2017年も残すところあとわずかとなりました。今年も2016年に引き続き民泊業界は様々な話題やニュースで盛り上がりました。来年6月からはついに民泊新法も施行されるため、民泊を取り巻く環境は大きく変わることが予想されます。そこで、Livhub編集部では独自の視点で今年一年を振り返り、来年に向けた準備をするために「2017年10大ニュース」と「2018年を占う10のトレンド」と称して民泊の最新動向を総括させていただきました。
Livhubが毎日「点」としてお届けしているニュースが「線」としてつながるよう、過去記事も随時紹介しながらまとめていますので、普段は多忙で全てのニュースをチェックしきれていないという方もぜひ参考にしてください。
2017年10大ニュース
2017年の民泊関連ニュースの中で最もインパクトが大きかったニュースをLivhubが独自の視点で10個厳選し、ピックアップしました。
1. 2016年の訪日客2403万人。4年連続で過去最高、初の2千万人突破。(2017/1/11)
一つ目は正確には昨年に関するニュースですが、2016年の訪日外国人観光客が4年連続過去最高となり、史上初めて2000万人を超え、2403万人まで伸びました。その後、お花見シーズンとなる2017年4月には単月で初めて250万人を超え、日本政府観光局のデータによると、2017年は10月時点で約2370万人となっており、みずほ総研は最新の推計で2017年全体としては最終的に2,800万人まで伸びると予測を出しています。日本政府は2020年までに訪日外国人数4,000万人という目標を掲げていますが、今年は昨年よりも400万人近く数字を伸ばしており、同様のペースで2020年まで成長が続けば4,000万人という目標は到達できる状況となっています。民泊市場の今後を占ううえでもこの訪日外国人数は最も重要な指標の一つです。ぜひ来年もさらなる増加に期待したいところです。
【参照記事】2016年の訪日客2403万人。4年連続で過去最高、初の2千万人突破。
2. 住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立(2017/6/10)
2017年最大のビッグニュースと言えば、やはり住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立したことでしょう。新法は今年の3月に閣議決定され、6月に衆院本会議で可決されました。新法のポイントは、何といっても年間営業日数の上限が180日間と定められた点です。これにより、新法下においては年間を通じた民泊の営業は難しくなったため、「新法+マンスリー」といったハイブリッド型の運用に対する注目も集まりました。また、大手企業などは新法ではなく旅館業法簡易宿所営業のスキームを活用した宿泊施設の建設や運用を続々と進めており、従来のホテルとは異なりキッチンもついた民泊スタイルのホテルや、IoTを活用した無人ホステルなど、新しいタイプの宿泊施設を手がける動きが加速しています。そして、今年の10月には「住宅宿泊事業法の施行期日を定める政令」と「住宅宿泊事業法施行令」も閣議決定され、新法は来年6月15日に施行されることが決まりました。現在はこの施行令に基づき、各自治体が新法に上乗せした独自の条例を定める動きが進んでいます。
【参照記事】住宅宿泊事業法(民泊新法)成立。Airbnb、HomeAwayら声明を発表
3. 楽天とLIFULL、民泊事業に参入(2016/6/22)
民泊新法の成立を受けてさっそく民泊市場への参入を公表して話題を呼んだのが、インターネットサービス大手の楽天と不動産サービス大手のLIFULLです。両社は共同出資により楽天LIFULL STAY株式会社を設立し、民泊事業を始めることを発表しました。約9,000万人の会員を抱える楽天と、800万件以上の物件を掲載する不動産情報サイトを運営し、全国22,000以上の不動産加盟店ネットワークを持つLIFULLとの強力なタッグとなります。楽天LIFULL STAYは既に民泊仲介サイト「Vacation Stay(仮称)」の開設を公表しており、エクスペディアグループのバケーションレンタルサイト大手HomeAway、中国系民泊仲介サイト大手の途家(Tujia)、台湾系民泊仲介サイトのAsiaYo、そして12月には世界最大のオンライン旅行予約サイトであるBooking.comとの提携も公表しており、着々と事業の準備を進めています。来年はこの楽天LIFULL STAYが国内の民泊市場をどのようにリードしていくのか、非常に注目が集まるところです。
