旅で訪れた地域をより深く味わう「アルベルゴ・ディフーゾ」とは？

忙しない日常を離れていつもとは違う世界を体験するのはまさに旅の醍醐味。こちらの記事では、旅先の文化により深く触れる「アルベルゴ・ディフーゾ」について解説するとともに事例をご紹介します。

「アルベルゴ・ディフーゾ」とは

イタリア語で「アルベルゴ」は「分散した」、「ディフーゾ」は「宿」という意味で、「アルベルゴ・ディフーゾ」は「分散した宿」という意味になります。一般的な宿泊施設では、単一の建物に受付、客室があり、宿泊施設によっては食堂も同一の建物内に完備されています。

対して、「アルベルゴ・ディフーゾ」では、その地域内にある複数の建物を利用して、受付をする場所、客室、食堂を分散し、その地域全体が宿泊施設になります。つまり、その町や村全体がホテルということです。「分散型ホテル」と言われたり、日本では「まちやど」とも呼ばれるアルベルゴ・ディフーゾに近い仕組みの宿泊施設があります。

アルベルゴ・ディフーゾは1980年代にイタリアで発祥した宿泊の形態で、人口減少が深刻な問題となっている小さな村や町に観光客や住民を呼ぶ方法として生まれました。その地域の歴史的な建物を活用していることも多く、旅行者は村や町全体を通して当時の風景や文化を感じることができるでしょう。

また、旅行者を迎える地域では、空き家等の既存施設を有効活用しながら地域全体の活性化を促すことができます。

以下にイタリア、スイス、日本の事例をご紹介します。

1、イタリアのセクスタンティオ・アルベルゴ・ディフーゾ

Image via: Sextantio Albergo Diffuso HP

セクスタンティオ・アルベルゴ・ディフーゾ（Sextantio Albergo Diffuso）は、イタリア中部アブルッツォ州のサント・ステファノ・ディ・セッサーニオというのどかな村にあります。

サント・ステファノ・ディ・セッサーニオは、グラン・サッソ国立公園内に位置する山岳地帯の丘の上にあります。海抜1,250メートルと標高が高く、村の農地や周囲の山々を見渡せる壮大な景色も魅力の一つです。

この村では中世の建造物を改修、維持しながら活用しており、石畳の道と古い石造りの家が立ち並ぶ様子は、まるで映画の世界に入り込んだようです。イタリアの民間団体「イタリアの最も美しい村」にも加盟しています。

セクスタンティオ・アルベルゴ・ディフーゾでは、その石造りの家を利用した客室に宿泊することができます。客室により洞窟のような形状の部屋、木造天井の部屋、暖炉付きの部屋などがあり、建造物の特徴を大切にしながら空調や床暖房なども備え、宿泊者が快適に滞在できるよう配慮されています。レストランでは、地元の新鮮な農産物を使用した料理を味わうことができます。

スイスのコリッポのアルベルゴ・ディフーゾ

Image via: bluewin.ch

コリッポのアルベルゴ・ディフーゾ（Albergo Diffuso Corippo）は、スイス南部のティチーノ州に位置するヴェルツァスカ渓谷にあります。

ヴェルツァスカ渓谷は、イタリアとの国境に近い自然豊かな場所で、その透明度の高さと美しいエメラルドグリーンの水で知られる渓谷を流れるヴェルツァスカ川や、17世紀の石造りの橋「サルティ橋（Ponte dei Salti）」は、地域の象徴的な存在です。

コリッポのアルベルゴ・ディフーゾでは、村のレストランが宿泊の受付やロビーの役割も担っています。村役場前の広場も野外のロビーとして使われます。
20世紀初めの姿をほぼそのまま残す石葺きの伝統的な建物は客室として利用できるようになっています。レストランの木製バルコニーとテラスからは、渓谷の急斜面から、渓谷を蛇行する小川までの景色を望めます。

コリッポのアルベルゴ・ディフーゾは、2017年6月にスイス国内のホテルやレストランでつくる団体「ガストロスイス」の「ホテル・イノベーション・アワード」を受賞しています。