真珠を育むアコヤ貝は、何を語る?伊勢志摩・英虞湾の里海を守る、浜の清掃レポート

Sponsored by 日本真珠輸出組合

「アコヤ貝も生き物だからね。褒めれば柔らかくなるし、怒れば硬くなるんだよ」

そう話す真珠養殖職人たちは、アコヤ貝と丁寧に会話をしながら、3年以上の月日をかけて1粒の美しい真珠を生み出す。

そんな嘘のような本当の話を聞いたのは、三重県は志摩半島南部、複雑に入り組んだリアス海岸で構成される英虞湾(あごわん)。ここは、真珠養殖の一大産地として有名だ。

志摩半島 英虞湾 | image via shutterstock

環境の変化にあえぐ英虞湾

英虞湾沿いに車を走らせると、目に入ってくるのは蒼い海に浮かぶ黒いブイや、白い「バール」と呼ばれる発泡ポリスチレン製の巨大な浮き。真珠養殖のために海に浮かべられたいかだには、これらのブイや浮きがくくりつけられている。

そのいかだの先に繋がる養殖カゴにアコヤ貝を納め、海中に沈めることで真珠養殖が行われている。

英虞湾に浮かぶブイや漁具

そんな真珠養殖に使われていた道具たちが、今、浜辺や海中の産業ごみとして地域課題となっている。たしかに養殖場に面した港を歩いてみても、古くなって放置された漁網やロープ、朽ちた木材、黒や白の浮きなどが渾然一体となり、海と陸の境目や港の隅など、あちこちの風景に溶け込んで風化している。

それ以外にも、温暖化による水温上昇や陸上環境の変化による海の栄養不足など、さまざまな要因により、いま英虞湾は転換点にある。人の住む場所に接した「里海」が豊かな自然の循環を持続していくために、里海に対する人間の恩返しとしての具体的な行動が必要だ。

株式会社ミキモト創業者の御木本幸吉翁が真円真珠養殖に成功して以来、英虞湾がもたらす自然の恵みとアコヤ貝の特性を生かし、100年以上にわたって真珠養殖を営んできた志摩市の人々。その英虞湾の環境の変化を目の前に、いま行動を起こさなければという想いが、英虞湾の真珠業界全体に広がりはじめている。

課題解決に取り組む真珠養殖組合と地域住民

風は強いがよく晴れた、ある土曜の朝8時。志摩町の三重県真珠養殖漁業協同組合が、英虞湾に面した「布施田真珠養殖場」前の浜掃除を主催した。この浜掃除に日本真珠輸出組合が協賛し、広く関係各所にボランティアを呼びかけた。

日本真珠輸出組合がこの活動に協力するのは、真珠は輸出産業であり、日本で生産された真珠は海外から高く評価されている一方、真珠のサステナビリティへの取り組みが急務となっていることが理由だ。日本真珠輸出組合は、真珠のライフサイクルからサステナビリティの課題を分析し、喫緊の課題として生産現場の養殖ゴミに着目。数年前からリサイクルおよびアップサイクルへの取り組みを行っている。また、真珠の生産現場では高齢化と後継者不足が課題となっており、ゴミを回収するにも人手不足だという声を聞きつけ、協力に名乗りを上げた。

この日は、志摩市にある布施田、御座、波切、立神の4地域の真珠養殖組合関係者が浜掃除を行ったが、布施田地区の養殖事業者20名が中心となり、日本真珠輸出組合の呼びかけに応えたボランティアの30名を加え、総勢50名ほどが集まった。山口組合長の挨拶の後、さっそく浜掃除を開始。

ボランティアの中には真珠の加工販売業者や小売業者、真珠検定の資格保持者、また同じ英虞湾で真珠養殖場の再生に取り組む人、リサイクルに協力する商社マン、そして小学生も入り混じって、黙々と漁網や浮きを運び続ける。

たまたま英虞湾から散歩に来ていた海の生き物も、そんな人間たちの浜掃除の様子をじっと見つめていた。

一般の参加者が拾うことのできない入り組んだ場所や海上のごみに関しては、真珠養殖事業者たちが船を使って浜まで運搬。小さな船の上は、あっという間にごみで一杯に。

養殖のいかだの一部に使われていたと思われる朽ちた木材は、養殖事業者がチェーンソーを使い、運搬しやすいように細かくカットしていく。積み上げた白いバールも処分できる規定の大きさにカットしてから、志摩市の協力により産業ごみとして焼却処分される。その他のごみは種類別に分別し、袋詰めをしてトラックに皆でせっせと積み込む。

真珠養殖職人、組合員、真珠販売員、地域住民、そして子ども達。さまざまな所属と世代にわたる地域住民による共同作業は、昼前に一旦終了。

ただ、この日の浜掃除は作業だけでは終わらず、ボランティアと志摩市の職員の方、養殖事業者が集まり、それぞれの自己紹介とともに豊かな英虞湾の環境についての想いを話し合った。お昼には、海を眺めながら志摩地方南部の郷土料理「てこね寿司」を食べるなど、参加者同士が交流する場が設けられた。

