あなたは今の旅に満足していますか?
「旅が好き」という人は多くいるだろう。
でも旅に何を求め、どのような行動を取るかは人それぞれ。しかも旅には、娯楽だけではない奥深さがあり、時代の変化とともに旅行者が旅に求めるものや、旅行会社の旅の提供方法なども変化している。
今回の記事では、旅の中で感じたある「物足りなさ」をきっかけに、大手旅行会社から独立して旅行会社を立ち上げ、まだ「SDGs」や「サステナビリティ」という概念が一般化する前からエコツーリズムを手がけてきた、壹岐健一郎さんを紹介したい。
有限会社リボーン代表の壹岐さんは「ココロとカラダが活き活きとなる旅」をプロデュースし、今もなおエコツーリズムやボランティアツアーを催行し続けている。そんな壹岐さんに、エコツーリズムの今後の展望や、旅への想いを伺った。
有限会社リボーン 代表
宮崎県出身。
大手旅行会社 近畿日本ツーリストに22年間勤め、団体営業やメディア販売に携わる。
早期退職をして有限会社リボーンを設立し、エコツーリズムを軸としながらオリジナリティ溢れるツアーや体験を提供している。
学生のときの旅がきっかけで旅行業界へ
──旅行業界を目指したきっかけを教えてください
「旅が好き」というのが根本にあります。私が学生だった1970年代はヒッチハイクやバックパッカーが始まった時代でした。あの頃は学生向けのパッケージツアーというものはまだ無かった時代です。
大学3年生のときにアメリカとメキシコに実際にヒッチハイクに行ってみたんです。ヒッチハイクはちょっと心細いと感じる部分がありましたが、一人旅に憧れもあってチャレンジしました。そんな思い出深い旅の経験もあったし、何より旅が好きだったというのがあって旅行会社へ応募し、就職にいたりました。
──当時、旅行会社ではどのようなお仕事をされていたんですか?
団体営業の部署で勤務し、営業・企画・添乗など幅広く担当しました。また、入社して2年くらい経ったころに新聞広告などを使った新たな旅行の販売手法「メディア販売」が広がり始めたため、観光情報誌の制作も担当した時期もありました。一般的にいう旅行代理店の業務とは少し違った経験もしてきましたね。
「実践する旅行会社でありたい」エコツーリズムに注力した会社を設立
──長年勤めた旅行会社を退職してリボーンを立ち上げた経緯を教えてください
エコツーリズムをやりたいとずっと考えていました。エコツーリズム自体は元々いた旅行会社でもできることです。しかし、それまでのエコツーリズムは採算性を取ることが難しく、会社の事業として右肩上がりの成長が見込めないため、ただ自分がエコツーリズムをやりたいというだけで企画をするには無理がありました。
また、管理職という立場になるとお客様と一緒に旅に行くよりも、社内にいなければならない業務が多くなりました。私は自分で作ったツアーは自分で行きたいと感じていたので、自分で会社をやろうと思い、有限会社リボーン設立にいたりました。
──”エコツーリズム”に注力したのはなぜでしょうか
もともと付き合いのあった顧客の中でエコツーリズムのようなものを求めてる人がいらしゃったので、背中を押されるようなところがありましたね。大きな企業がCO2削減や環境配慮の必要性を感じながらも、取り組むまでにいたっていなかった時代だったので、多くを望まずに小規模な旅行会社であればエコツーリズムを事業としてやっていけると思いました。
でいろいろな所に行っても、私にはなんだか物足りなかったんです。いつも旅先で地元の人との接点を深めるにはどうしたらいいのか、と考えていたので、自分には地域との接点を大切にするエコツーリズムの考え方が合っていました。
<リボーンが掲げるエコツアー7原則>
・少人数制
・優良なガイド
・目的に合った快適かつシンプルな施設の利用
・ツアー参加者同士の学び合いと交流
・共感的理解による協力、協働の体験プログラム
・環境保護、カーボンオフセット
・訪問地域への利益還元
(有限会社リボーンオフィシャルサイトより引用)
人との接点を深められるエコツーリズムの魅力を活かす
──これまでリボーンではどのようなツアーを催行してきたのでしょうか
リボーンを設立してからしばらくは企業研修の中身をツーリズムの立場から考えて実施する依頼を受けたり、法人の会員のためのツアーを企画させてもらったりしていました。
その後、2011年に起きた東日本大震災をきっかけにボランティアツアーをぐっと増やしました。震災が起きた当初は、大きな企業は動きにくい状況でしたがリボーンの会社規模だとすぐに行動に移すことができたんです。
また、廃食油を再生させて燃料にした「天ぷらバス」を使用したツアーも10年以上催行してきました。企業がやりたいけれどできない部分をリボーンが任せてもらったり、一般的な旅行会社では催行が難しいツアーも企画しています。
──さまざまな取り組みをされているんですね。印象に残っているツアーはどのような内容ですか?
