小さな村の伝統産業を守るためにつくられた、バリ島アメッドのエコホテル

エコホテル

インドネシア・バリ島の北東にある、小さな漁師村アメッド。沈船リバティ号やサンゴガーデンとそこに集う魚や海の生き物が、ビーチからすぐのところで楽しめるとあり、今では世界中からダイバーが集まるスポットとして注目を集めている。

そんなアメッドに、現地の文化と伝統を守り伝える目的で建てられたエコホテルがある。「Hotel Uyah Amed & Spa Resort(ホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾート)」だ。今回は、宿に実際に宿泊して見えた現状、そしてホテルで長年働くスタッフに聞いた話を紹介する。

村の伝統を守るために作られたホテル

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アメッドはもともと漁業と塩作りを伝統的に行ってきた村。

しかし、2000年半ば頃からの観光地化に伴い、多くの塩田が使われないまま放置されはじめた。このままでは、近い将来に伝統的な製塩業が消滅してしまうと危惧した地元民たちは、解決策の話し合いをはじめた。

話し合いの結果、伝統を守るために観光開発と伝統的なライフスタイルを結びつける計画が立てられ、塩田を取り囲むように建設されたのが今回訪れた「ホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾート」とレストラン「Café Garam(カフェ・ガラム)」。今は敷地内にダイビングをする人のための施設「AMED DIVE CENTRE(アメッド・ダイブ・センター)」も併設し、様々な取り組みを協力して行っている。

ホテルの敷地内では、乾季になると塩作りが行われ、宿泊者はその様子を見ることができる。併設されたレストラン、カフェ・ガラムの店内には、塩の製造工程を説明するボードが設置され、敷地内で作られた塩を購入することもできる。ガラムは「塩」を意味し、カフェ・ガラムという店名は地元の製塩業に敬意を表してつけられたという。

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「村人たちは暮らしを変えたかったんだ」

このホテルで11年働いているというスタッフ、マデさんに話を聞くことができた。

「1996年頃は、ホテルのあるここから1km先辺りまでずっと塩田だったんだ。僕はまだ小さかったけれど、よく覚えている。その辺りに僕の家があって、家からはバリ島の最高峰アグン山まで見渡せたんだ。それくらい、製塩業が栄えていたんだ」

そんな一面に塩田が広がる場所に、2000年頃フランス人を筆頭にヨーロッパから人々がやって来て、ゲストハウスやホテルを作るようになった。そのうちのひとつは「Amed Café and Hotel(アメッド・カフェ・アンド・ホテル)」で、今でも営業している。この出来事がきっかけとなって、アメッドの村は変化しはじめることになる。

「塩作りは過酷な仕事だよ。伝統的な方法を取るためには、太陽の光で海水を乾かす必要があるから、乾季の6~9月しか作業ができない。重労働が必要になるのに対してそんなに多くの量の塩は取れないし、収入は安定しない。だからこそ、新しい産業(観光業)の参入に、村人たちは期待したんだ。暮らしを変えたかったから」

観光という新たな産業により新しい稼ぎ口を得ると同時に、土地の文化でもある伝統産業を継承していくために。同ホテルは伝統的な方法で塩作りを行い、その生産工程を外国人観光客に説明し、お土産として手にとってもらうといった取り組みを行っているのだ。

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Image via Hotel Uyah Amed & Spa Resort

現在ではテクノロジーの力を借り、塩作りもかつてより多少は楽になった。昔は天秤の桶に、自力で海水を汲み何度も運んでいたというが、今では電気を使ってバキュームのようにホースで海水を吸い上げるシステムに。そして塩を貯蔵する伝統的な竹の小屋「グダン・ガラム」も竹から、プラスチックに変わったそうだ。「容れ物の素材が違うだけで、実は味が変わってしまう。かすかかもしれないけれど、僕にはわかるんだ」とマデは教えてくれた。

「暮らしを変えて、今アメッドの人はハッピーなの?」と聞くと、「もちろん!」と満面の笑顔。外から訪れた人々の手によって猛スピードであまりに大きな進化・変化を遂げた、バリ島の観光地チャングーという村をアメッドを訪れる前に見てきたため、少し複雑な気持ちにはなったのだが、取り越し苦労かもしれない。

ホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾートで働く意義

ホテルでの仕事はどうかと尋ねるとマデはこう答えた。

「僕は、ここで働けていることは本当にラッキーだと思っている。なにより仕事をしながら、学ぶことがたくさんできるから。例えばバリの人はまだまだ『ごみ』に対して意識が高くない。だからこそ、ここで働き始めてコンポストの存在を知ったことは大きかった」

実は現在のホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾートに、コンポストはない。ホテルの規模が大きくなるにつれ、継続できなくなってしまったのだという。しかし当時は、敷地内にコンポストがあり、その周りにはバナナやアナナス、マンゴーなどの木が植えられていたそうだ。コンポストによって作られた堆肥から、それらの木々が栄養分を吸収していた。

「コンポストは辞めてしまったけれどごみの分別はしっかり行っている。ただ、それらが最終的にしかるべき方法で処理されているかどうかまでは一従業員である僕は把握しきれていないんだ。それでもごみの出し方や、コンポストの概念、プラスチックごみが自然環境へ与える影響などを学べただけでも価値があったと思うよ。自分の子どもに学んだことを伝えられているしね」

