち入り検査権限が付与されます。例えば営業日数上限を超えた違法な民泊運営代行を行っている可能性があると判断された場合、立ち入り調査や関係者への質問を受ける可能性があります。
住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の義務
最後に、AirbnbやHomeAwayといった民泊仲介サイトの運営企業に対する規制についてもご紹介していきます。民泊新法下においては民泊仲介サイトの運営企業は「住宅宿泊仲介業者」として観光庁長官の登録を受ける必要があります。
住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の登録
住宅宿泊仲介業者としての登録にあたって必要となる主な情報および手続きとしては下記が挙げられます。
- 登録は5年ごとに更新
- 登録時には登録免許税(9万円)の支払
- 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
- 営業所または事務所の名称および所在地
民泊仲介サイトは、民泊運営代行会社と同様に登録が求められます。今後、民泊新法の施行に伴い海外勢のみならず国内企業発の民泊仲介サイトもさらに増加していくことが予想されますが、それらの仲介サイト運営会社は全て登録を受ける必要があります。
住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の業務
住宅宿泊仲介業者として登録を受けた民泊仲介サイトは、業務の遂行にあたり下記のルールを守る必要があります。
- 名義貸しの禁止
- 宿泊者との宿泊契約「住宅宿泊仲介契約」の締結に関し、住宅宿泊仲介業約款を定め、実施前に観光庁長官へ届出が必要(観光庁が標準住宅宿泊仲介業約款を定めて公示した場合、同一のものを使用する場合は届出不要)
- 民泊ゲストおよびホストから受ける手数料の公示
- 宿泊者との宿泊契約締結時、書面の交付による説明
- 営業所または事業所ごとに国が定めた様式の標識を掲示
住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)に対する監督
民泊新法では、住宅宿泊仲介業者に対する業務の改善・停止命令などについて、国内に拠点を持つ住宅宿泊仲介業者に対するもの、海外に拠点を持つ外国住宅宿泊仲介業者に対するものでそれぞれ定められており、外国住宅宿泊仲介業者に対しては「命令」ではなく「請求」となっています。また、民泊ホスト、民泊運営代行会社と同様に、民泊仲介サイト運営者に対しても必要と認められる場合には行政職員に立ち入り検査権限が付与されます。
民泊新法(住宅宿泊事業法)に違反した場合の罰則
民泊新法に違反した場合には、どのような罰則が適用されるのでしょうか。年間営業日数が180日以内という制限がついたとしても、複数の民泊仲介サイトを利用して集客すれば分からないだろうと考える民泊ホストや民泊運営代行会社の方もいらっしゃるかもしれませんが、民泊新法では、気軽に民泊を始めやすくなる一方で、法律違反時の罰則については厳しく規定されています。具体的な罰則としては下記が挙げられます。
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
民泊運営代行会社、民泊仲介サイトに対しては、下記のケースにあてはまる場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という重い罰が科せられる可能性があります。
- 登録がない状況で民泊運営代行や仲介サイトを運営
- 不正な手段により登録を受けた場合
- 名義貸しをして、他人に運営代行や仲介サイトを運営させた場合
6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金
一方、民泊ホストに対しても、下記のケースにあてはまる場合「6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金」という重い罰が科せられる可能性があります。
- 民泊ホストが虚偽の届出をした場合
その他にも、民泊ホスト、民泊運営会社、民泊仲介サイトそれぞれに対して、様々な罰則が規定されていますので、届出や登録の手続きにあたっては罰則についてもしっかりと確認しておく必要があります。
都道府県による上乗せ条例の影響は?