【参照記事】楽天とLIFULL、民泊事業参入。楽天LIFULL STAY株式会社設立
4. みずほ銀行とAirbnbが提携(2017/7/25)
7月には民泊仲介サイト世界最大手のAirbnbがみずほ銀行と提携するというニュースが大きな話題を呼びました。新法が制定されるまで金融機関は民泊市場に対してかなり慎重な姿勢を見せており、民泊関連事業に対する融資なども制限されていましたが、その動きが大きく変わることを予感させる出来事となりました。民泊市場が大きく発展するためにはマネーの供給が不可欠であり、その意味でみずほ銀行の発表は民泊業界全体にとっても大きな一歩となったのではないかと思います。また、地方銀行の動きとしては今年10月に秋田銀行が決済サービスを運営するコイニーと提携し、秋田県大館市における農家民泊のキャッシュレス化を進めると発表したほか、11月にはエボラブルアジア社が横浜銀行、四国銀行、京葉銀行の地銀三行と提携し、法人顧客に向けたAirbnb掲載紹介をスタートすると発表しています。今後はメガバンクだけではなくこれらの地方銀行が地方創生の起爆剤として地域の民泊ビジネスを盛り上げていく動きも活発化していきそうです。
【参照記事】Blue Lab、みずほ銀行、Airbnbが業務提携。住宅宿泊事業普及と観光需要創出目指す
5. 民泊新法施行を踏まえ、「マンション標準管理規約」が改正(2017/8/29)
国土交通省は8月29日、住宅宿泊事業法が来年6月に施行されることを踏まえ、民泊を巡るトラブルの防止を目的として「マンション標準管理規約」の改正を行いました。この改正により、管理規約上で民泊事業の実施の可否を明記する旨が示され、この標準管理規約を基に各自治体が地域のマンション管理組合などに新法施行前に管理規約を見直すよう呼びかける動きが全国で一斉に広まりました。マンションの管理規約で民泊が禁止されると、新法施行後も民泊はできません。今後は民泊OKのマンションと民泊禁止のマンションが二分化されていくことになりそうです。民泊投資により収益が稼げるマンションと、民泊禁止により住民の安心・安全は守られるマンション。今後はどちらのタイプが不動産物件としての市場価値を高めていくのかあたりも気になるところです。
【参照記事】「マンション標準管理規約」改正。住宅宿泊事業法(民泊新法)施行踏まえ
6. 2020年のホテル客室数不足は大幅緩和。みずほ総研が試算(2017/10/10)
民泊市場を取り巻くニュースはポジティブなものだけではありません。みずほ総研は9月下旬に、2020年のホテル宿泊需給は従来予想ほど逼迫しない可能性が高く、標準的なシナリオでは最大でもホテル不足客室数は3,800室程度にとどまるとする試算結果を公表しました。2020年に訪日外国人4,000万人という政府目標に足並みを揃えるように、現在東京や大阪、京都、福岡といった都市部では訪日客をメインターゲットとする新規ホテルの建設が続々と進んでいますが、このままだと客室供給過剰に陥る可能性も指摘されています。12月には京都新聞社が、京都市内の宿泊施設の客室数が2015年度末から5年で少なくとも4割増となる1.2万室増える見込みとなっており、京都市が宿泊施設不足の解消に必要と試算した1万室を大きく上回っているとする試算結果を公表しています。今後の民泊市場を占ううえでもホテル客室数の需給バランスからは目が離せません。
【参照記事】2020年のホテル客室数不足は大幅緩和。民泊やクルーズ利用増も影響。みずほ総研が試算
7. 大田区、特区民泊の最低宿泊日数6泊7日を2泊3日へ(2017/10/19)
