民泊新法(住宅宿泊事業法)案のポイントと今後の民泊市場の行方を徹底解説!

政府は2月22日、自民党の国土交通部会など合同会議のなかで、住宅の空き部屋を有料で旅行者に貸し出す「民泊」のルールを定めた住宅宿泊事業法(通称、民泊新法)の概要を説明しました。今後、同法案は3月上旬に閣議決定され、今国会に提出される予定となっています。

民泊新法案の中でも最も注目されていた年間営業日数の上限については、最終的に180日以内という形で落ち着きましたが、今回日経BP社のITpro編集部が民泊新法の条文案全文を公開したことで、さらにその詳細が明らかになりました(全文はこちらからダウンロード可能)。

そこで、ここでは公開された条文案を基にして、改めて今回の民泊新法の全容とポイント、および民泊新法制定・施行後の日本国内の民泊市場の見通しについてまとめました。新法の施行に合わせて民泊事業への参入を検討されている民泊ホストおよび事業者の方にとって少しでも参考になれば幸いです。

民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要

住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)は、民泊に関わる一連の事業者の適正な運営を確保しつつ、国内外からの宿泊需要に的確に対応し、観光客の来訪や滞在を促進することで日本経済の発展に寄与することを目指して定められる法律となります。民泊新法の対象となるのは、下記3種類の事業者となります。

  • 「住宅宿泊事業者」:民泊ホスト
  • 「住宅宿泊管理業者」:民泊運営代行会社
  • 「住宅宿泊仲介業者」:Airbnbをはじめとする民泊仲介サイト

民泊新法においては、それぞれの事業者に対して「届出」や「登録」など事業運営において必要となる手続き、および事業者として実施するべき「業務」の内容、そしてそれらの「監督」権限について詳しく定められています。ここでは、事業者ごとに対応するべきポイントを絞ってご紹介していきます。

民泊ホスト(住宅宿泊事業者)の義務

民泊新法の施行後は、民泊ホストは都道府県知事(保健所設置市はその首長)に対して「届出」をすることで、旅館業法の許認可がなくとも「住宅宿泊事業」、つまり民泊を運営することが可能となります。民泊ホストに対する規制の主なポイントは下記となります。

民泊ホスト(住宅宿泊事業者)に必要な届出内容

民泊を運営するためには、下記内容を届け出る必要があります(下記以外の情報が必要となる可能性もあります)。

  • 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
  • 住宅の所在地
  • 営業所または事務所を設ける場合はその名称と所在地
  • 住宅宿泊管理業務を委託する場合は、委託先の住宅宿泊管理業者の商号など
  • 図面の添付

なお、届出自体は民泊新法の施行前でも可能となる見込みです。ただし、その場合でも施行日において届出をしたものとみなされるために、実際の営業活動は施行後となります。

民泊ホスト(住宅宿泊事業者)の業務

民泊ホストとして民泊を運営するにあたっては、下記のルールを守る必要があります。

  • 一年間の営業日数の上限は180日以内
  • 各部屋の床面積に応じた宿泊者数の制限、清掃など衛生管理
  • 非常用照明器具の設置、避難経路の表示、火災・災害時の宿泊者の安全確保
  • 外国人観光客向けの外国語による施設案内、交通案内
  • 宿泊者名簿の備え付け
  • 周辺地域の生活環境悪化防止のため、外国人観光客に対する外国語を用いた説明
  • 周辺地域の住民からの苦情、問い合わせに対する適切かつ迅速な対処
  • 届出住宅ごとに公衆の見えやすい場所に国が定めた様式の標識を表示
  • 宿泊日数の定期的な報告

最大の焦点であった営業日数上限については180日以内という形で固まりましたが、その他にも民泊ホストとして運営するにあたっては宿泊者の安全確保や周辺住民への配慮など様々な業務の遂行が求められます。

また、民泊ホストは、下記に該当する場合は、民泊の運営業務を住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)に委託することが求められます。

  • 届け出た住宅の部屋数が、民泊ホストとして対応できる適切な管理数を超える場合
  • 届け出た住宅に宿泊者が滞在する際、不在となる場合

ただし、2点目のポイントについては、民泊ホストが自身の生活の拠点として使用している住宅と、民泊貸し出し用に届け出た住宅との距離や、その他の事情を勘案した結果、委託の必要がないと認められる場合は、住宅宿泊管理業者に物件を委託する義務は免れます。

民泊ホスト(住宅宿泊事業者)に対する監督

民泊ホストに対する監督としては、適正な民泊運営のために必要があると認められる場合、行政職員に対して届出住宅に対する立ち入り検査をする権利が付与されます。例えば180日以上の営業をしていると地域住民からの通報があった場合などは、立ち入り調査の対象となることは十分に考えられるでしょう。

