人と文化が行き交う盛岡バスセンターにホテルマザリウム開業。ヘラルボニーがアートプロデュース

「まざる、うむ、はじまりのホテル」をコンセプトとするホテル「MAZARIUM(以下、マザリウム)」が、岩手県盛岡市のバスセンター内にオープンした。

マザリウムのある盛岡バスセンターは、バスターミナルと商業施設が併設された建物で1960年に開業、2022年10月にリニューアルオープンした。1階、2階に商業施設、増設した3階にホテル・マザリウムが入り、旅行者と地元民のどちらにも長く愛される施設として再スタートをきった。

「いろんなひと、いろんな価値観、いろんなライフスタイル」がまざりあうホテルとして名づけられたマザリウムのアートプロデュースを手がけるのは、福祉施設に在籍する知的障がいのある作家とアートライセンス契約を結び活動するヘラルボニー社だ。

全34客室のうち8部屋をヘラルボニーアートルームとして、岩手県在住の知的障がいのあるアーティスト8名の作品で空間を華やかに演出している。

HOTEL MAZARIUM アートルーム

テラスツインの客室イメージ(19㎡+テラス15㎡)

ビビッドに彩られたファブリックや家具、ウォールアートは、各部屋ごとに趣(おもむき)を変え、現実ときり離されたアート空間へといざなう。

HOTEL MAZARIUM アートルーム

ツインタイプ客室の洗面スペースイメージ

アートルームでは、宿泊費のうち1室1泊あたり500円をアート料として地域の作家や福祉施設に還元する仕組みを導入した。宿泊者はアート作品の世界観を受けとりながら、アート料をとおしてアーティストの今後の活動を応援できる。

部屋タイプは、基本的な機能をそなえたスタンダードルームのほか、プライベートサウナ付きの客室や、テラスのテントでキャンプ気分を楽しめる客室、ジャズをアナログレコードで聴くことができる客室など、スペシャルな宿泊体験を楽しみたい人に向けた客室が用意されており、気分や過ごし方に合わせた部屋選びができる。

同施設内には、フィンランド式サウナ「KANAN SPA」のある大浴場や、ジャズが流れる屋上空間、カフェ・バーを兼ねたラウンジも。ラウンジには、世界で活躍するジャズピアニスト穐吉敏子氏のミュージアムが併設されており、共用スペースにもまざりあう文化を体感できる工夫が散りばめられている。

また、1階のマルシェ、2階のフードホールは、盛岡フードが楽しめる食事処として、地元の人の利用も多い。盛岡のクラフトビールや日本酒、ワインといった酒類や、盛岡のソウルフードであるコッペパンだけではなく、焼き鳥やモツ煮、ラーメンといった食事もあり、盛岡の土産選びだけではなく、空腹を感じたらまず立ち寄りたい場所だ。

伝統と近代がまざりあい、人びとの往来が盛んなこの地ならではのホテルマザリウムの空間にたゆたう文化とアート。出るころには新たな景色が見えていることだろう。

マザリウムのロゴにこめられた思い

HOTEL MAZARIUM ロゴ

マザリウムのロゴやコピー、館内サイン、ウェブサイト等は、あらゆる領域へのクリエイティブディレクションの浸透をめざすSteve* inc.(株式会社スティーブアスタリスク/以下、スティーブ社)が手がけた。同ホテルのロゴにこめられた意図について、スティーブ社代表の太田伸志氏はこう語る。

「(ロゴの図形は)建物の外観の輪郭で、人の動線をイメージしています。いろいろな空間で、人や価値観が交差し、会話し、たくさんあるお店も覗いて。マザリウムで『まざる』ことで、出てくるときには今までとちがう景色が見えている、そんな思いをこめています」

さらに太田氏は、ヘラルボニー代表の松田崇弥氏、松田文登氏とコラボレーションした経緯について「ものを作るのではなく、彼らが作ろうとする『価値観の変容』は、私たちが目指すビジョンと同じでした。たとえばApple社のiPodがただの音楽機器ではなく、何万曲も持ち歩けるようになったことで、音楽の向き合い方がそれまでとまったく変わったように。松田兄弟の障がい者アートの概念を変えたいという信念に共感したのです」と明かした。

太田氏と松田代表ら、地元アーティスト等が手を組み、町の活性を願い生まれたマザリウム。ここにも価値観の「まざりあう」場面があった。

HOTEL MAZARIUM

【参照サイト】HOTEL MAZARIUM | まざる、うむ、はじまりのホテル
【関連ページ】「二拠点生活には自分のルーツと向き合う幸せがあった」Steve* inc.代表太田伸志さんインタビュー

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秋山 綾

アパレル企業、女性誌の編集ライターを経て、紙媒体からウェブ媒体へ移行。幼少期に始めた音楽を通じて表現に興味をもち、好奇心の赴くままに不定期に芸術、文学に関する創作活動を行う。