民泊新法では、第18条において、都道府県による条例を用いた民泊に対する過度な規制を防ぐため、下記のように定められています。
当該都道府県の区域のうちに、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要であると認められる区域があるときは、条例で、観光旅客の宿泊に対する需要への的確な対応に支障を生ずるおそれがないものとして政令で定める基準の範囲内において、期間を定めて、当該区域における住宅宿泊事業の実施を制限することができる(「住宅宿泊事業法」案 第18条)
つまり、都道府県が条例を用いて民泊を制限できるのは騒音など生活環境の悪化防止が必要だと認められる区域のみで、かつ観光客の需要への対応に支障をきたす恐れがないケースに限られるということです。都道府県が自らの権限でむやみやたらに条例を定めて民泊を規制できるわけではありません。
しかしながら、民泊新法制定後の動きをめぐっては、せっかく新法が制定されたにもかかわらず、民泊に対して地方自治体が条例を上乗せして規制をかけているとの指摘があり、各自治体の対応や条例制定の動向も注目されています。
住宅宿泊事業法(民泊新法)に関するよくある質問
ここでは、住宅宿泊事業に関するよくある質問をまとめています。
180日の年間営業日数制限は、物件に紐づくの?ホストに紐づくの?
住宅宿泊事業には180日という年間の営業日数制限が課せられていますが、この制限は、届出をするホストに紐づくものなのでしょうか?それとも届出する物件に紐づくものなのでしょうか?結論から言うと、180日という制限は、ホストではなく物件に紐づきます。そのため、例えば一人のホストが2物件を所有しており、1物件を180日間、もう1物件を180日間それぞれ営業するということは可能です。
物件を借りて民泊運用する場合、新法の対象となるのは民泊ホスト?それともオーナー?
住宅宿泊事業法の下で民泊を運用する場合、自身で所有している物件を運用するパターンと、物件オーナーから賃貸している部屋を運用するパターンの2通りが考えられます。この物件を賃貸して民泊運用する場合、新法の対象となるのは物件のオーナーなのでしょうか?それとも部屋を借りて民泊運用するホストなのでしょうか?この場合、対象となるのは民泊ホストとなります。しかし、民泊ホストが賃貸物件で民泊を運用する場合、オーナーとの契約において転貸との許可がとれていることが前提となり、転貸許可のない物件を民泊として貸し出すことはできません。
届出をしてしまえば、マンションの管理規約に関係なく運用していいの?
マンション管理規約において住宅宿泊事業法が禁止されている場合は、その物件を届出することはできません。国土交通省では、住宅宿泊事業法の施行に合わせて、分譲マンションにおける住宅宿泊事業の実施を可能とする場合と禁止する場合の規定例を示す「マンション標準管理規約」の改正を行い、公表しています。そのため、住宅宿泊事業法を活用して分譲マンションの一室で民泊を運用しようと考える場合、まず管理規約が許可しているかどうかを確認する必要があります。
届出をせずに営業してもし見つかったらどうなるの?
届出をせずに民泊営業をしていた場合は、旅館業法の違反となり、罰則が適用されます。政府は、2017年3月に無許可の旅館営業者に対する罰金の上限額を3万円から100万円に、またその他の旅館業法違反者に対する罰金の上限額を2万円から50万円に引き上げることを盛り込んだ改正旅館業法を閣議決定しています。
複数のサイトを使えば、180日以上営業しても分からないのでは?
政府では、住宅宿泊事業法の施行と併せて民泊に関する苦情や相談を受け付けるコールセンター窓口を設置しています。180日の制限を超えた違法な民泊運用をしている場合、近隣住民からこの窓口に通報され、発覚する可能性があります。また、住宅宿泊事業法では適正な民泊運営のために必要があると認められる場合、行政職員が届出された住宅に対する立入検査をできる権利が付与されているため、立入検査により発覚する可能性もあります。さらに、同法下ではAirbnbのような住宅宿泊仲介業者に対する監督も行われるため、複数の民泊仲介サイトを通じて集客をしている場合、仲介業者への調査から発覚することもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?民泊市場が健全かつ持続可能な形で成長していくためには、法制度の整備が欠かせません。日本は世界の都市と比べて法整備が遅れていましたが、民泊新法が制定されれば、ようやく日本もスタートラインに立つこととなります。新法成立を受けて「民泊市場=合法」という認識が広がれば、今後はこれまで民泊に対して慎重な姿勢を見せていた大手の旅行・不動産関連企業が新たに参入することも想定され、また、民泊事業者向けの融資や保険サービスなど、金融関連のサービスの充実も見込まれることから、市場はますます盛り上がっていきそうです。
(Livhub 編集部)
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