民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の義務

続いて、民泊運営代行会社の義務についてご紹介していきます。民泊ホストからの委託を受けて民泊運営を代行する会社は、国土交通大臣の登録を受ける必要があります。

民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の登録

住宅宿泊管理業者としての登録にあたって必要となる主な情報および手続きとしては下記が挙げられます。

  • 登録は5年ごとに更新
  • 登録時には登録免許税(9万円)の支払
  • 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
  • 営業所または事務所の名称および所在地

また、新法制定後は、住宅宿泊管理業者の登録簿が一般に公開されるため、民泊運営代行会社が登録をしているかどうかがすぐに分かるようになります。

民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)の業務

住宅宿泊管理業者として登録を受けた民泊運営代行会社は、業務の遂行にあたり下記のルールを守る必要があります。

  • 名義貸しの禁止
  • 誇大な広告の禁止
  • 管理受託契約の締結時には、書面の交付による説明
  • 管理業務の全部の再委託の禁止
  • 従業員に対し、登録業者である証明書の携帯の義務づけ
  • 営業所または事業所ごとに国が定めた様式の標識を掲示

新法施行後は、登録を受けた民泊運営代行会社は登録済の業者であることを対外的にはっきりと示す必要があり、加えて名義貸しや全部委託といった形での運営も禁止されることになります。

民泊運営代行会社(住宅宿泊管理業者)に対する監督

民泊新法においては、民泊ホストと同様に、民泊運営代行会社に対しても行政職員による立ち入り検査権限が付与されます。例えば営業日数上限を超えた違法な民泊運営代行を行っている可能性があると判断された場合、立ち入り調査や関係者への質問を受ける可能性があります。

住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の義務

最後に、AirbnbやHome Awayといった民泊仲介サイトの運営企業に対する規制についてもご紹介していきます。民泊新法下においてはこれらの企業は「住宅宿泊仲介業者」とされ、運営にあたっては観光庁長官の登録を受ける必要があります。

住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の登録

住宅宿泊仲介業者としての登録にあたって必要となる主な情報および手続きとしては下記が挙げられます。

  • 登録は5年ごとに更新
  • 登録時には登録免許税(9万円)の支払
  • 商号、名称または氏名、住所(法人の場合は役員氏名)
  • 営業所または事務所の名称および所在地

民泊仲介サイトは、民泊運営代行会社と同様に登録が求められます。今後、民泊新法の施行に伴い海外勢のみならず国内企業発の民泊仲介サイトもさらに増加していくことが予想されますが、それらの仲介サイト運営会社は全て登録を受ける必要があります。

住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)の業務

住宅宿泊仲介業者として登録を受けた民泊仲介サイトは、業務の遂行にあたり下記のルールを守る必要があります。

  • 名義貸しの禁止
  • 宿泊者との宿泊契約「住宅宿泊仲介契約」の締結に関し、住宅宿泊仲介業約款を定め、実施前に観光庁長官へ届出が必要(観光庁が標準住宅宿泊仲介業約款を定めて公示した場合、同一のものを使用する場合は届出不要)
  • 民泊ゲストおよびホストから受ける手数料の公示
  • 宿泊者との宿泊契約締結時、書面の交付による説明
  • 営業所または事業所ごとに国が定めた様式の標識を掲示

なお、民泊新法の制定に向けた動きを受けて、民泊仲介サイト最大手のAirbnbでは、既に民泊新法施行後のルールとなる年間営業日数180日以内を民泊ホストに遵守させることを目的として、宿泊日数が180日を超えたリスティングは表示されないようシステムで自動制御する方針を固めています(参照記事:Airbnb、民泊新法に対応した運営対策開始へ。システムで自動的に「年間営業日数制限180日」等を管理。)。

住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)に対する監督

民泊新法では、住宅宿泊仲介業者に対する業務の改善・停止命令などについて、国内に拠点を持つ住宅宿泊仲介業者に対するもの、海外に拠点を持つ外国住宅宿泊仲介業者に対するものでそれぞれ定められており、外国住宅宿泊仲介業者に対しては「命令」ではなく「請求」となっています。また、民泊ホスト、民泊運営代行会社と同様に、民泊仲介サイト運営者に対しても必要と認められる場合には行政職員に立ち入り検査権限が付与されます。

