2024年初夏、スペイン各地で住民が観光客に対する抗議デモを実施した(※1)。理由は観光客の著しい増加による影響、オーバーツーリズムによって物価や家賃が上昇し、地域の住環境が悪化しているからだ。一方で、観光収入を貴重な財源とする都市では、観光客の受け入れに引き続き積極的にならざるをえないこともまた事実だ。
この不均衡を是正し、人にも環境にも良い影響を与える旅行にするために私たちができることは何か。いま世界各地で問題となっているオーバーツーリズムに対する旅行者の心構えと行動のヒントを紹介していく。
オーバーツーリズムを防ぎ、「より良い旅行者」になるためのヒント7選
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01. 旅行は計画の時から始まっている。環境に配慮した交通手段や過ごし方を検討する
環境に配慮するならば、少しでもCO2排出量を抑えて旅行したい。世界最大のグリーン旅行会社のひとつで、環境に配慮した旅行を紹介しているイギリスのResponsible Travelは、いくつかの休暇中の過ごし方を例に挙げ、CO2排出量の計算結果を公表した(※2)。主に目的地までの移動手段、宿泊施設、食事で何を選択するかによって排出量は変化するという。
例えば移動手段を飛行機から電車に変更したり、テントやコテージ、再生可能エネルギーで稼働している宿に泊まる、旅先での食事は肉を避けてヴィーガン食にするなど、環境に配慮した旅行を計画することは、環境負荷を低減する一歩になるだろう。
02. オフシーズン中の訪問を検討し、長期滞在やスローな旅行をしてみる
移動の回数を減らし、旅先でゆっくり過ごすスロートラベルは環境と地元住民への影響を抑えることに役立つ。旅行と観光がもたらす文化的・社会的影響を調査し、コミュニティの持続可能な成長を促進する機関・World Travel and Tourism Council は閑散期や年間を通した旅行を推奨している。ピークシーズンを避けることで観光地の混雑や、休暇用賃貸住宅の急激な市場価値上昇に伴う、家賃高騰の緩和につながるからだ。
ピークシーズンしか長期休暇を取れないという人は、移動回数を減らし、都市部ではなく地方で長期間過ごしてみてはいかがだろうか。長く滞在することでその土地の経済に貢献し、移動によるCO2排出量を抑えることができるからだ。
地元住民の生活の質、旅行者の体験、環境の健全性のバランスを保たれた「三方よし」の旅行を意識したい。
03. 地域の自然の中で学ぶ。その土地の国立公園を訪れてみる
私たち人類は生態系の一部として自然界に存在している。他の生物との共存の中でこそ生かされているということ再認識するために、ぜひ国立公園を訪れてみてほしい。国立公園は、その土地独自の自然の景観、野生の動植物、歴史や文化などの魅力に溢れ、ほとんど手つかずで残された自然を探索することができるからだ。
訪れるときに気をつけたいのが、自然保護区では標識のある道を歩き、植物、砂や貝殻、その他の自然物は持ち帰らず、野生動物に触ったり、餌を与えないなどのルールはしっかり守ること。入園料や寄付金を支払うことで自然の保護活動を間接的にサポートすることもできる。
04. スマホを一定時間手放して、感覚に意識を向けた旅を心がけてみる
ガイドブックや地図を広げて旅をしていた数十年前。しかし今ではスマートフォンさえあれば、地図、カメラの機能だけでなく、自動翻訳や、旅先のレストラン情報や観光地の評価まで検索することができるようになった。
スマートフォンは便利である一方で、その中の情報にだけ気を取られてしまっていないだろうか。便利で手軽な世の中だからこそ、あえて自分の感覚を研ぎ澄ませる旅をおすすめしたい。
どこにいてもインターネットから世界中の情報を得られる時代に、旅に出る醍醐味のひとつは「そこでしかできない体験」だ。旅先での音や匂い、温度はその瞬間、その場所でしか感じることができない。現地の人と話すことで、言葉や文化、価値観の違いを発見することもあるだろう。
近年、SNSの爆発的な普及によって「バズる」ことを目的に、ルールを無視した撮影や過激な行動といった観光客のマナー違反が問題となっている。立入禁止区域には入らない、文化財を傷つけないなどのルールを遵守すること。「画面越しのフォロワー」ではなく、「今目の前にいる相手」がどのような気持ちになっているか想像しながら行動することが重要だ。