コンポスト以外にも当初はあったが、なくなっていた設備があった。それは、部屋を囲むように水を流すことで空間の温度を下げる天然冷却システム。名案に思えるが、アメッドの暑さに慣れないゲストたちの希望が増え、それに応えるかたちでエネルギー効率の比較的良いエアコンが取りつけられることになった。

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かつて機能していた天然エアコンの名残

施設がどれだけ意欲的に環境問題に課題意識を持ち取り組んでも、旅行者の私たちの理解や賛同なしには継続できなくなることもあるのだと気づくきっかけとなる出来事だった。

自然と調和するために、細部までエコシステムを採用

コンポストや天然冷却システムは取りやめになってしまったが、ホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾートは、周辺の素晴らしい自然を尊重し、それらと調和するために、環境管理システムを採用している。

施設のエネルギーには再生可能エネルギーを採用。照明には省エネ電球とLEDを使用し、節水ボタンつきトイレと節水シャワーヘッドを設置。給湯には太陽の熱を利用してお湯を沸かす太陽熱温水器を使用し、すべての温水パイプは熱の損失を避けるために二重に断熱されている。

ホテルの建物も地元の労働者によって、主に地元で手に入る材料を使いこの地に馴染むように建てられており、客室には地元の装飾品を使用するなど過剰に資源を使わないように設計されている。

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「省エネだから触っても感電しない」と実際に線に触れて見せてくれる

サンゴを使い尽くし、植え直す今
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1980年頃、アメッド周辺のジェメルク湾にはサンゴ礁が織りなす驚くべき絶景が広がっていた。しかし当時住居の建築時に不可欠なセメントを必要としたアメッドの人々は、村になかったセメントの代用品としてサンゴ礁を解体し利用した。その結果、アメッド村の海中の多くのサンゴ礁は海から消えてしまった。

しばらくしてアメッド周辺の人々は、サンゴ礁がその地の生態系や自然環境にどれほど有益かを少しずつ理解し始めた。海洋生物はサンゴ礁からはじまることはもちろん、健全なサンゴ礁はビーチを大きな波から守り、浸食のプロセスを防ぐといったことも分かってきた。

ホテル・ウヤ・アメッド&スパ・リゾートそして、併設のレストランやダイビングショップのスタッフのほとんどはアメッド村の出身で、彼らの家族の多くが今でも海からの恵を受けてはじめて生計を成り立たせることのできる漁師や塩田農家をしている。だからこそ、施設のスタッフにとってもこの問題は決して人ごとではなかった。

そして2003年、ダイビングショップが中心となりホテル前のアメッドゴースト湾に人工リーフの設置やサンゴの植え付けの取り組みをはじめ、現在もその取り組みを続けている。

サンゴの植え付け

Image via Amed Dive Center

現在は、活動の成果もあり、様々な種類のゴーストパイプフィッシュ、擬態タコ、巨大なストーンフィッシュ、カニ、小さなミノカサゴの幼魚などの希少種を観察できるほどに水中環境は改善してきている。

アメッドの湾

Image via Amed Dive Center

波の音を聴きながら過ごす

宿泊は広々としたガーデンの端に沿って並ぶ、オーシャンビューのバンガロー。テラスからは海が見え、波の音も聴こえた。

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客室:天井が高いため、より広く感じる空間

一夜明けて翌朝、朝食前にホテルの前の海に入ってみることに。

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部屋から海までの道

海に入り、しばらく進むと前日にマデに聞いた人工リーフのステーションと呼べるような、人工的な「なにか」を発見。その周りには様々な海洋生物がキラキラと泳いでいた。
一度サンゴが無くなったしまったこの場所で、人が新たに育てたサンゴにこうして魚たちが戻ってきている。その様子を見て静かに感動した。

その後、朝食を食べにカフェ・ガラムへ。今見て来た海のなかの感動が冷めやらず、スタッフに思わず話してしまった。

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バリではお馴染みのスタイルのパンケーキ。朝から泳いだ体に染み渡る。

一泊二日の滞在なかで、マデに話を聞きながらアメッドの歴史と発展を見た。

観光地化が進むアメッドで唯一のエコホテル。塩作りの規模は縮小し、コンポストや天然の冷却システムなど、観光客が増えるにつれ継続できなくなった取り組みがあるのも事実。ただ、中身の仕組みや機能が多少変わろうと、これからもこのホテルが存在し、マデのように学びを伝えていく人がいる限り、伝統や根底にある自然と調和したあり方への願いは継承されていくのではないだろうか。

伝統や自然環境が、観光の力を借りることで引き続き繋がれていくことを願った。そのためには旅人一人一人の意識の変化も必要かもしれない。

Hotel Uyah Amed & Spa Resort
公式HP:https://hoteluyahamed.com/
住所:Jl. I Ketut Natih Pantai Timur No.801, Amed, Purwakerti, Abang, Karangasem Regency, Bali 80852 Indonesia

【参照サイト】AMED DIVE CENTER
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mia

旅するように暮らす自然派ライター|バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、オーストラリアに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストになっていました。ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。経験をもとに、旅をちょっぴりエコにするヒントをお届けします。