民泊新法(住宅宿泊事業法)に違反した場合の罰則

民泊新法に違反した場合には、どのような罰則が適用されるのでしょうか。年間営業日数が180日以内という制限がついたとしても、複数の民泊仲介サイトを利用して集客すれば分からないだろうと考える民泊ホストや民泊運営代行会社の方もいらっしゃるかもしれませんが、民泊新法では、気軽に民泊を始めやすくなる一方で、法律違反時の罰則については厳しく規定されています。具体的な罰則としては下記が挙げられます。

1年以下の懲役または100万円以下の罰金

民泊運営代行会社、民泊仲介サイトに対しては、下記のケースにあてはまる場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という重い罰則が科せられる可能性があります。

  • 登録がない状況で民泊運営代行や仲介サイトを運営
  • 不正な手段により登録を受けた場合
  • 名義貸しをして、他人に運営代行や仲介サイトを運営させた場合

6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金

一方の民泊ホストに対しても、下記のケースにあてはまる場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という重い罰則が科せられる可能性があります。

  • 民泊ホストが虚偽の届出をした場合

その他にも、民泊ホスト、民泊運営会社、民泊仲介サイトそれぞれに対して、様々な罰則が規定されていますので、届出や登録の手続きにあたっては罰則についてもしっかりと確認しておく必要があります。

都道府県による上乗せ条例の影響は?

民泊新法制定後の動きをめぐっては、せっかく新法が制定されたとしても、民泊に対して消極的な地方自治体が条例を上乗せして規制をかける可能性があるため、民泊新法よりもその後の自治体の対応のほうが重要だという声もあります。

今回の民泊新法案では、第18条において、都道府県による条例を用いた民泊に対する過度な規制を防ぐため、下記のように定められています。

当該都道府県の区域のうちに、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要であると認められる区域があるときは、条例で、観光旅客の宿泊に対する需要への的確な対応に支障を生ずるおそれがないものとして政令で定める基準の範囲内において、期間を定めて、当該区域における住宅宿泊事業の実施を制限することができる(「住宅宿泊事業法」案 第18条)

つまり、都道府県が条例を用いて民泊を制限できるのは騒音など生活環境の悪化防止が必要だと認められる区域のみで、かつ観光客の需要への対応に支障をきたす恐れがないケースに限られるということです。都道府県が自らの権限でむやみやたらに条例を定めて民泊を規制できるわけではありません。

民泊新法(住宅宿泊事業法)施行後の民泊市場の行方

さて、ここまでは民泊新法の概要についてご紹介してきましたが、皆さんが一番気になるのが、この新法制定・施行を受けて、今後の日本の民泊市場はどうなるのか、という点ではないかと思います。ここでは、Livhub編集部からいくつかのテーマでポイントをご紹介したいと思います。

個人ホストと法人事業者で分かれる動き

まず、今後の民泊をめぐる動きをめぐっては、個人として民泊を運営するホストと、法人として商業的に民泊事業を展開する事業者とを分けて考える必要があります。

個人の民泊ホストについては、民泊新法の制定・施行によりその数が増加する可能性はかなり高いでしょう。これまでは法的なリスクを理由に民泊に躊躇していた個人も、新法の施行後は届け出さえすれば合法的な形で民泊運用できるようになるためです。

個人の民泊ホストの場合、商業的に利益を求めるというよりは、空き資産を活用して副収入が得られればよいという方も多くいるため、民泊新法の年間180日という営業日数制限はそこまでネックとならないでしょう。そのため、民泊運営代行会社を利用した家主不在型の民泊だけではなく、家主同居型民泊の裾野も広がっていくことが想定されます。

一方で、商業的な利益追求を目指す法人ホスト(代行会社などを活用して大規模な民泊運用をしている一部の個人ホストも含む)や民泊施設運営事業者にとって、民泊新法の制定は今後の事業方針に大きな影響を与えることになりそうです。

民泊を事業として一定の規模で展開しようと考える場合、民泊新法における年間営業日数180日という制限は大きなネックとなります。最大でも物件の稼働率は50%にとどまることになるため、採算性の観点から新法のルール下において利益率の高い民泊事業を運営することは難しくなります。

そのため、民泊市場への参入を検討している企業の多くが、すでに下記3通りの方法へ事業方針を転換しています。

  • 旅館業法簡易宿所・ホテル営業
  • 民泊新法下の二毛作営業
  • 特区民泊

それぞれについて説明していきます。

旅館業法簡易宿所・ホテル営業

最も多いパターンは、そもそも民泊として運営するのではなく、旅館業法の簡易宿所やホテルの許認可を取得したインバウンド向け宿泊施設を新築やリノベーションし、運用するという方法です。

