東京都観光部に聞いた「東京島エコツーリズム」企画の裏側

東京都民が東京の新たな魅力を体感・発掘して、都民みんなであしたの東京をつくっていくために、2022年度に東京都が行った参加型プロジェクト「あしたの東京プロジェクト」。

本プロジェクトでは、2022年9月に奥多摩町外にて「多摩クリーン&クラフトキャンペーン」、11月〜12月に大島・神津島・八丈島にて「東京島エコツーリズム」、そして今年2月には東京都庁 都民広場にて「東京ランタンセレモニー」が行われた。

「東京島エコツーリズム」の八丈島編に参加をした際の体験記は『八丈島の山がつないだ、見ず知らずの “わたしたち”。東京都主催「東京島エコツーリズム」体験記』からぜひ。

本記事では、八丈島にて同じ山に登った仲でもある「あしたの東京プロジェクト」の企画担当、東京都産業労働局観光部企画課 シティセールス担当の篠原圭さんに、企画背景や実施後の感想などを伺った。

上段左から二番目が篠原さん / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

Q:あしたの東京プロジェクトとは?

あしたの東京プロジェクトは、東京都民の皆さまや、東京都の事業者の皆さまが、東京の魅力や社会課題を改めて理解するとともに、地元である東京への理解、愛着を深めることを目的とした参加型のキャンペーンです。

写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

Q:あしたの東京プロジェクトを実施するに至った経緯とは?

東京都では「PRIME 観光都市・東京」を実現するため、2022年2月に観光戦略(「PRIME 観光都市・東京 東京都観光産業振興実行プラン ~観光産業の復活と持続的な成長に向けて~」)を策定しており、その戦略のひとつに「持続可能な観光の推進」を掲げています。

持続可能な観光とは、観光が生み出す負荷や悪影響を軽減する「持続可能な観光地」となること、また経済・文化・環境のバランスをとりながら、地域に暮らす住民の皆さんに配慮した観光を推進することと捉えています。

東京都として持続可能な観光を推進していくうえで、また東京の多様な魅力を世界に発信し、観光都市としてのブランドを浸透させるためにも、都民の方々に自らの住む都市・地域の魅力について理解と共感を深めてもらい、世界中から訪れる旅行者を歓迎するような気運を高めていきたいという目的があり、本事業を企画したところです。

Q:なぜ多摩地域や 「島」を体験場所として選んだのでしょうか?

東京で観光と考えると、ぱっと頭に浮かぶのは浅草やスカイツリー、渋谷、新宿など区部を中心としたいわゆる「都市観光」が多いかと思います。しかし、実際には東京には多摩地域や島など、「自然観光」を楽しむことのできる、知られざる魅力を秘めた場所もあります。

特に東京の島は、都心からのアクセスが良いにもかかわらず、東京にいることを忘れてしまうような日本各地のリゾート地にも引けを取らない魅力が詰まっていると思っています。しかし、意外と伊豆諸島と小笠原諸島の島が東京だということを知らなかったり、そもそも島の存在自体を知らない方も多く、ぜひ取り上げて皆さんにその魅力を発信していきたいと思い、選定しました。

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神津島 天上山トレッキング / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

Q:東京島エコツーリズムの企画時のこだわりを教えてください

今回のプロジェクトでは、東京の魅力や社会課題を改めて理解していただきたいという目的があったので、企画に際して事前に、各島に現在各地域が抱えている課題をヒアリングしました。各島からは、人口減少・過疎化、またそれにともなう地場産業の担い手不足、海岸への漂流物などの課題が挙がりました。

今回テーマとして、「学ぶ」「ふれあう」「楽しむ」「守る」というキーワードをたてていたので、各地域の抱える課題感も踏まえつつ、テーマにあったツアーになるよう企画を構成していきました。例えば八丈島のツアーでいえば、ポットホール散策で「学び」、黄八丈体験や酒造見学で地元の人や地場産業に「ふれあう」、当日は悪天候で中止になりましたが星空観測で「楽しむ」、八丈富士トレッキングを通して自然環境を「守る」といった体験を行いました。

また、地元の人との交流や、現地ガイドの方による案内は大事なポイントと考え、3島通して企画時に意識をしました。実際にツアーを通して島在住の方と参加者の方々がふれあう場面は多く見られましたし、ガイドについても、個人旅行ではあまりつけることの少ない現地のガイドさんがいたことで、島の地形やなりたち、風習・文化・歴史なども知っていただくことができて、アンケートを見ても参加者の方からも非常に好評いただいたようでした。

Q:どのような理由でどういった方々が参加されていましたか?