参加者同士の交流

志摩半島南部の郷土料理「てこね寿司」

この浜掃除は、志摩町の各地域の真珠養殖組合が交代で主催しながら、今後も定期的に続けていくそうだ。日本真珠輸出組合は今後も継続してこの活動を支援し、次回以降は水中ダイバーも動員して、海中のごみを集め、陸と海中のゴミの比較なども行う予定だ。さらに日本真珠輸出組合は、集めた廃漁具などを資源として循環させることを目指し、総合化学メーカーや素材メーカー、商社と連携して研究や実験を続けている。

たとえばこれまでには廃漁網のアップサイクルアイデアを考えるためのワークショップを開催したほか、現在は焼却処分している白いバール(浮き)についても、将来的には新たな製品の素材や燃料として再活用することを検討している最中だ。「最終的には使い終えた漁具が資源として循環する、循環型の経済を目指したい」と関係者は話す。

廃棄された養殖カゴ

浜掃除の締めは、この日集めた成果の前で、参加者一同で記念撮影。うずたかく積まれたごみの気配を背中に感じながら、この取り組みが続いていく意義をあらためて実感した。

英虞湾のアコヤ貝はいま、何を語る?

浜掃除を終えた後の交流の冒頭では、覚田真珠株式会社代表であり、日本真珠輸出組合の理事長も務める覚田譲治さんがこんな話をしてくれた。

覚田真珠株式会社 代表取締役 覚田譲治さん

「先日の海外のトレードショーで、ある有名な欧州のブランドの担当者が私の所に来てまずこう言いました。『取引を始める前に、アコヤ貝養殖の過程で環境課題への対策が行われているかについての資料を送って欲しい。商談はそこから始まります』」

近年ヨーロッパのファッション業界のトップブランドは、「自社のものづくりによる環境の影響をはかる際には自社内の工程だけではなく、サプライチェーン、つまり原材料の供給過程すべてを遡って環境インパクトを評価する必要がある」という考えを明確に打ち出している。

その文脈は今、世界に広がりつつある。もちろん日本から世界に向けて原材料を提供する立場である真珠養殖業界も含めて、今やモノをつくる責任と販売する責任、それに伴った環境配慮の証明が必要とされる時代だ。

交流会の最後に、真珠養殖組合の濱⽥清春さんは以下のように語ってくれた。

「こんなに綺麗な浜を見るのはいったい何年振りだろうか。これも大勢の人が浜掃除に関心を持ってくれて、この真珠養殖場に集まってくれたおかげ」と、日に焼けた顔が、はにかんだ笑顔でゆるんでいた。

真珠養殖組合の濱⽥清春さん

一緒に浜掃除に参加した一級品の真珠を生み出すという数名の職人たちも、参加者たちと語り合いながら、綺麗になった浜辺を見つめてしばらくの間その場にとどまっていた。

20世紀初頭の乱獲でその個体数を大きく減らした英虞湾のアコヤ貝は、真珠養殖が発明されたことで人間と共生するようになり、その危機を乗り越えてきた。こうした浜掃除などの地道な環境への取り組みが進む傍で、この英虞湾の海中に生きるアコヤ貝がいま、私たちと話すことができたら──貝たちはいったい何を語るのだろうか。

蒼い海の上にゆるい弧を描きながら走る白い船を横目に、語り合う浜掃除の参加者たちと、その横で走り回る子供たち。

浜掃除に参加してくれた地域の子ども達が大人に成長する頃には、もっと美しく、より豊かな英虞湾が彼らの前に広がっているのだろうか。そんなことを想像しながら、この日浜掃除の舞台となった真珠養殖場を後にした。

記事の最後に、日本真珠振興会が定めている「真珠憲章」を引用して、このレポートを終えることにする。

真珠は、⼤⾃然の育んだ⽣命ある宝⽯であり、その品位ある美しさ故に古代より⼈類に愛されてきた。

我々は、⾃然の⼒と⼈の技との調和によりその天来の美を創り出し、更に⾼めることに専念してきた。

今や真珠は、国際的規模で⽣産され、世界に真珠を愛する⼈々の輸を広げつつある。

我々は、真珠が⼈類の⽣活に潤いと夢をもたらし、ひいては世界平和の使者として⼤きな役割を果たすことを念ずるものである。

真珠は、⾃然と⼈が⽣み出した美の神髄への祈りの賜物である。

我々真珠産業⼈は、真珠の持つ歴史と伝統に⽀えられた神秘的価値を尊重し、真珠⽂化の振興と伝承に貢献するため、世界の真珠産業の先駆者としての経験と⼒量を活⽤し、誇りをもってその使命を果たすことに全⼒を傾注することをここに宣⾔する。

*出典:日本真珠振興会 真珠指針2020

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEASFORGOOD」からの転載記事となります。

【参照サイト】日本真珠輸出組合
【参照サイト】一般社団法人真珠振興会
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