旅館業法簡易宿所については昨年4月にフロント設置義務など一部要件が規制緩和されており、すでに旅館業法簡易宿所のスキームを利用した民泊施設は各地で誕生し始めています(参考記事:「渋谷でついに合法民泊!おもてなしJAPANが旅館業法簡易宿所の許認可取得」)。

また、民泊新法の陰に隠れているものの、実は現在政府では旅館業法の規制緩和の議論も進められています。これは、民泊新法制定後の民泊事業者と旅館・ホテル事業者との公平な競争環境(イコール・フッティング)を整える意味もあります。緩和内容としては最低客室数の制限やフロント設置義務の廃止などが検討されています。

例えば、現状の旅館業法では、旅館営業の場合「5室以上」、ホテル営業の場合は「10室以上」といった客室数制限が設けられていますが、これらの制限が撤廃されれば、インバウンドに向け宿泊施設の運用目的で旅館営業やホテル営業の許認可取得を検討する事業者はさらに増えるでしょう。

旅館業の許認可を取得する場合は民泊新法の施行を待つ必要がありませんし、エクスペディアといった既存のOTAサイトを活用した集客もできるため、収益性の面でもよりメリットが高まります。そのため、民泊事業への参入を考えている大手企業の多くが、この旅館業の許認可取得による施設運用へと舵を切り始めており、今年は新たなインバウンド向け宿泊施設が続々とオープンすることが予想されます。

民泊新法下の二毛作営業

次のパターンは、あくまで民泊新法のルールにはのっとるものの、年間180日以内という営業日数制限による収益性の低下をカバーするために、残りの180日をマンスリーマンションというスキームを利用して稼働させることで、結果として物件を一年中稼働させようという動きです。

すでにこの「二毛作民泊」については今後のニーズ増加を見越したツールも登場するなど、注目を集め始めています(参考記事:民泊180日規制に民泊+マンスリー賃貸で対応する集客支援ツール「nimomin」β版先行登録開始)。現在マンスリーマンション事業を展開している不動産企業などは、このスキームを利用して半分を民泊として貸し出し、既存の管理・保有物件の収益性をさらに上げに行くという参入の仕方をする可能性が高いと言えるでしょう。

特区民泊

最後の方法が、民泊新法と同時並行で進められている「特区民泊」の仕組みです。特区民泊の制度は国家戦略特区のみに限られますので、活用できる地域は絞られるものの、昨年10月に特区民泊における宿泊日数制限を6泊7日以上から2泊3日以上へと緩和することが閣議決定されたことで、当初の制度よりは民泊事業の収益性という観点で選択肢としての現実性が高まりました。

実際に、2月14日には私鉄大手の京王電鉄が、百戦錬磨との提携により、東京都大田区で特区民泊の制度を活用して一棟まるごとの民泊マンション運営を始めると発表し、話題になりました(参考記事:京王電鉄、鉄道会社として初の民泊参入。百戦錬磨と連携。民泊マンション「KARIO KAMATA(カリオ カマタ)」2月22日オープン。)。

京王電鉄のように不動産事業を展開している大手インフラ企業などが今後も同様の形で民泊市場に参入する可能性は十分に考えられます。

一方で、最新時点(2017年2月14日時点)における特区民泊取得件数を見てみると、東京都大田区で31件、大阪府大阪市で27 件、大阪府大阪市外 4 件にとどまっており、件数は伸び悩んでいます。特区民泊は旅館業法簡易宿所よりは許認可をとりやすいものの、宿泊日数の制限という大きなネックに加え、消防法で定められた防火設備に対する投資負担や近隣住民への説明、など様々な手続きを踏む必要があり、これらがハードルとなって制度の活用に二の足を踏んでいる事業者が多いのが現状なのです。

民泊新法が施行されることも考えると、特区民泊がより活用されるためには、さらなる規制緩和が必要だと考えられます。

新法制定後、違法な「ヤミ民泊」はどうなるか?

民泊新法の制定・施行後、現状はほぼ野放し状態にされている違法な民泊、通称「ヤミ民泊」はどうなっていくのか?というのも気になるところです。

仮に民泊新法により年間営業日数が180日までと定められたとしても、それをリソースが限られる行政側がそれをどうやって監視・チェックするのかという現実的な問題はあります。

また、民泊仲介サイト最大手のAirbnbは180日以上稼働している物件は掲載を自動で落とすというシステム制御を加える方針であることを公表しましたが、その場合でもホストは他の民泊仲介サイトを活用して残りの日数を集客することは可能ですので、ヤミ民泊に対する完全な歯止めにはなりません。