全国に先駆けて特区民泊を始めていた東京都大田区は今年の10月、特区民泊の最低宿泊日数を6泊7日から2泊3日へと短縮すると公表しました。この条例改正案は12月8日に新法への上乗せ条例案と同じタイミングで大田区議会にて可決されており、来年3月15日から施行予定となっています。特区民泊をめぐっては既に大阪市などが2泊3日の運用を進めており、既に大阪市内の特区民泊件数は大田区の約6倍となる287件(12月14日時点)まで増加しています。大田区でも最低宿泊日数が2泊3日へと緩和されれば特区民泊の収益性は大幅に向上するため、さらに特区民泊件数が増えることが予想されます。
【参照記事】大田区、特区民泊の最低宿泊日数6泊7日を2泊3日へ。条例案についてのパブリックコメントも募集
8. 旅館業法の一部を改正する法律案、衆院本会議で可決(2017/12/5)
住宅宿泊事業法の制定と合わせて兼ねてから注目されていたのが、旅館業法の一部改正です。12月5日に旅館業法の一部を改正する法律案が衆議院を通過し、その後8日に参院本会議で可決され、成立しました。この改正案には違法なヤミ民泊に対する罰則強化などが盛り込まれており、無許可営業者に課す罰金額の上限が現行の3万円から100万円へと引き上げられます。また、立ち入り検査の対象も無許可営業者へと拡大され、立入検査の拒否や虚偽の報告、宿泊者名簿の不備などの旅館業法違反があった場合に対する罰金額の上限も現行の2万円から50万円に引き上げられます。これらの罰則強化がヤミ民泊の撲滅にどのように影響するのかが注目されます。また、今回の改正によりこれまで営業種別が分かれていた「ホテル営業」「旅館営業」も「旅館・ホテル営業」へと統合されることになりました。
【参照記事】旅館業法の一部を改正する法律案、衆院本会議を通過。今国会で成立見通し
9. 京都市、民泊条例案を公表(2017/12/5)
来年6月に施行される住宅宿泊事業法に先立ち、全国で各自治体が独自に民泊を規制する条例案の検討を進めていますが、12月初旬には、京都市が住宅宿泊事業法の施行に先立ち独自の民泊条例案を公表しました。条例案の中では、家主居住型民泊や市の基準を満たした京町家などの例外を除き、住居専用地域における民泊営業を3月から12月まで禁止し、1月と2月の約60日間に限定するという内容が盛り込まれています。また、営業の届出時には過去3か月間に旅館業法の許可を得ないまま旅館営業をしたことがない旨の誓約書の提出を義務付けるほか、管理運営に関しては原則として営業時間中は当該施設内に駐在することを求めつつ、例外として施設客室から「半径800m以内、かつ概ね10分以内」の範囲に事業者または管理者が駐在することを義務付ける、という内容も盛り込まれています。京都市はかねてから民泊に対しては厳しい姿勢を貫いていましたが、条例案もこれまでのスタンスに違わない内容となりました。
【参照記事】京都市、民泊条例案を公表。パブリックコメント募集中
10. 全国初、東京大田区が民泊条例を可決(2017/12/8)
東京都大田区は、全国に先駆けて住居専用地域を含む一部地域において平日・週末に関わらず民泊を禁止する旨を定めた条例を12月8日に区議会で可決しました。民泊を禁止されるエリアには住居専用地域以外にも工業地域や工業専用地域、文教地区なども含まれています。住宅宿泊事業法では、第18条のなかで「都道府県は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる。」と定められています。既に東京では大田区以外にも新宿区が条例案を可決しているほか、その他の区でも続々と条例案が公表されています。
【参照記事】全国初、東京大田区が住居専用地域の民泊禁止条例を可決
2018年を占う10のトレンド
いかがでしょうか?ここまでは2017年に民泊業界で話題になった10大ニュースを取り上げてきましたが、ここからは今年のニュースを基に、2018年以降の民泊市場がどうなっていくのか、Livhub編集部が独自の視点でぜひとも押さえておきたいトレンドと展望をまとめました。民泊に関連する事業を展開されている方や民泊ホストの方はぜひ来年の動きの参考として頂ければ幸いです。
1. 民泊新法施行後の懸念は客室供給過剰?