参加理由としては、アンケートをみる限りだと、「もともと島に行ってみたかった」「アクティビティの内容が魅力的でやってみたいと思った」「社会課題や島の魅力を感じてみたかった」と回答されている方が多かった印象です。

大島と八丈島は比較的まんべんなくいろんな年代の方が参加してくださいました。神津島は、10〜20代の方が多かったのですが、ツアーが終わった後に「短期で移住してみたい」とか「またぜひ来てみたい」といった話もあがっていて。各島、人口減少という課題があるので、そういう感想を持っていただけたのはとても良かったなと思います。

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神津島ツアー参加者のみなさん / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

Q:篠原さんは3島のツアーを実施してみてどのように感じましたか?感じた魅力など

共通した魅力としては、都心からのアクセスがよい一方で東京とは思えないような体験ができるというところかと思います。

大島は、島自体が一個の活火山で、1986年にも噴火があったとガイドの方から聞きました。3つの中でもなんというか「街」という印象を受けたのですが、一方でジオパークがあったり、ユニークな地形の場所が多いのが魅力だなと感じました。イベント当日には「大島一周道路」の一部をサイクリングしたのですが、これがとても爽やかで気持ちよかったです。溶岩が作り出した黒い海岸線や、大島椿のトンネル、牧場併設の農産物直売所で食べた濃厚なソフトクリームなどなど盛りだくさんな内容で。ガイドさんのおかげで、島のなりたちや島民の皆さんの暮らしぶりも伺え、とても充実したアクティビティでしたね。

他にも、大島の生活に根ざしてきた島のアイドル・アンコさんの当時のイキイキとしたお写真を見たり、椿油絞りを体験したのも印象的でした。

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大島ツアーでの写真 / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

神津島は、「星降る島」と言われていて、2020年12月に東京都で初めて星空保護区に認定されたロマンチックな島です。星空保護区の申請に向けて、夜空に光が漏れない光害対策型の街灯・防犯灯に全ての街灯を取り換えるなどの取り組みが積極的に行われていまして、行く前から事前に知ってはいたのですが、改めて現地の星空ガイドの方から、そういった取組・努力のお話を聞いたのが印象的でした。直接「神津島よりも綺麗に星空が見える島は他にもある。けれど、本土からのアクセスが良かったり、星空観測に適した場所を用意していたり、ガイドを育成する取り組みを一体的にやっているというところが評価されて、星空保護区に認定された」と仰っていて。現地に暮らす方の星や土地への想いや、仕事に対する誇りに感銘を受けて、私も星空ガイドになりたいなと思いました。ふふ。島民でないとなれないみたいなんですけどね。

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神津島ツアーでの写真 / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

八丈島は、ハイビスカスが咲いているなど南国っぽい気候で、リゾートといった雰囲気を感じました。

一番印象的だったのはやはり八丈富士登山でしょうか。スタッフの方からは「大変ですよ」と言われ、八丈島在住の方からは「余裕だよ」と言われ。慢性的な運動不足の私としては不安いっぱいで臨みました。

途中までは素晴らしい絶景に感動しながら元気よく登っていたのですが、山の中腹で環境が急変化。周囲が霧に包まれ、風も強く冷たくなって気温も下がって。足場も険しくなって、まさに試練に感じましたね。無事、全員が下山したとき、本土在住・現地在住関係なく、参加者の皆さんが自然に拍手でお互いを称え合う光景には感動しました。

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八丈島ツアーでの写真 / 写真提供:あしたの東京プロジェクト広報事務局

Q:今後の展開は何かありますか?

今回3回やってみて、参加者の方々からの反応も良く、企画のテーマや意図が伝わった手応えを感じています。地域への理解や愛着を高めるというのは一夜にしてなるものではなく、継続性が大事なのではないか考えています。

ツアーに参加しているなかで、現地の方が「意外と自分達より外の人のほうが島のことを知っている」とおっしゃっていたのが記憶に残っている。住んでいる場所の魅力は意外と中にいると見えなくなる。筆者も東京在住だが、東京の魅力は?と改めて聞かれると、はてどこだろうかと首を傾げたくなる。外国から友達が来たらどこを案内するだろう。

自分の土地で新たな発見をすることは、新しい自分に気づくことにもつながる。
自分の土地を好きになることは、自分を好きになることにもつながる。

次の予定のない休みの日には、まだ行ったことのない自分の町を探検してみよう。何かきっと見つかるはず。

【参照サイト】あしたの東京プロジェクト

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飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると“いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。