スマホなんてない時代に世界中を「旅」してきた。グーグルマップも検索エンジンもない旅は、まさにカオス。目的地に辿り着けず彷徨うことも日常茶飯事。カオスのなかを日々驚きながらどうやってサバイブするか、それは旅の醍醐味でもある。そんな風にして、行きたい場所には行き尽くしたと思うほど旅をしてきた私は、この春から夏にかけて「海外ノマド」として東南アジアを訪れた。
ノマドのなかにはワーケーションのように旅や観光の比重に重きを置く人もいるが、私は少し違う。ノマドというのは私の場合、「拠点を変えていつもの暮らしを営む」こと。
訪れる国ごとのルールや環境に順応して、日本でも当たり前に日々必要になるネット環境の整備や食糧調達など。生活のベースを整えることができて初めて「いつもの暮らし」ができるし、仕事も通常運転になる。ノマドでも、その生活のベースをその国(土地)バージョンで構築する必要がある。それさえできれば、「好きな場所で好きな仕事をする」という私の望むノマド暮らしは、実現できるはずだ。
初めての海外ノマド生活は、タイ南部の海辺の町クラビから始まり、2ヶ月滞在した快適に暮らせたタイ・チェンマイを経て、最後にベトナムのビーチ沿いの町のひとつダナンに。
今回のノマド暮らし最後の町であるダナンに着いた私は、クラビに続き、久しぶりの海辺の町に心躍った。そして思い描いていた、潮風を感じながら真っ青な海を前にカタカタと記事を執筆する…というノマドライフを実現するのだとワクワクしていた。
結果、一応、思い描いていたノマドライフは達成できた。できたのだけれど…ダナンという町は当たり前だけれど、それまで快適に静けさとともに暮らしていたタイ・チェンマイではなく、ベトナムなのだった。それがどういうことか…。縦横無尽に走り回るバイク、ひっきりなしに鳴り響くクラクション、時には歩道やビーチにまでも乗り上げてくる。バイクの走らない場所などない、といった具合に彼らは自由だ。さらに私を含めノマドが生息する界隈は、リゾート化した地域のど真ん中。それが意味することは、静けさは求められない、ということだ。
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例えば、東南アジアで主流の配車アプリ「Grab(グラブ)」はとても便利。日本のタクシー配車アプリのように、面倒な交渉事もなく事前に提示された金額で乗車し、目的地までスムーズに連れていってくれる。当たり前のことのように思うかもしれないが、グラブなどの配車アプリがない時代の世界の旅先での移動は常に料金交渉必須の戦い。移動手段の確保は旅人にとって、いつも厄介ごとのひとつで、私自身今まで世界中(特にインド・中東)でいくつもの洗礼を受けてきた。グラブの登場は、そんなかつての旅人にこそ感動もののサービスと言える。
そんな厄介ごとを免除してくれる感動サービス「グラブ」がダナンでも使えたのだが、なぜ…とため息をつくような出来事が空港で繰り広げられた。
公式のグラブピックアップスポット
彼はグラブのマークのついたジャケットを着ていた。見た目は完全にグラブのドライバー。しかし乗れ乗れと言い寄ってくる彼に「ここまでならいくら?」と聞いて帰ってきた金額は、アプリが示す金額の4倍だった。ありえないと値切ってなお、定価の2倍。「なるほど!」と彼の目を見て言い、そのままアプリで手配を完了した。グラブがない時代の旅の洗礼再び…
別の日。せっかく海辺の町に来たから朝日を見て静かにゆっくり瞑想でも、とミーケビーチに向かう。5時過ぎという早朝にもかかわらず、到着前からなにやら賑やかな音楽が流れてくる。それも一種類どころではなく複数の音が!さらにビーチに着いてビックリ。10~20人の団体が音楽に合わせてなにやら踊っているではないか。ズンバ…か?踊りはまったくそろっていないけれど、それぞれがイキイキと楽しそうで、やはり彼らは自由なのだった。そんな団体がビーチに沿って数えきれないくらい続いていた。
見たいのはこの景色
実際にはこの賑わい!
どこにいてもなにかが「起こっている」、こちらからしかけなくても「勝手に起きる」町、ダナン。コロナを経て久々の海外で、なお静かで落ち着いた町チェンマイからやって来た私にとって、ダナンは東南アジアのインドのように感じられた。それは私にとって、ただそうなのであり、いいも悪いもない。その基準は、そこにいるだけでサバイバルする必要があるか否か、だろう。もちろん、もっと過酷な場所を私はたくさん知っている。けれど「ノマド」として「拠点を変えていつもの暮らしを営む」をしたい今の私には、なかなかパワーを要したというのが素直な感想だ。
しかし一方で、個人的に知り合うベトナムの人々はみな、とても好ましく、控えめだった。笑顔が可憐で、花みたいで、優しくて、一緒にいても心地よかった。また、ノマド仕様の素敵なカフェもいくつもあった。こういうスポットをひとつでも見つけられれば、「好きな場所で好きな仕事をする」ノマド作業はできるのだ。
お気に入りのひとつ
朝食を食べてからライティングをスタートする日も
ベトナムの都市、ホーチミンやハノイを知る人は、ベトナム人もダナンに住む日本人も「ダナンは暮らしやすい」と口をそろえる。「ダナン、どう?」と聞いてくる彼らの言葉のニュアンスにはいつも、(いい町でしょ?)という誇りがうかがえた。だからきっと、本当にそうなのだと思う。というのも私は、初めてのベトナムにダナンを選んだから、ほかの町を知らない。
「チェンマイはこうだった」「チェンマイならこうなのに」といって快適にノマド暮らしができたチェンマイとダナンを比べることのナンセンスは自分がよくわかっている。ただどちらも経験したからこそ見える、さまざまなこととそこに対する自分の反応を見ている。それもまた私の経験値の肥やしとなるのだ。
ダナンはきっと「旅」で訪れたら楽しい。町自体の賑わいや活気、秩序のない感じやグラブとの交渉も、ワクワクや刺激をくれるものにほかならないのだから。もう一度ダナンの町の当たり前を知った今の状態で訪れたなら、きっと「ノマド」としても慣れた感じで過ごせるのかもしれない。また行くのかもな、花のようなあの人たちにも会いたいし。
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mia
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