エコツーリズムとは、地域の自然や、自然とともにある暮らし・歴史・文化を体験して学びながら、その保全にも責任を持つ観光のあり方だ。環境省は、地域が主役になり、地域の内と外の人が協働して取り組む仕組みとして説明している。
森や海を「見に行く景色」として眺めるだけでは終わらない。その土地で暮らす人の目を借りて、自然を「一緒に守り、学ぶ相手」として出会いなおす。そこにエコツーリズムの面白さがある。
エコツーリズムとは
エコツーリズム(Ecotourism)は、エコロジー(生態系)とツーリズム(観光)を組み合わせた言葉だ。
環境省は、エコツーリズムを「自然環境や歴史・文化を体験し、学ぶとともに、地域の自然環境や歴史・文化の保全に責任を持つ観光のありかた」と説明している。
訪れた人や地域の子どもたちに自然と暮らしの魅力を伝える。すると、住民も含めてその価値が理解され、保全につながっていく。さらに地域の内と外の多様な人が協働することで、地域を元気にし、持続可能な地域をつくることを目指す。環境省の説明をまとめると、こうした流れになる。
法律での定義
日本には「エコツーリズム推進法」がある。2007年6月27日に公布された法律で、エコツーリズムを次のように定義している。
「観光旅行者が、自然観光資源について知識を有する者から案内又は助言を受け、当該自然観光資源の保護に配慮しつつ当該自然観光資源と触れ合い、これに関する知識及び理解を深めるための活動」
ここでいう「自然観光資源」は、動植物のすみかなどの自然環境だけを指すのではない。自然環境と深く結びついた風俗習慣や、伝統的な生活文化も含まれる。
つまりエコツーリズムで出会うのは、山や海そのものだけではない。その自然とともに受け継がれてきた暮らしも含まれる。
定義には 3 つの要素がある。
- 知識を持つ人から案内や助言を受けること
- 自然や文化の保護に気を配りながら触れ合うこと
- それについての知識と理解を深めること
自然の中で過ごす旅がすべてエコツーリズムになるわけではない。案内・保護・学びの 3 つがそろって、エコツーリズムになる。
サステナブルツーリズムとの違い
サステナブルツーリズム(持続可能な観光)は、訪問者・産業・環境・受け入れ地域のニーズに応えながら、いまと将来の経済・社会・環境への影響を十分に考える観光のことだ。都市の観光も宿の運営も移動も含めて、観光全体の「あり方」を問う広い考え方である。
一方のエコツーリズムは、地域の自然と、自然に根ざした暮らしや文化を体験して学ぶことに焦点を当てた旅のかたちだ。
サステナブルツーリズムが観光全体の目標なら、エコツーリズムは自然を舞台にした実践のひとつ。こう捉えると整理しやすい。2 つの違いは「サステナブルツーリズムとエコツーリズムの違い」で詳しく比べている。
マイクロツーリズム・オーバーツーリズムとの関係
旅とサステナビリティにまつわる言葉は多い。エコツーリズムと関係の深い言葉を並べると、次のようになる。
| 言葉 | 何に目を向けるか | エコツーリズムとの関係 |
|---|---|---|
| サステナブルツーリズム | 観光が経済・社会・環境に与える影響の全体 | エコツーリズムを含む、広い考え方 |
| エコツーリズム | 地域の自然と、自然とともにある暮らし・文化 | 案内を受け、保全に配慮しながら体験し、学ぶ旅 |
| マイクロツーリズム | 自宅から近い地域を旅すること | 近くの自然を地域のガイドと歩けば、2つが重なる |
| オーバーツーリズム | 観光客の集中が、住民の生活や環境、観光客の体験に悪い影響を与えている状態 | 地域で利用のルールを決めるエコツーリズムの仕組みは、集中による負荷を考える手がかりになる |
マイクロツーリズムは「どこへ行くか(近場)」の言葉で、エコツーリズムは「どう過ごすか(案内・保全・学び)」の言葉だ。軸が違うので、両方を同時に満たす旅もある。
オーバーツーリズムは、目指す姿ではなく、避けたい「状態」を表す言葉だ。人気の自然地域ほど、訪れる人の数や歩き方をどう整えるかが問われる。
エコツーリズムを支える仕組み
環境省は「エコツーリズムは、地域が主役になって、地域内外の人と協働して、ボトムアップで取組みます」としている。
ツアーのプログラムやルールのような目に見える成果だけが大切なのではない。話し合いながら協働で進める「プロセス」も、同じくらい重視されている。
協議会と全体構想
エコツーリズム推進法では、市町村が、エコツーリズムを進めたい地域ごとに「エコツーリズム推進協議会」をつくれると定めている。
協議会には、ガイド事業者、地域住民、NPO、自然や観光にくわしい専門家、土地の所有者などが参加する。環境省の説明では、行政・観光・自然保護・農林水産業に関わる人や住民が集まって話し合い、地域が伝えたい魅力(地域の宝)を見つめなおす場だという。
