プライバシーゼロなのに大人気。壁も屋根もないホテルがスイスにできた理由

Null Stern Hotel

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

スイスアルプスを背景にした美しい風景、渓谷や輝く小川……大自然に囲まれたスイスでの滞在を考えるとき、窓の外を眺めながらリラックスできるような体験を求める人が多いのではないだろうか。

しかし、本記事で紹介するスイスのホテル「Null Stern Hotel(ヌル・スターン・ホテル)」は、おそらく皆さんが想像するホテルとは全くの別物だ。

“The only star is you.”──そんなキャッチフレーズを掲げるNull Stern Hotelの部屋には、壁もなければ屋根もない。プライバシーを守るものが何一つないこのホテルにあるのは、木の台の上に置かれたダブルベッドと2つのベッドサイドテーブルとランプのみだ。

このなんとも不思議に思われるホテルを手掛けたのは、スイスの有名なコンセプトアーティストであるフランクとパトリック・リクリンの双子の兄弟。彼らは、これまで神秘的な丘の上やブドウ畑に挟まれた谷間など、3つの場所に「Null Stern Idyllic Suite(のどかなスイート)」と呼ばれるホテルをつくってきた。

そんな2人が、4つ目の場所に選んだのは、スイス・サイヨンにあるガソリンスタンドの脇。リラックスからは程遠い、排気ガスのにおいでまみれた場所につくったのは、「Null Stern Anti-Idyllic Suite(のどかでないスイート)」だった。

兄弟は、屋根やプライバシーなどのあらゆる壁を無い環境での滞在を通して、宿泊客に眠ることなく、世界で起こっている問題を五感を使って感じ、考えてほしいという。フランク・リクリンは、「睡眠が重要なのではない。重要なのは、現在の世界情勢について考えることだ。ここに滞在することは、社会を緊急に変える必要性を表明することなのだ。」と話す。

滞在中、車の音やガソリンのにおいに晒されるホテルの滞在費は、325スイスフラン。日本円にして約4万6,000円(※1)と決して安くはない。それにもかかわらず、すでに多くの問い合わせがあり、当分は予約で埋まっているという。

今でも、世界では少なくない人たちが、揺れ動く世界情勢の影響を受け、壁も天井も無い場所で暮らしている。また、このまま気候変動が進めば、満点の星空の下ではなく、ガソリンスタンド脇のような、寝るのには快適とは言えない場所で生活しなければいけない人の数が世界各地で増えていくかもしれない。

そんないま、世界の様々な人たちの立場を五感で感じ、考えてみる。それが、経験した一人一人の心を揺さぶり、変化の一歩へと駆り立てるのかもしれない。

“The only star is you. “。あなたは、未来を明るく照らす「星」になる準備が出来ているだろうか。

※1 2022年7月27日時点
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

【参考サイト】Null Stern
【参考サイト】Will you pay 27k for a night of no sleep at this Zero Star hotel in Switzerland?
【参考サイト】Swiss Company Is Offering A Zero-Star Suite At A Gas Station