05. 近所の良さを再発見。意外と知らない身近な地域で「宝探し」をしてみる
旅行の時間が十分に取れない場合は、地元の魅力を再発見する旅に出てみよう。「いつでも行けるから」と思って後回しにしていた場所や、気が付かなかった新しい発見が意外と多いことに驚くかもしれない。裏道に入ってみたり、いつもなら電車や車であっという間に通り過ぎてしまう場所を時間をかけて散策してみよう。幸せは身近なところに当たり前のように存在している。
移動距離が短いことで、CO2排出量を抑えることもできる。人気の観光スポットに出かけることも良いけれど、混雑のストレスからも解放される「地元旅」も検討してみよう。
06. 地元のレストランや職人の手作り品にお金を使い、交流を楽しむ
旅先で食事や買い物を楽しむ時は、世界的なチェーン店ではなく、地元のファーマーズマーケットや個人経営の小売店を選択して、地域の活性化につながるコミュニティツーリズムを意識してみたい。私たちのお金の使い方次第で地域雇用を生み出し、地域経済の成長の助けになり、風評被害の払拭や復興支援につながることもあるだろう。
ただ買い物をするだけでなく、地元の人との交流も積極的にとると、何気ない会話の中にその土地の暮らしや文化を垣間見ることができる。もしあなたが海外を旅行するなら、「こんにちは」「ありがとう」といった挨拶だけでもその土地の言葉を使ってみよう。挨拶の一言でも人と人とのコミュニケーションはお互いの気分を気持ちよくするだろう。
07. 荷物を最小限にし、地元の人々の暮らしに配慮しよう
旅行中の荷物にも意識を向けてみよう。大きなスーツケースで公共交通機関のスペースを不必要に圧迫して地元の人の生活に支障をきたしていないだろうか。インフラの過剰負担もオーバーツーリズムが抱える問題の一つだ。
交通機関やトイレなどの公共施設の混雑を避けるためにも、荷物は最小限に抑える、ごみのポイ捨てで環境を汚さないなど、その土地に住む人の生活に配慮して過ごすこと。夜中に大騒ぎする、ルールを無視した行動など自分勝手な振る舞いはもってのほかだということは言うまでもない。
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旅行することへの罪悪感や、禁止事項にばかり気を取られてしまってはせっかくの旅行が台無しになってしまう。「できないこと」よりも社会のために自分が「できること」を自問すれば最善の行動につながる。一人ひとりの考えや行動を変われば、周りの行動も変わると信じたい。
私たちの子や孫、その先の代までも「旅行」というレジャーが存在し続けるために。現代を生きる私たちが「持続可能な旅」に意識を向けること、そして旅行を心から楽しむことが何よりも大事ではないだろうか。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。
※1 CNN.co.jp 「マヨルカ島でも大規模デモ、スペイン各地でオーバーツーリズムに抗議」
※2 Responsible Travel 「CALCULATING THE CARBON EMISSIONS OF HOLIDAYS – KEY FINDINGS」
【参照サイト】The Guardian「Be a better tourist! 28 ways to have a fantastic holiday – without infuriating the locals」
【参照サイト】Generator「Tips on How to Be a Good Tourist with Generator」
【参照サイト】Vox「Tips for being a responsible, respectful traveler」
【参照サイト】NATIONAL GEOGRAPHIC「What’s the problem with overtourism?」
【参照サイト】WORLD TRAVEL & TOURISM COUNCIL
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