協議会がまとめるのが「エコツーリズム推進全体構想」だ。自然観光資源などをどう守りながら利用していくかをまとめた構想で、法律の要件に合えば国の認定を受けられる。
ガイダンスとルール
環境省は、全体構想で決める柱として、案内の考え方(ガイダンス)と、自然や文化を守り続けるための取り決め(ルール)を挙げている。
案内の考え方は「インタープリテーション」とも呼ばれる。インタープリテーションとは、自然や文化についての知識や経験を、訪れた人に分かる言葉に「通訳」して伝える案内の考え方だ。木の名前を教えるだけでなく、その木が地域の暮らしとどう関わってきたかまで伝えるイメージに近い。
全体構想が認定された地域の例
環境省のページには、全体構想が認定された地域が並んでいる。たとえば次のような地域だ。
- 埼玉県飯能市
- 群馬県みなかみ町(谷川岳)
- 東京都小笠原村
- 京都府南丹市(美山)
- 青森県十和田市(奥入瀬渓流)
- 鹿児島県屋久島町
- 沖縄県竹富町(西表島)
2026年には、伊豆半島(4月15日)、鹿児島県出水市(5月12日)、沖縄県東村(6月10日)の全体構想が新たに認定された。
国の基本方針
エコツーリズム推進法では、政府がエコツーリズムを進めるための基本方針を定め、おおむね5年ごとに見直すことになっている。直近では、2026年3月31日に基本方針の変更が閣議決定された。
環境省は、エコツーリズムを広めるために、交付金、人材育成、エコツーリズム大賞、エコツーリズム推進マニュアルの提供などに取り組んでいる。
エコツーリズムが大切にしていること
エコツーリズム推進法の基本理念は、自然観光資源が持続的に守られることを、エコツーリズムが発展する土台としている。
そのために、生物の多様性に配慮しながら適切な利用の方法を決め、その方法に沿って実施する。実施の状況を見守り、科学的に評価して、次の取り組みに生かす。理念には、こうした流れが書かれている。
理念ではほかにも、地域の多様な主体が連携して地域社会と地域経済の健全な発展に役立つこと、環境教育の場として生かすことが掲げられている。
環境省は、取り組むときの視点として次の 3 つを挙げている。
- 大切にしながら:自然環境や暮らし・歴史・文化を守り、持続的に利用する
- 楽しみながら:訪れる人をもてなすと同時に、地域の人々もワクワク感とやりがいをもって楽しむ
- 地域が主体+協働:訪れる人を迎えるすべての関係者が協力し、自ら考えて動く
守ることと楽しむことが、対立するものとして置かれていない。自然や地域を好きになる人が地域の内外に増えれば、取り組みも続いていく。環境省の説明は、そうした好循環を描いている。
目指す成果には、地域経済への貢献、雇用の増加、交流人口・関係人口の増加、地域への誇りや愛着、暮らしや文化の継承、地域コミュニティの強化が並ぶ。関係人口とは、観光で一度訪れるだけでも移住でもなく、特定の地域と継続的に関わる人のことだ。
旅の中のエコツーリズム
地域のガイドと一緒に歩く
法律の定義の出発点は「知識を有する者から案内又は助言を受け」ることだ。
同じ森を歩いても、地域のガイドがいると見えるものが変わる。足元の植物が昔どう使われてきたか、この沢の水がどの集落の暮らしを支えているか。ガイド付きのプログラムを選ぶことは、自然と人の暮らしのつながりを知るいちばんの近道になる。
その土地のルールを先に知る
エコツーリズムに取り組む地域では、自然や文化を守るためのルールを協議会で決めている。立ち入れる場所、歩く道、人数、時期などがその例だ。
ルールは「禁止事項の一覧」というより、その土地の人が自然とどう付き合ってきたかを伝えるメッセージでもある。出かける前に、行き先の地域が案内しているルールを読んでおくと、現地での体験がぐっと深くなる。
「好き」になって、つながりを持ち帰る
エコツーリズムの仕組みは、旅人を「お客さん」としてだけでなく、地域の宝の価値を一緒に知っていく仲間として迎えるようにできている。
一度訪れた土地の季節の移り変わりが気になる。翌年また同じガイドに会いに行く。そんな小さなつながりが、地域の外から自然を支える力になる。
次に紅葉の山や島の海へ出かけるときは、景色を「見る」旅から、その土地の人と自然を「知る」旅へ、一歩だけ踏み込んでみてはどうだろう。
【参照サイト】エコツーリズムのススメ(環境省)
【参照サイト】エコツーリズムの全体像(環境省)
【参照サイト】エコツーリズム推進法(日本法令外国語訳データベース)
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