民泊に携わる方々の多くが最も気になるのが、来年6月の新法施行後に民泊市場全体がどう変わっていくのかという点ではないかと思います。10大ニュースの一つでもご紹介した通り、現在日本では全国各地でインバウンド需要の増加を見越したホテル建設が急ピッチで進んでおり、2020年時点におけるホテル客室の供給過剰が懸念されています。
今後の客室需給バランスを占ううえで鍵を握るのは、現状全国で5万件以上あるとされる民泊物件が新法施行の前後でどのような増減を見せるのかという点です。現在日本で運用されている民泊物件はほとんどが特区民泊の認可も旅館業の許可もない、いわゆる「ヤミ民泊」です。新法の施行と旅館業法の一部改正による罰則強化などが影響し、来年6月を機に現状の「ヤミ民泊」物件が急激に減少すれば、これまでヤミ民泊を受け皿としていた訪日外国人らは合法民泊やホテルに流れるため、懸念するほどには供給過剰には陥らないという可能性もあります。
一方で、新法施行により合法な民泊物件数が増加し続けると、客室供給過剰にさらなる拍車がかかる可能性もあります。現状では各自治体が新法に対する上乗せ条例の検討を進めているうえ、マンション管理規約による縛りなどもあるため、新法施行後に一体どれだけ民泊物件が増えるかは未知数ですが、Airbnbなど民泊仲介サイトの掲載物件数が今後どのように変化していくのかは注視する必要があります。
また、新法施行後はホスピタリティビジネスのプロではない一般の民泊ホストが一定の割合で参入してくるという点にも注意が必要です。特に新法下においては年間180日という営業日数制限があるため、新法を活用して民泊を運営する家主居住型ホストなどの中には副業目的や外国人観光客との交流など、事業収益性自体をあまり重視しない方も多く含まれるでしょう。これらのホストが収益よりも稼働率を重視し、予約をとるために相場よりも低い価格で宿泊の提供を始めると、より市場全体の価格下げ圧力が強まるリスクもあります。
これらの要素も踏まえると、今後の需給バランスの中で民泊事業により安定的に収益を出すためには、ニーズに沿った立地・物件選定や他の宿泊施設と差別化できるサービス、IoTの活用によるローコストオペレーションなど、より戦略性の高い民泊運用が求められるようになると考えられます。
2. 大手企業の参入による業界勢力図の変化
これまで民泊市場のプレイヤーはAirbnbなどの一部プラットフォームを除けばベンチャー企業などの小規模なプレイヤーがメインを占めていましたが、来年はこの構図も大きく変わりそうです。今後はベンチャー企業だけではなく大手企業の参入がさらに増えてくることが想定されます。既に今年も楽天・LIFULLだけではなく野村不動産や大和ハウス、ミサワホームなどの不動産大手らもホテル事業への参入を公表しているほか、12月には住友林業が国内発の民泊仲介サイト「STAY JAPAN」を運営する百戦錬磨との提携を公表しています。
また、もう一つ注目したいのが大手コンビニチェーンによる民泊関連事業への参入です。今年11月には、沖縄ファミリーマートがコンビニでのチェックインを受け付ける事業を始めたことを公表しました。同社の発表に先立ち、8月には経産省が「グレーゾーン解消制度」を活用した企業からの照会に対する回答のなかで「コンビニチェックインとスマートロックを活用した簡易宿所営業をする場合、その宿泊施設に玄関帳場の設置が義務づけられるかどうか」という照会があったことを明らかにしています。
今後、大手コンビニチェーンが大々的に民泊事業に参入し、コンビニでチェックイン・本人確認し、スマートロックの暗号キーを受け取り、そのキーで部屋に入るというスタイルが普及すると、鍵の受け渡しやスマートロック、チェックイン関連サービスを提供している民泊事業者が大きな影響を受ける可能性もあります。
大手企業らによる民泊市場への参入はこれまで民泊市場を盛り上げてきたベンチャー企業らにとっては脅威となる一方で、市場全体がさらに活性化し、パイが増える大きなチャンスでもあります。また、大企業とベンチャー企業との提携や買収なども増えるでしょう。民泊ビジネスには宿泊だけではなくその周辺領域も含めて様々なビジネスチャンスがありますので、どこにどのような機会があるのかを見定め、他社とパートナーシップを組むのか、独自にサービスを開発するのかなども含めてより戦略的な意思決定をする重要性が高まるでしょう。
3. 誰が市場を制するか!?プラットフォーマーの戦い
