バケーションレンタルサイトの世界最大手といえばAirbnbだが、そのAirbnbの陰で急速に成長を続けているサイトがある。それが中国の北京に本拠を置くバケーションレンタルサイト「途家(Tujia)」だ。
2011年に設立された途家は、北京発のベンチャー企業として中国政府の経済構造改革に対応しながらシェアリングエコノミーやインターネットと旅行の掛け合わせなど新たなビジネスモデルを模索することで、設立わずか5年ながら中国288都市、海外1020の地域を含む世界67ヶ国に43万件以上の掲載物件を抱える中国最大級のバケーションレンタルサイトへと急成長した。アプリダウンロード数も既に1.2億ダウンロードを突破しており、巨大な中国市場を強みに拡大を続けている。
その途家の創業者、羅軍氏が、中国メディア「环球时报(Global Times)」のインタビューに応じ、これまでの成長要因および今後の見通しについて語っている。同氏は、「中国経済は依然として厳しい状況にあり、成功を収めるには国家戦略に従い時代の先駆けとなる企業を目指していくしかない」と現状を分析している。途家の急成長の背景には、どのような戦略があるのか、ここではインタビューのポイントをかいつまんでご紹介したい。
不動産在庫を削減し、不動産市場に活気を
今、中国国内で深刻な問題となっているのが、過去最大規模まで積み上がっている不動産在庫だ。現在中国では北京や上海、広州や深圳などの一部都市を除き、多くの地方都市で地元政府が不動産の在庫削減に頭を悩まされている。現在中国には空き家が5,000万軒ほどあり、世界一在庫を抱える国となっている。このような現状を受けて、習近平氏は昨年の後半からしきりに不動産在庫の削減を訴えており、昨年11月に開催された中央財務経済第11回目会議の中でも不動産業の持続可能な発展を強調した。この国家的課題の解決にうまく適応し、業績を伸ばしているのが、途家だ。
羅軍氏によると、途家はこの国家戦略に応える形で不動産市場の活性化に力を入れているという。同氏は、特に「中国が世界でも有数の旅行消費大国であることが途家に商機を与えてくれており、オフライン管理や運営を通じて空き家を回転させることで、ゲストにコストパフォーマンスの良い宿を提供すると同時にホストに収益をもたらした」と語る。
また、不動産在庫を減らすために具体的に採用した手法として「ホストから代行を頼まれた部屋にゲストを宿泊させることで得た収益をホストと分かち合うことだ。管理やメンテナンスに生じたコストは途家が負担する」と説明しており、途家のサービスが宿泊客だけではなく、不動産在庫に悩むオーナーにとって大きなメリットを生み出していることが分かる。
例えば、山東省の沿海部では不動産の空室率が高く、利回りや日常のメンテナンスを心配する消費者がなかなか手を出せずにいるが、途家が代行と管理を合わせたパッケージサービスを提供することで、民泊利用で得た収益をホストと分かち合うと同時に家のメンテナンス問題も解決できているという。
現在、途家は中国大手不動産会社100社のうち 8割以上の会社と協力関係を締結しており、80万以上の部屋が掲載待ちの状況だという。今後3年間で少なくとも100万件の不動産を回転させる概算になるとのことだ。
シシェアリングエコノミーの先駆者
中国では、昨年10月に開催された中国共産党18回党大会で「シェアリングエコノミー(共有経済)」の概念が初めて提起された。ただ、途家はその何年も前から既にシェアリングエコノミー型ビジネスを展開し、急成長を遂げてきた。途家はこの流れをどのように予測してきたのか、そして今後どのような発展の見通しを持っているのだろうか。
羅軍氏は、中国は世界屈指の旅行者数を誇る世界有数の旅行消費大国である点、そして世界最多の空き家を抱えているという現状は、不動産のシェアビジネスの発展にとって有利な条件だと分析している。空き家に悩むオーナーからの途家への依頼も増え、宿探しに途家を利用する旅行者も増えるという好循環の中で途家は成長しているのだ。
追い風を受けているのは途家だけではない。このような流れの中で、中国では途家以外にも小猪短租や蚂蟻短租など多くの民泊サイトが登場し、昨年8月にはAirbnbも正式に中国市場に進出。特にAirbnbを利用して中国国外に旅行する中国人旅行客の数は急増している。中国の不動産シェアリングビジネスは今、世界中の関心を集めているのが現状だ。
羅軍氏は、2015年に登場した配車アプリのUberや滴滴出行などと同様に、空き部屋のシェアリングビジネスにも急速な市場拡大期が訪れるだろうと予測している。同氏は、成長には「大量の空き家リソース」「宿泊ニーズ」「安全で使いやすいプラットフォーム」の3つが必須条件になるとしたうえで、今後数年はこれまでにない伸び率で成長できると見ている。
また、途家はこの急成長を受けて現在米国での上場を検討しているが、その見通しについても同氏は楽観的だ。途家は設立以降既に5回に渡り28億人民元を調達しており、現在の市場価値は10億米ドルを超えている。そして過去にスマホの「小米」や配車アプリの「滴滴打车」に対して投資したAll-Stars Investmentや、世界最大手マンション運営会社、Ascottを投資家として受け入れたことで、大きく前進しているという。
途家が米国で上場すれば、同社のビジネスは中国国内を超えてさらに広く世界へと拡大し、中国人旅行客と中国国内の不動産在庫という両輪を強みに一気にAirbnbやHomeAwayなどの脅威となる可能性もある。実際、途家は海外進出に重点を置いており、今後は中国人旅行客から特に人気の高い東南アジアや日本、韓国を中心に展開を進めていき、他の観光地にもオフィスを開設予定とのことだ。
経済成長を牽引する個人消費の先行き
現在中国では経済成長の消費への依存度がますます高まっており、その中でも2015年には海外旅行者数が1.2億人を突破、海外での消費額は1.5億人民元に到達した。このような中高所得者層のニーズに対して、途家はどのように応えていくのだろうか。
羅軍氏は、中国人観光客の日本における家電量販店やドラッグストアでの爆買いは、中国国内における供給不足を示しているとしたうえで、途家は1億人にも達すると言われているこれらの中高所得者層のニーズに適応したビジネス展開を心がけていると語る。
例えば、ドライブ旅行の多い大都市圏や三亜、麗江、または日本、韓国の人気リゾート地周辺の民泊物件や別荘を用意することで、コストパフォーマンスと宿泊の品質にこだわる中高所得者のニーズに対応しているという。
中国人の中高所得者層は、世界中の企業がこぞってターゲットにしている一大市場でもある。莫大な消費意欲を有するこれらの人々に対し、外資系企業よりも遥かに近い距離で彼らのニーズを把握し、適応できる点も途家の強みだ。
今後の世界のバケーションレンタル市場勢力図は塗り替わるか
現在、世界のバケーションレンタル市場はAirbnbの一強状態となっているが、途家や自在客など中国発の民泊サイト勢のグローバル展開がさらに加速すれば、圧倒的な数を誇る中国人旅行客へのリーチを強みに状況は一変する可能性もある。
また、オンライン旅行予約最大手のエクスペディアが昨年12月に買収完了を発表したHomeAwayも、今後はエクスペディアなど既存のプラットフォームとHomeAwayを接続させてさらに予約数を伸ばしていくことを公表しており、これからの展開が見逃せない状況だ。
バケーションレンタルは既存のホテル業界との競争がクローズアップされることが多いが、バケーションレンタル市場のプラットフォーマー同士の戦いも今後はグローバルでより激化していきそうだ。
【参照記事】途家网创始人:房屋分享经济静待爆发期
(Livhub ニュース編集部 華原)
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