そのため、新法制定後も完全に「ヤミ民泊」がなくなるかどうかはかなり疑わしい側面があります。ただし、新法制定においては、民泊ホストに対してではなく、民泊運営代行会社に対して法律に違反した場合の厳しい罰則規定がかけられていますので、仮にホストがヤミ民泊を運用したいと思っていたとしても、運営代行会社側がそうした物件の管理委託を断るというケースは多くなるはずです。

商業的に利益を追求したいホストほど運営代行会社を利用する必要性が高いという点を考慮すれば、新法制定により「ヤミ民泊」の数は減少する可能性は高いと考えられます。

Airbnbの動きとOTAの動き

民泊ホストや民泊運営代行会社だけではなく、民泊仲介サイトの動きについても注視する必要があります。まず前提として理解するべきなのは、ゲストの視点から考えた際に、いわゆる民泊と旅館・ホテルとの境目はますますシームレスになっていく可能性があるという点です。

例えば、あまり知られてはいませんが以前から既に民泊ホストだけではなく一部の旅館やホテルはAirbnb上に自身の部屋を掲載しており、OTAチャネルの一つとして活用しています。メディアでは「旅館」対「民泊」という対立構造が叫ばれるケースも多いのですが、一部の旅館はすでにAirbnbも上手に活用しながらインバウンド需要を上手に取り込んでいるのです。

また、シンガポールに本拠を置く民泊仲介サイト大手の一つ、Roomoramaも、地方エリアの旅館やホテルを数多く掲載しており、旅館・ホテル向けに一つのリスティングページに複数の部屋の掲載できる仕様も用意されています。

Airbnb自体も、今後も旅館業の許認可を取得している宿泊施設との取り組みを強化していくと発表していますので(参考記事:「民泊Airbnbが旅館業法上の「宿泊施設」との取り組みを本格化、国内3法人と提携、その背景を担当者に聞いてきた」)、今後もAirbnb上では個人の住宅ではない旅館やホテルの掲載が増えていくことが想定されます。ゲストは同じプラットフォーム上で、民泊、旅館、ホテル問わずバーティカルに宿泊施設を検索し、予約するようになるため、より競合性が高まる可能性もあります。

また、既存のOTAについても、民泊新法施行後は、合法的な民泊物件については掲載できるようになる可能性も想定しておく必要があります。これらのOTAは海外の他OTAとの在庫共有なども含めて豊富なネットワークを保有しており、既に高い集客力を持っていますので、民泊ホストにとっては強力な集客ツールとなる可能性があります。民泊といえばAirbnbの一極といった状態は今後徐々に崩れていくかもしれません。

少し話はそれますが、仮にAirbnb以外の既存OTAや中国系の民泊仲介サイトなども含めたマルチサイトでの集客が標準化するとなれば、民泊ホストや民泊運営代行会社は複数の集客チャネルの管理が求められますので、サイトコントローラーの市場なども今後はさらに盛り上がっていくことが想定されます。

民泊新法によるプレイヤー増加は稼働率低下につながる?

昨年の後半ごろから、Airbnbで集客している民泊ホストの方からは、物件数の増加に伴い競争が激化し、以前ほど予約がとれなくなったという話を頻繁に聞くようになりました。また、稼働率が低いホストが予約をとるために宿泊単価を下げるため、そのスパイラルでより収益性が悪化しているという話もよく聞きます。

実際に、ホテル業界のリサーチ会社STRが今の1月に公表したAirbnbに関する調査レポートによると、調査対象となった世界13都市のうち、東京、パリ、サンフランシスコの3都市だけは供給側の成長率が需要側の成長率を上回っていたという結果が出ています(参考記事:「Airbnbの成長はホテルの価格や稼働率に影響しない!?STR調査」)。

少なくとも東京においては、需要の伸び以上に物件の供給数が増え、結果として競争が激化していることは間違いなさそうです。政府は2020年までに訪日外国人4,000万人という目標を掲げて積極的な施策を展開しているものの、既に多くのインバウンド向け宿泊施設の開業が計画されており、民泊新法の制定によりさらに個人のプレイヤーが増えることも想定すると、今後、民泊がどこまで収益性が高い事業なのかという点は慎重に検討する必要がありそうです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?民泊新法の制定に向けて、今後は大手企業らによる民泊事業への参入リリースも相次ぎ、民泊市場はさらに盛り上がっていくことが予想されます。民泊市場が健全かつ持続可能な形で成長していくためには、法制度の整備が欠かせません。日本は世界の都市と比べて法整備が遅れていましたが、民泊新法が制定されれば、ようやく日本もスタートラインに立つこととなります。一日も早い新法の制定・施行を期待したいところです。

(Livhub 編集部)

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Livhub 編集部

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