来年の注目ポイントの一つが、民泊新法施行後の市場をどのプラットフォーマーが制するのか、という点です。現状グローバルではAirbnbの存在感が圧倒的であり、日本国内でもAirbnbの物件掲載数は5万件を超えているなど他の民泊仲介サイトと比較してもダントツの規模を誇っています。しかし、これはそもそも日系大手企業らが法令遵守の観点から新法が制定されるまで大きなアクションがとれなかったことや、STAY JAPANを運営する百戦錬磨などのように既に民泊仲介サイトを運営している企業も合法民泊物件のみしか掲載をしていないことが原因として挙げられます。
楽天とLIFULLは新法施行の決定を待ってようやく民泊事業への参入(楽天LIFULL STAYを設立)および民泊仲介サイト「Vacation Stay(仮称)」の開設を公表しました。11月には民泊・簡易宿所のブランディング・運用代行サービス「RakutenStay」の開始も発表しています。また、既に楽天LIFULL STAYはAirbnb包囲網を構築するかのようにエクスペディアグループのHomeAway、世界最大手オンライン予約サイトのBooking.com、中国の途家、台湾のAsiaYoなどとの提携も完了させています。楽天LIFULL STAYはLIFULLが保有する全国2.2万店以上の不動産加盟店ネットワークを活用して一気に全国の民泊物件を集めることも可能であり、今後の展開によってはAirbnbにとっても大きな脅威となりえるのではないかと想定されます。
一方のAirbnbは昨年11月に新たに「宿泊」だけではなく「体験」も販売できる「トリップ」機能の追加も公表し、今後は宿泊に限らず航空券の予約なども含めて旅行のエクスペリエンスをトータルで変えるプラットフォームへと進化させていく方針を打ち出しています。他社とは異なる世界観で独自の進化を続けるAirbnbの今後の戦略にも期待がかかります。
これまで通りAirbnbが圧倒的な存在感を発揮し続けるのか、それともHomeAwayやBooking.comなどと提携した楽天LIFULL STAYが一気に国内市場を席巻するのか、はたまたSTAY JAPANをはじめとする国内発プラットフォーマーがシェアを高めていくのか。来年はプラットフォーマーの動きからも目が離せない一年となりそうです。
4. ホテルと民泊の境界線がなくなる?
これまでは日本国内の民泊物件のほとんどが違法な「ヤミ民泊」だったという背景もあり、「ホテル・旅館事業者」対「民泊」といったような対立構造がクローズアップされるケースも多くありました。しかし、宿泊ゲストの目線から考えた際に、今後はこの両者の境目はよりシームレスになっていくのではないかと想定されます。
まずプラットフォーマー側の動きを見てみると、Airbnbは既に通常の民泊物件だけではなく、旅館の掲載も積極的に進めており、同社のウェブサイトでも旅館・ホテルの掲載を歓迎するスタンスを明記しています。Airbnbは今年の5月に株式会社エボラブルアジアと業務提携し、同社が開拓したホテル・旅館をAirbnb上に掲載していくことを公表しました。また、9月には一流ホテル・旅館だけを集めた予約サイト「Relux」を運営する株式会社Loco Partnersとの提携も公表しています。これまでAirbnbは旅館業に携わる人々からは敵対視される向きも強かったのですが、現在ではむしろ旅館・ホテルにとっての強力な集客チャネルという立ち位置へと変わりつつあります。
一方これまでホテル・旅館だけを掲載してきたオンライン旅行予約サイト(OTA)側でも、新法施行後は新たに民泊物件も掲載する動きが加速します。Booking.comと楽天LIFULL STAYの提携もその代表例です。
さらに、今年7月には海外ではグーグルが民泊物件やバケーションレンタル物件をグーグル検索エンジン経由で予約できる機能をテスト運用していることも明らかになりました。「ホテル+地域名」で検索すると検索結果で「宿泊施設タイプ」が選択できるようになり、その一つに「バケーションレンタル」が表示されるという仕組みです。
これまでのような既存のOTAと民泊仲介サイトとの境目はなくなり、宿泊施設を探すユーザーはどのプラットフォーム上でもホテル・旅館・民泊物件などタイプを問わず横断で探すことができるようになっていくことが予想されます。
次に、ゲストではなく物件供給側の目線も考えてみます。最近では大手企業らによるインバウンド向け宿泊施設の建設が相次いでいますが、その中でも特に目立つトレンドは、旅館業法簡易宿所営業による民泊スタイルの旅館・ホテルが増えているという点です。