特徴のあるものでいえば熱帯雨林の再生ツアーです。ボルネオ島で子どもたちやWWFの会員、学生などにホームステイをしながら森林保全に取り組んでもらうツアーです。
参加者は森林保全や野生動物の保護に携われますし、現地の方はホームステイを受け入れることで収入にもつながって地域経済にも貢献できます。このツアーを通して毎年、現地の方と共同作業で行い、つながりが10年以上続いたのは大変嬉しいことです。
あとは、屋久島町の高校生が、姉妹都市提携しているニュージーランドへホームステイするプログラムも10年以上引き受けています。屋久島とニュージーランドはどちらも自然豊かで似たような雰囲気がありますが、交流する中でそれぞれの町の人がどのような誇りを持って生きているのかなどをお互いに学ぶ内容です。毎年優秀な学生がこのプログラムに参加して帰ってきますね。
──「地元の人との接点を深める」というリボーン設立時の想いが反映されているツアー内容ですね。ツアーに参加された方からはどんな反応をいただいていますか
ツアーを通して学んだことをもとに自分でなにかを始めたり、今やっていることをもっと改善したりしている話を聞いています。ツアーで人とのつながりが生まれてさらに深まって、またその土地を訪れたりした話を聞くととても嬉しいですね。
環境課題への認識や取り組みが時代とともに変化
──最近ではどのようなツアーに取り組まれていますか
先ほど話に上がった「天ぷらバス」ですが、始まって15年以上経ってもうバスが古くなってしまったんですね。そのため今年の10月に「さよなら天ぷらバス」というツアーを最後に催行する予定で、現在満席でキャンセル待ちの状態です。
もともとは、家庭で使った油を回収して無駄にしないようにする運動が当時あったんですよ。その天ぷらバスツアーでは通常であれば捨てるはずの廃食油を燃料にできるバスを使用していました。
しかし、どの企業も環境課題への取り組みを増やしてきて、廃油への需要が高まったんです。従来であればタダで手に入っていた廃油にも価値がついて、値段が高まってきている状況です。
──環境課題への意識が社会全体で高まっていることが分かりますね。これまでの取り組みを経て、壹岐さんにとってリボーンやエコツーリズムはどのような存在になっていますか
自分が健康に楽しく生きるために、エコツーリズムをやらせてもらってるっていう感じがします。「有限会社リボーン」の名前の由来にもなっていますが、「自然の再生を通じて、自分たちがイキイキと生きていけるようにサポートをする」というのがリボーンの1つの業務です。
──ただ自然再生をするだけでなく、エコツーリズムがその後の生き方にも影響を与えるということですね
自分も仕事もプライベートも楽しみながらイキイキと生きていくために、良い意味で「公私混同しながら」仕事をできるのが私としてはありがたいなと思ってます。その方が楽しいですから。
旅は取り返しのつく人生
──エコツーリズムやサステナブルな事業に取り組みたいけど、なかなか取り組めない方へアドバイスをお願いします
今では副業を推進したり、会社や上司が背中を押してくれたりする企業が多くあってうらやましいなと感じます。なのでそういった環境をフル活用したらいい。そのときに何をやるのかが重要ですが、私は現場を踏むことが優先だと思っていますし、旅は取り返しのつく人生だと考えています。
だからもっと堂々と旅行に行ってみて、自分の可能性を試してみてもいいと思うんです。取り返しがつくから何度でも試してみればいいと思います。
──「旅は取り返しのつく人生」素敵な言葉ですね。
なんとなく旅に行けたらいいなと思いながらも迷っている人が多いかと思うので、まずは短い旅でもいいので出かけてみたらいいのではないでしょうか。
実際に旅に出てみて、あまり無理しないですぐ帰ってきてもいいと思います。そうすると消化不良で物足りなさ、欲求不満が残る。そこから次の旅の動機が始まるような気がします。
至れり尽くせりで満腹になる旅ではなく、物足りないからこそ、自分の中から何かを目覚めさせる、何かを見つけるための旅になる。とにかく行って帰ってくるだけでも意味があると思いますよ。
──「再生」や「生まれ変わり」を意味するリボーンとリンクする旅の考え方でとても素敵だなと感じました。本日はありがとうございました。
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壹岐さんの「旅は取り返しのつく人生」という言葉。これまでさまざまな旅に関わり、自身も旅に出ていた壹岐さんだからこそ感じる旅の捉え方だ。旅に出て、旅先でいろいろなものに触れてみて、また旅をするきっかけを見つけていく中でどんどん旅が好きになるのかもしれない。
今の旅に物足りなさを感じているのなら、すでに旅の魅力には気がついているだろう。必ずしも一回一回の旅に満足する必要はないが、また旅に出てみようとする心持ちが大切だ。
まずは一歩踏み出すところから始めてみよう。壹岐さんが言うように、旅は何度でも挑戦できる「取り返しのつく人生」なのだから。
【参照サイト】有限会社リボーン 公式サイト
高橋 真理
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