Airbnbが12月1日、自身のブログの中で”Data on the Airbnb Community in NYC“と題して米国ニューヨーク市におけるAirbnbのホストの活動状況に関するレポートを公表しました。
もともとAirbnbは2015年の11月、同社が展開するホーム・シェアリングのサービスについて、世界中の都市と共に責任あるルールの元に取り組んでいくというコミットメント、Airbnb Community Compactを公表していました。
同コミットメントを公表した背景には、Airbnbを活用したコマーシャル・ホスティング(個人ではなく業者による物件運用)による不動産価格の高騰や、都市の法規制を逸脱した違法なホスト運用が世界各都市で問題としてクローズアップされ、Airbnbを活用したホスティングの実態について透明性を高める声が高まっていたことが挙げられます。
このコミットメントの一環として、Airbnbは都市の政策立案者らが十分な情報に基づいてホーム・シェアリングに対する法整備などを検討できるよう、匿名でホストとゲストに関す情報を公開するという誓約をしていました。
今回、Airbnbはこの誓約に基づき、ニューヨーク市におけるデータが公開されました。
ニューヨーク市のAirbnbの実態はどうだったのか?
ニューヨークといえば、Airbnbがかつて最も激しい争いを繰り広げていた都市です。Airbnbを活用した違法なホテル業が横行しているとして、2014年に、州司法長官がAirbnbを提訴しました。最終的にはAirbnbが、個人が特定できない形でホストの情報を提供するという話で両者は和解したという経緯があります。
もともとニューヨーク市では2011年から居住者が物件に滞在する場合を除き、集合住宅での30日未満の賃貸を禁じる法律を制定しました。果たしてこの法律に対して、Airbnbの実態はどうだったのでしょうか?
Airbnbの公表データによると、ニューヨーク市に登録されている全物件リスト35,743件のうち、Entire Home(家全体)を貸し出しているケースは19,742件(約55%)、Private Room or Shared Space(一部の部屋もしくは共有スペース)を貸し出しているケースは16,001件(約45%)という比率でした。
つまり、全体の55%がニューヨーク市の法律に違反していた可能性があるということになります。この件については米各メディアも取り上げました。
- New York Post “Most Airbnb rentals violate the state’s short-term leasing law“
- NY Daily News “Airbnb releases data on NYC apartments, but city officials believe info is incomplete“
- Engadget “Half of Airbnb’s New York City hosts are breaking the law“
各メディアともAirbnbがブログでは直接言及しなかった”55%”という数値を出して、その違法性について触れています。また、NY Daily NewsはAirbnbがデータをブログ記事上でしか公表せず、分析や加工がしづらい形でしか提供していない点についても批判しています。メディア全体の論調としては、今回の情報開示では不十分だ、という意見が大勢のようです。
コマーシャル・ホスティングがメインではない
しかし、上記のデータを出せばその違法性を問われるのはAirbnb側としても分かっていたはずです。それではなぜ今回、Airbnbはデータを公表したのでしょうか?今回公表されたデータの中でも特にポイントになる点は、下記のような情報です。
- ニューヨーク市のホストの78%は低・中所得者層
- ニューヨーク市のホスト全体の99%が1~2物件しかシェアしておらず、95%は1物件しかシェアしていない
- ニューヨーク市のホストの90%が自身の持ち家を貸し出している
- ニューヨーク市のホームシェアによる年間の副収入の中央値は5,110米ドル(約62万円)
上記の通り、ホストの99%は1ないし2物件の貸出しか行っておらず、年間収入額の中央値も約62万円と、あくまで副収入程度にとどまっています。これらの事実を考えれば、確かにAirbnbの主たる利用者は、メディアなどから批判の槍玉に上がることが多いコマーシャル・ホスティング業者ではなく、あくまでAirbnbの描く主たる利用者像である個人が中心である可能性が高いといえます。
複数の物件を運用しながら違法にホテル業を営んでいるホストはマイノリティであり、大半は個人が副次的な収入のために自身の物件を貸し出しているだけで、それが結果として低・中所得者の経済・生活支援につながっている、というのがAirbnbの主張なのです。
実際にAirbnbのデータによれば、ニューヨーク市のホストの36%がフリーランサーやパートタイマー、学生など収入が不安定な人々とのことですが、それらの人々にとってはAirbnbのサービスは経済的にも非常にありがたいサービスだと言えるでしょう。
もちろん、これらのデータはAirbnbのサービスが大規模なコマーシャル・ホスティングの温床にはなっていないという点や、ニューヨーク市というコミュニティにどう貢献しているかという点を示す上では有効なデータとなりますが、それらが法律的にどうかということとは関係がありません。今後もAirbnbやその利用者、ニューヨーク市、メディアの間でホーム・シェアリングをめぐる論争はしばらく続きそうです。
ちなみに、Airbnb自身もウェブサイト上でニューヨーク市のホストに対して法律を遵守するように呼びかけており、コミュニティに貢献するために地方自治体とも協働して取り組んでいく姿勢を掲げています。Airbnbのサービスは利用者の満足度も非常に高いだけに、各ステークホルダーがいかに利害をうまく調整しながら最適解を導き出していけるのか、今後の動きにも注目が集まります。
(Livhub 編集部)
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