価値ある古民家を宿として後世に。Airbnb、一般社団法人全国古民家再生協会へ寄付を実施

休日のランチ後、切らしてしまったコーヒー豆を調達しに、最寄りの商店街へと徒歩で向かう途中。商店街の一番奥にひっそりと佇んでいた閉鎖済みの銭湯の建物がいつのまにか姿を消し、そこに「マンション建設中」と書かれた囲いが立っていることに気づく。

その銭湯はおそらく営業停止をして数年は経っていただろうか。建物内には数えるほどしか入ったことはなかったが、重厚感のある木造りの扉や、宮大工が手がけたという脱衣場の天井に渡されていた太い梁、富士山が描かれていたタイル張りの壁などが記憶に焼き付いている。それらは一体どこへ行くのだろう?

私たちの身の回りの風景から、古くて歴史ある建物がひっそりと消えていくことがある。その中には、後世に引き継ぐべき価値のある建築が含まれることも。そんな状況に一石を投じるべく、歴史的、文化的に価値がある古民家などの歴史的資源を、宿として後世に残す取り組みがこれから始まろうとしている。

Airbnbが全国古民家再生協会の理念に賛同

Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏(向かって左)と全国古民家再生協会の井上幸一氏(向かって右)

2月1日午後にAirbnb Japan 本社で行われた記者会見での発表によると、世界最大級の旅行コミュニティプラットフォームのAirbnbは、一般社団法人全国古民家再生協会の活動理念に賛同し、同協会に1億5,000万円の寄付金を贈呈した。

全国古民家再生協会の理念

全国古民家再生協会は、日本固有の建築技術を継承し、新しい人の流れをつくり、地域経済の活性化につなげていくことを目的として活動している。2015年の法人設立以来、日本全国の各地域に残る日本の住文化である古民家を、未来の子どもたちへ継承するための活動に取り組んでいる。同協会は、こうした理念をかたちにすべく各地に点在する協会支部で構成される全国組織で、古民家等リフォーム事業を的確かつ円滑に実施するための人材育成事業、住宅居住者等からの相談等への対応に係る事業などを主な事業としている。また、長期にわたって循環利用できる住宅のさらなる普及・拡大を目指し、伝統資財・古民家等の再生リサイクルに関する事業を通じて、伝統的木造建築の民家・町並みの保存および産業廃棄物の削減等による循環型社会の実現に大きく寄与する活動で知られている。

Airbnbが目指す、空き家問題への寄与

Airbnbは、日本の社会に深く直結し、現在は歴史的価値を持ちながらも有効的に活用されていない建造物の「空き家問題」に寄与したい考えだ。古民家、町屋・町家、土蔵・蔵、茅葺き屋根、寺院、城、重要な文化財としての歴史ある建造物といった「歴史ある建物」をリスティング(宿泊できる物件)として多数掲載することで、国内外のゲストが全国のホストや地域の人・コミュニティとつながり、各土地で古くから伝わる伝統文化、建造物に触れる機会を生む。今後の旅行需要回復を見据え、「歴史ある建物」で宿泊を楽しむゲストを増やし、地域社会の活性化や地域観光経済への貢献を継続する構えだ。

Airbnb古民家ホストを交えたパネルディスカッション

寄付についての発表があったこの日の記者会見の第2部では、Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏と全国古民家再生協会の井上幸一氏に加え、福岡県うきは市にある142年以上の古民家のAirbnbホスト 川口智廣氏と、同じくAirbnbホストであり、丹波市で120年の古民家「やまんなか」を運営する柳川雅宏氏を交えてパネルディスカッションが行われた。

その中では、2人のホストから、移住後の地域住民との調和の取り方や、古民家DIY改修の醍醐味などの話が披露されていた。また地域が代々引き継いできた財産である古民家を後世に残していくことの大切さについても、経験談の中から語られていた。それを受けた井上氏は、日本の伝統建築が宿として地域に受け継がれていくことや、古民家をDIYすることそのものがコンテンツだと感想を述べた。また最後に田邉氏は、古民家物件の運営は地域住民との連携や地域のコンセンサスが大切と述べ、ディスカッションを締め括った。

Airbnb Japan 代表取締役 田邉泰之氏のコメント

「このたびAirbnbでは、未来の子どもたちのために持続可能な循環型建築社会を創造する理念を掲げ、日本固有の建築技術の継承、および新しい人の流れをつくり、地域経済の活性化につなげていく全国古民家再生協会の活動に大いに賛同し、寄付をさせていただくことになりました。すでにAirbnbには、日本国内の多くのホストの皆さんが日本の伝統遺産である古民家を再生し、国内外のゲストを迎え入れて活躍されていますが、今後当社では古民家をはじめとする魅力あふれるリスティングをさらに増やしていき、本格的に回復が見込まれるインバウンド旅行客需要を積極的に取り込んでいきたいと考えています」

寄付を生かして、歴史ある建物を後世に

古民家再生協会は今回の寄付金を生かし、全国30件の古民家を宿泊施設として再生させる予定だ。今後、特設サイトを開設し、全国からリノベーション向けの物件を募る。説明会やセミナー、現地説明会を定期開催しながら、歴史ある建物を宿に変え、空き家問題や地域課題の解消につなげていく。そのためにもAirbnb株式会社や、ホストをさまざまな面からサポートするサービスを提供する株式会社Glocalと連携しながら、宿泊施設としての安全と安心を担保していく。


今回の寄付により、価値ある地域の風土や文化、そして古くから受け継がれてきた地域の建物を後世に引き継ぐための仕組みが実現する。人々が美しい古民家や伝統建築を目指して旅をし、その価値に直接触れられる機会が持続していく未来を想像してみると、なんだかわくわくしてこないだろうか。

【参照サイト】歴史的資源を活用した古民家宿整備事業の公募について
【参照サイト】Airbnb
【参照サイト】一般社団法人全国古民家再生協会