今年10月に京都市が公表したデータでは、市内の簡易宿所施設は今年の4月から9月末までの半年弱で約450件も増えていることが分かりました。うち約100件が京町家となっており、京都の良さを活かした民泊スタイルの宿泊施設がとても増えているのです。
このような世界観を考えると、最終的に大事になってくるのは旅館かホテルか民泊かといった物件種別の問題ではなく、いかにゲストを満足させられるユニークな宿泊体験を提供できるか、という点です。法律上の区分を超えて全ての物件がフラットな環境で競争にさらされる世界観はより加速していくことが予想されます。
5. ビジネストリップ市場の拡大
来年のトレンドを考える上で外してはならないのが、民泊市場におけるビジネストリップ(出張)ニーズの拡大です。Airbnbは昨年には企業向けダッシュボードの提供を開始していましたが、2016年単体で出張目的の利用者が3倍に増加し、全体の10%まで増加していることなどを受けて、今年の5月には新たに「出張対応」(Business Travel Ready)に対応した物件リストのみを表示できる新サービスを公表しました。
また、10月にはブルームバーグの報道により、コワーキングスペース世界大手のWeWorkと提携し、Airbnbゲストが近隣にあるWeWorkのコワーキングスペースを利用できるサービスを始めることも明らかになりました。今後もビジネストラベラー向けのサービスはさらに拡充されることが予想されます。
国内勢としては株式会社TRIPBIZが運営するビジネス出張専用の民泊仲介サイト「TripBiz(トリップビズ)」などが代表的なサービスとして挙げられます。
また、数日から一週間程度の短期出張ではなく、1ヶ月以上の滞在に対するサービスアパートメント・高級マンスリーマンションに対する需要の増加も期待されています。この領域では、シンガポール発のサービスアパートメントプラットフォーム「MetroResidence(メトロレジデンス)」が楽天からの出資を受けて今年の8月から本格的に日本進出を果たしています。
マンスリーマンション・サービスアパートメントなど1ヶ月以上の賃貸契約を締結して出張利用者を受け入れる仕組みは、年間営業日数180日という制限がある民泊新法下における「民泊」との掛け合わせによるハイブリッド運用の手法としても注目を浴びており、今後の伸びが期待されます。
6. 民泊が地方創生の起爆剤になる?
2018年以降は民泊が地方活性化や空き家対策の切り札として広がっていくことも期待したいところです。日本政府観光局のレポート「訪日旅行市場の拡大と地方分散化の現状及びJNTOの取組み」にもあるように、訪日外国人観光客は二回目以降の訪日ではゴールデンルートではない地方エリアに分散する傾向があります。そのため、現在はリピート訪日客の増加により、地方に大きなチャンスが訪れているのです。また、FIT(個人旅行)客の増加や「コト消費」に対するニーズの高まりも地方の観光需要増加を後押しするでしょう。
また、地方の旅館・ホテルなどではそもそもの年間の平均稼働率が50%を下回っている地域も多く、民泊新法の年間営業日数180日という制限は都市部ほどネックとはなりませんし、地方ではピークシーズンが冬や夏などの一時期に集中するケースも多いため、繁忙期シーズンに絞った民泊運用であれば新法のルール下でも十分に採算が合う可能性もあります。
こうした地方における民泊の推進に向けて、バケーションレンタルサイト大手のHomeAwayは今年4月に瀬戸内エリアの広域連携DMOである「せとうちDMO」の事業支援を担う株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションとの提携を発表しました。また、人材サービス大手のパソナは今年8月に徳島県で「徳島市阿波おどり」イベント民泊を実施、Airbnbとの協働により延べ270名以上が期間中に宿泊し、イベント民泊として過去最大規模となる成果を出しました。同社は宮城インバウンドDMOとの連携により宮城県南エリアにおける民泊も推進しています。他にも、楽天LIFULL STAYは今年の10月に福井県鯖江市と空き家活用に向けた提携を発表、12月には岩手県釜石市との提携も公表しました。
