オーバーツーリズムとは?
オーバーツーリズムとは、観光地に訪問客が増加することにより、周辺の自然環境や地元住民の生活の質、そして観光客自身の体験の質にネガティブな影響を及ぼす状況のことを指す。
2016年にアメリカの観光ニュースメディア「Skift(スキフト)」が作った言葉だといわれており、日本語では「観光公害」とも呼ばれる。
観光地に訪問客が現地のキャパシティを超えて集中すると、交通渋滞や街の混雑、ごみ問題、環境や景観の悪化、騒音、文化遺産の破壊といった問題が生じることがある。それにより地元住民の日常生活に支障が生じたり、観光地の本来の価値や魅力が損なわれたり、観光体験の質が低下したりすることにつながっていく。
オーバーツーリズムの現状とその原因
近年、世界的な中間層の増加、便利な旅行予約サービスやLCC(格安航空会社)の普及、SNSの広がりなどによって世界各地で観光客が急増しており、オーバーツーリズムは世界的な問題となっている。
例えば人口約85万人に対して2017年時点で年間約1,800万人の観光客が訪れるオランダ・アムステルダムでは、観光客向けの施設の増加により地元の店舗や商業施設が淘汰され、観光客による迷惑行為や違法な宿泊施設の増加などが問題となっている。
また年間2,500万人もの観光客が訪れるといわれる世界有数の観光地イタリア・ベネチアでは、長年クルーズ船が引き起こす波による地盤の損傷や家賃高騰、公共サービスの低下、景観の悪化などが問題となっている。ベネチア本島ではオーバーツーリズムの影響により地元住民の流出が続き、過去70年間で人口が70%減少したともいわれている。
国連世界観光機関(United Nations World Tourism Organization:UNWTO)によると、1950年に2,500 万人だった世界の国際観光客数は2010年には約9.5億人、2018年には約14億人と大幅に増えており、2030年には約18億人に達するといわれている。
新型コロナ感染症のパンデミックにより一時的にオーバーツーリズムが緩和された観光地もあったが、2023年以降、再び観光客が増え始めたことで世界各地で改めて持続可能な観光のあり方を考える動きが強まっている。
オーバーツーリズム対策の取り組み
こうしたオーバーツーリズムへの対策として一般的に挙げられるのは、訪問・移動の規制や入場料、予約制の導入、特定の活動の禁止などにより観光客数を制限すること。先ほども例に出したベネチアは、2023年1月、日帰り観光客に対して、訪問前に事前予約を行った上で閑散期で3ユーロ、繁忙期で10ユーロの入場料を払うといったシステムを導入した。同時に、歴史地区へのクルーズ船の寄港も禁止している。日本ではオーバーツーリズムの影響を大きく受けている沖縄県・竹富島が、一人当たり300円の入島料を任意で募っている。
しかしそうした制限を設ける場合は、観光による経済効果を損なわないかたちで行うことが重要になる。訪問客と受け入れ地域の住民や産業のニーズを把握しながら、環境・社会文化への影響に配慮して適切なバランスをとっていくことが大切だ。
そのほかには時期や時間帯によって観光客数を分散し平準化させたり、新たな観光地の発掘により観光客を地理的に分散させたりといった対策も行われている。
また日本国内でとくにオーバーツーリズム問題が深刻な京都では、観光オフィシャルサイトでAI(人工知能)を活用した観光快適度の予測や、混雑を避けた観光モデルコースの提案といった情報発信も行われている。
オーバーツーリズムへの取り組み事例
上記のような対策以外にも、世界各国でさまざまなかたちでオーバーツーリズム対策が行われている。
イタリア:ブラーノ島の漁師による観光ツアー
イタリア・ベネチアにあるカラフルな街並みが人気の小さな漁師町ブラーノ島は、毎日数千人の観光客が訪れるといい、オーバーツーリズムによる混雑やゴミ問題が問題となっている。
そこで、地元の漁師がツアーガイドとして観光客を案内し、バードウォッチングやラグーンへのセイリング・釣り体験ツアーなどを通して周辺の自然環境を守る必要性を伝える取り組みが行われている。こうした取り組みは、地元漁師の生計を支えることにもつながっている。
日本:北海道美瑛町の畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」
丘陵地帯に広がる農村風景が有名な北海道美瑛町では、観光客の立ち入りにより畑が荒らされたり、違法駐車により農業に支障が出たりしていたことから、農業と観光を共存させるための取り組みとして畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」が行われている。
10人の農家が中心となったこのプロジェクトでは、農地に「立ち入り禁止」表示の代わりに「農家の思い」を伝える看板を設置し、観光客に地元の人の生活や思いに共感してもらうことで農地を尊重してもらう試みを行っている。看板には農家個人のSNSやオンライン販売サイトのQRコードも設置してあり、目の前の畑でとれた農作物を買うことができたり、人や自然とのつながりを感じたりと新たな観光体験にもつながっている。
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観光は世界中の多くの都市や人々に収入をもたらし、経済・社会・文化的発展に貢献するものでもある。観光のポジティブな面にも目を向けながら、自然・文化・経済のバランスをとり、持続可能な観光のあり方を探していくことが大切だろう。旅行者としてできることは、人気観光地に行く場合には、ピークシーズンを避けオフピークに訪れる、その土地において守るべき規則を事前に確認してから向かうといったこと。また、混雑する有名観光地ではなく、ローカル文化が根づく小さな町や地域を訪れてみるのもおすすめだ。
執筆:Arisa Kawano
編集:飯塚彩子
【参照サイト】「オーバーツーリズム(観光過剰)」? 都市観光の予測を超える成長に対する 認識と対応|UNWTO
【参照サイト】持続可能な観光先進国に向けて|観光庁
【参照サイト】Explore the wilder side of Venice—with the help of its fishermen
【参照サイト】農業と観光を共存させるための取り組み 美瑛町の畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」|JNTO
【参照サイト】lonely planet | Day-trippers to Venice must soon pre-book and pay to enter
【関連記事】竹富島の夜と朝に見えた景色「わたしたちは、ここで暮らしている」
Arisa Kawano
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