大きな塀に囲まれた建設現場で、通行人のひとりが足をとめた。視界一面に色あざやかなアートが飛びこんできたのだ。
キャンバスとして使用されているのは「仮囲い」。建設現場のまわりを囲む高さ3、4メートルの塀で、工事中の安全対策や防音などを目的として設置されている。
ビルやマンション、商業施設の完成まで、ただ通りすぎるだけの場所だった建設現場が、最近では新たなアートスポットとして注目されている。
今回はまちを散策をしながら鑑賞できる「仮囲いアート」を紹介する。
ART IN THE PARK(銀座)
銀座・数寄屋橋交差点に現れたのは、水墨画風のタッチで描かれた大輪の花。野生的な筆づかいにオレンジの色彩が融合し、今にも動きだしそうな躍動を感じる。
2022年3月15日よりスタートした「ART IN THE PARK」は、Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)に関わりのあるアーティストの作品を展示する仮囲いプロジェクトだ。
第一弾として選出されたのはSHUN SUDO氏。NYやマイアミ、フロリダなどアメリカ各地で活動し、国内ではNIKEやAppleといった企業とコラボレーションしている。
「ART IN THE PARK」はGinza Sony Parkのリニューアルオープンが予定される2024年まで観ることができる。
SUSTAINABLUE(横浜)
横浜市関内では「SUSTAINABLUE(サステナブルー)」と題した仮囲いアートを鑑賞できる。
サステナブルーとは、横浜市が積極的に取り組む「サステナブル」と港に面した横浜を象徴する「ブルー」をかけ合わせた造語だ。主催は三菱鉛筆社と壁画制作を専門とするWALL SHAREの二社。
作品を手がけるのは、神奈川県出身のアーティストFATE氏。ベースとなる複数のブルーに、オレンジ色の蛇口やボタンが各所に配置されている。無作為ではなく、デザイン領域にも精通しているというFATE氏により緻密に計算、構成されている。
場所は横浜市旧市庁舎の跡地。同エリアでは、ホテルや商業施設をふくむ複合ビルが2025年に完成予定だ。
渋谷二丁目アートプロジェクト
渋谷駅東口エリア、青山へつづく渋谷二丁目17地区で観られる同プロジェクトのテーマは「都市の移り変わり」。
キャラクターのデジタル画や日常風景のコラージュ作品、独自の手法で描きだした抽象画、台北やインド、スペイン等で撮影された海外の写真作品など、現代アーティスト8名の作品が展示されている。
移り変わることへの「期待」と「さびしさ」を内包した斬新では終わらない、心のどこかに引っかかる作品が並ぶ。
主催は、日本の現代美術支援を目的とするCADAN(日本現代美術商協会)。同エリアでは、2022年9月に地上23階建ての複合施設が完成予定だ。
108 ART PROJECT(福岡)
全国108か所の工事現場をアートに変えることを目標に掲げる「108 ART PROJECT」。これまで大阪や佐賀、福岡、愛知などで仮囲いアートを手がけている。
福岡県で現在実施されているのは2か所。まずは、天神交差点に展示されているKeeenue(キーニュ)氏の作品。「創造交差点」をテーマにファッショブルなカラーが並ぶ。扉から踏みだそうとする人物モチーフは、新たな人や世界と出会うべく未知なるステージに向かう。2022年5月19日から約1年間展示予定。
博多駅前広場では宮﨑勇次郎氏の作品を展示中。「場所をつなぎ、人を結ぶ」をテーマに、時代や国を超越した大自然、個性あふれるキャラクターが息づいている。2022年12月まで展示予定。
まちからアート(東京・世田谷)
29歳以下の若年層アーティストを支援する「世田谷の街や人に活気をもたらす」がコンセプトのプロジェクト。第1回は入賞した5作品を、2022年4月と6月に世田谷区の異なる建設現場で展示した。
同プロジェクトは不動産業や建設業を営むフェイスネットワーク社が主催しており、同社が手がける建設現場の仮囲いが展示場所となる。
現在審査中の第2回のテーマは「夢」。2022年6月末に作品募集を終了しており、入賞作品は同年8月以降に展示される予定だ。
今回、紹介したスポットのほかにも仮囲いアートは全国で出会うことができる。絵画やデジタル作品、写真作品など、あらゆる手法で表現する新鋭アーティストたちの作品を一挙に楽しめるのは、美術ギャラリーさながら。
旅先やゆかりある場所の仮囲いアートを目的地や経由地として、まち散策のプランにくわえてみてはいかがだろうか。
【参照ページ】Sony Park | ART IN THE PARK
【参照ページ】渋谷二丁目アートプロジェクト
【参照ページ】Project_SUSTAINABLUE(サステナブルー) | WALL SHARE
【参照ページ】108 ART PROJECT | 都市の余白にアートの力を
【参照ページ】まちからアート|世田谷ドリームプロジェクト|若者支援
秋山 綾
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