地方に民泊が広がり、地方経済が活性化していけば、日本経済全体にも大きな好影響をもたらします。独自の食文化や伝統、自然などの魅力的なコンテンツを数多く保有する地方が「日本ならではの民泊」を世界に提示する主役となれるか、来年の動きにぜひとも期待したいところです。
7. 民泊市場へのさらなるマネー供給
来年の新法施行に向けた動きとして大きく期待したいのが、民泊市場に対するさらなるマネー供給です。新法が制定されるまで、民泊関連ビジネスに流れている資金は主にベンチャーキャピタルからの一部のスタートアップ企業に対するエクイティファイナンスのみに限られていましたが、新法により民泊が全国的に合法化されることで、今後はメガバンクや地銀などの金融機関が民泊関連事業に対して積極的に融資を進めていく流れが期待されます。民泊ビジネスへの融資の裾野が広がれば、より多くの企業が民泊関連事業に参入できるようになり、市場全体が活性化することが予想されます。
また、最近では不動産投資市場において小口から不動産プロジェクトに投資できるソーシャルレンディングの仕組みが流行っていますが、今後は「民泊投資×ソーシャルレンディング」という市場も面白くなりそうです。将来的には「都市と地方」「マンションと一軒家」など異なるエリアや物件タイプを組み合わせてリスクをヘッジした民泊物件のポートフォリオに対して投資ができる金融商品の開発などが進み、一般の個人投資家が気軽に民泊に投資できる仕組みが整っていくことでしょう。事業者側としては、このように資金調達のオプションが増えることで民泊事業を始めるハードルが下がることを期待したいところです。
そして、事業を開始した後のリスクをヘッジする民泊保険商品の普及も重要となりそうです。民泊保険については既に三井住友海上火災保険や損保ジャパン日本興亜などが手がけていますが、今後は民泊仲介サイトや民泊運用代行会社と保険サービスとの連携により民泊保険市場のさらなる拡大も見込まれます。
8. 高まる民泊ビッグデータの価値
民泊市場へのマネー供給増加と連動する形でより重要性が高まると考えられるのが、民泊に関するデータです。具体的には、地域別の民泊物件数や物件タイプといった概要データに加え、物件ごとの稼働率や宿泊単価、ゲスト属性などといったデータに対するニーズはさらに増していくでしょう。民泊事業への投融資の判断をするにあたり、その将来的な収益性を見極めるうえでこれらのデータは必要不可欠だからです。
このデータをめぐる争いは既に始まっており、これまで民泊ホストに対して民泊運用代行サービスを提供してきた会社やIT企業などが、複数の民泊物件運用を一元管理できるクラウドツールの提供などを通じて民泊関連データを収集する動きを進めています。民泊運用管理ツール自体はホストにとってとても便利なツールですが、これらの会社のもう一つの目的は、ツールの提供を通じて現状はブラックボックスとなっている日本の民泊物件に関するリアルなデータを集めることにあります。
現状、国内の民泊に関するデータを大量に保有しているプレイヤーはAirbnbなどの大手プラットフォーマーを除けばほとんど存在していないため、ここには大きなビジネスチャンスが存在しています。民泊ホストや民泊事業者が意思決定をする際のデータとして活用できるのはもちろんですが、不動産会社が民泊専用マンション物件を開発・販売する際の販売価格・利回り設定や、金融機関が民泊関連の金融商品を開発する際の基礎データとしてなど、あらゆるシーンでの活用が想定されます。この民泊ビッグデータをめぐる争いにも注目したいところです。
ちなみに、観光庁は来年度から「宿泊旅行統計調査」に民泊を加えることを公表しており、地域別の件数や稼働率などの基礎的なデータについては誰もがアクセスできるようになる予定です。
9. ブロックチェーンが実現する真のシェアリングエコノミー
民泊事業に関わる以上は、旅行や不動産だけではなくテクノロジーに関するトレンドもウォッチしておく必要があります。2018年以降、特に注目したいテクノロジーの一つが「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳技術です。ブロックチェーンは今年急激な価格高騰により話題となった「ビットコイン」の基盤となる技術ですが、現在では金融分野に限らず様々な産業での活用が期待されています。
ここでは専門的な説明は省きますが、ブロックチェーン技術を活用したプラットフォーム上では、見知らぬ個人同士が信頼できる第三者を介さずとも安全な形で取引ができるようになります。これは、部屋を貸したい個人と部屋を借りたい個人が、Airbnbのようなプラットフォーマーを介さずとも直接契約を交わし、取引できるようになることを意味します。
これまでは、取引相手が信頼するに足る相手かどうかを保証する意味でAirbnbのようなプラットフォーマーが見知らぬユーザー同士の仲介役として存在し、レビュー機能などを通じてお互いの信用を担保していました。プラットフォーマーはそのコストの対価としてホストとゲストから手数料を受け取っていたのです。しかし、ブロックチェーンが実現するPeer to Peerのトラストレスな取引は、この仲介プラットフォーマーの機能を不要にする可能性を秘めているのです。
実際にこのブロックチェーンを活用した新たな民泊プラットフォームの実験は始まっており、ドバイに本社を置くCryptoBNB社は、ブロックチェーンを利用し仮想通貨で取引する民泊プラットフォーム「CryptoBnB」をローンチしています。エストニアの「Zangll」も同様のサービスの開発を進めています。これらのブロックチェーンによるPeer to Peerの民泊プラットフォームは、ユーザーからの手数料で成り立ってきた従来のビジネスモデルを根底から覆す可能性を秘めています。
また、ブロックチェーン上で契約の条件確認や履行を自動的に実行する「スマートコントラクト」技術を活用すれば、1泊2日といった従来型の料金設定ではなく、利用時間に応じた秒単位のオンデマンド課金システムを提供することも可能です。
このような破壊的な変化に対して、Airbnbらの既存プラットフォーマーが何も手を打っていないわけではもちろんありません。Airbnbは既に2016年4月の段階でブロックチェーンを活用したマイクロ決済サービスを開発するスタートアップ企業の「ChangeCoin」を買収しています。
ブロックチェーン技術の進化が2018年の民泊市場にすぐに影響を与えるわけではありませんが、民泊やホテル事業のように10年スパンで長期的に考える必要があるビジネスの場合、今のうちからしっかりと情報収集し、大きな変化に備えておくことが重要だと言えるでしょう。
10. テクノロジー(VR・AR・IoT)が旅行体験を変える
ブロックチェーン技術と合わせてぜひとも最新トレンドを抑えておきたいのがVR(仮想現実)・AR(拡張現実)技術です。VRは仮想空間上で現実空間にいるかのような体験をできる技術で、その逆にARは現実空間上にバーチャルな情報を重ねて表示する技術のことを指します。
Airbnbは12月15日に、新たにVR・ARを活用した新ツールを提供することを発表しました。旅行に行く前はVRで事前に部屋や旅行先を疑似体験でき、旅行中はARを活用してユーザーのスムーズな旅行体験を支援するという内容です。
既に不動産業界ではVR内見のような取り組みなども始まっていますし、旅行業界でもVRを活用した旅行商品販売などが広がっています。民泊とVR・AR技術との相性は非常に良いと言え、今後、この領域のサービスはどんどんと開発されていくことが予想されますので、ぜひともウォッチしておきたいところです。
また、もう一つの大事なトレンドは、IoTを活用した民泊運用です。民泊運用のオペレーションコストを下げるうえで、IoTは大きな武器となります。鍵の受け渡しを不要にするスマートロックなどはその代表例ですが、その他にもメトロエンジン社が提供している室内の騒音を検知してゲストにアラートを出せるセンサー「ポイント」なども非常にユニークです。また、IoTをフル活用することで部屋の温度管理や照明管理などもリモートでできるようになります。これらのテクノロジーを取り入れつつ、いかにオペレーションコストを削減しつつゲストの満足度を上げるかという点も今後は重要になってくるでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。かなり長くなってしまいましたが、今後の民泊市場、民泊関連ビジネスを占ううえで重要だと考えられる大きなトレンドを中心に解説しました。足元では民泊新法の施行を前にそれぞれの自治体がどのような上乗せ条例を制定するのか、各地の条例動向も非常に気になるところではありますが、ぜひ今回取り上げたトレンドなども参考にしつつ、来年の民泊事業の方針策定に役立てていただければ幸いです。
(Livhub 編集部 加藤佑)
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