米国を代表する大都市ニューヨークは、全米で最も収入格差が激しい地域でもある。2013年の調査によれば、ニューヨークの中心地マンハッタンでは、上位5%の富裕層が下位20%の低所得者層の88倍もの世帯収入を得ているというデータもあり、若者の30%を含む5人に1人以上のニューヨーカーが貧困層として生活を送っているのが現状だ。
このような貧困問題を解決する一助となる可能性を秘めているのが民泊だ。米民泊サイト最大手Airbnbは8月19日、ホームシェアリングは既にニューヨークの多くの低所得地域において深刻な貧困にあえぐ人々の新たな収入源として機能しているとするレポートを公表した。
Airbnbはレポートの中で、ニューヨーク市内の中でも特に貧困地域として知られるHUD Revitalization Areas(ハーレム・イーストハーレム・北・中央ブルックリン・南ブロンクスの5地域。以下、HUDRAs)において、ホームシェアリングが生み出しているインパクトに関する詳細データを開示している。
HUDRAs地域の平均世帯収入は3.2万米ドルで、それ以外の地域の平均世帯年収5.6万米ドルよりも43%低く、また同地域に暮らす賃貸住宅者の3分の1が収入の半分以上を家賃に支払っているのが現状だ。
Airbnbのレポートによると、同地域でホームシェアリングをしているホストは、2015年6月から2016年6月までの間に39万米ドルの収入を生み出しており、これが2014年4月から2015年4月までと比較して80%も上昇しているという。HUDRAs地域におけるこの成長スピードは、ニューヨーク市全体の成長よりも速いとのことだ。
HUDRAs地域は、ニューヨーク市の国勢調査単位区の8.9%しか占めていないものの、同市内におけるAirbnb収入の9.2%を生み出しており、他地域と比較してホームシェアリングがより根付いていることが良く分かる。
また、Airbnbはこのホームシェアリングによる収入が大学費用の支払いや老後の貯蓄など、同地域に住む低所得者の人々の生活のための重要な収入源となっている点を強調している。実際に、HUDRAs地域のホストの典型的な収入は4,500米ドル以上で、この数値は同地域の世帯収入を13%高めるのと同等の金額だ。また、HUDRAs地域のホストは、彼らの自宅を一ヶ月に3日間だけまるまる貸し出すか、空いている部屋を月に6日間貸し出すだけでも10%収入を増やすことができるとしている。そして、同地域にある登録物件の3分の2はまるまる貸し切りではなく個室やシェアルームでの貸し出しとなっているとのことだ。
Airbnbはこれらのデータに基づいて、ホームシェアリングはニューヨークの低所得者層が住むコミュニティに大きなインパクトをもたらしていると主張している。また、これらの地域は伝統的な高級ホテルが立ち並ぶマンハッタンのミッドタウン地域とも重なっておらず、ホームシェアリングの浸透による打撃を恐れるホテル業界から反発を受ける正当な理由もない。
ニューヨークでは今年の6月に短期の部屋貸し出しを規制する法案が上院を可決するなど民泊に対する厳しい姿勢がとられているものの、一方で今回のデータからは、民泊が同市の抱える貧困格差という課題に対して着実に成果を上げているという側面も垣間見える。
民泊の広がりに否定的な住民やホテル業界関係者らと、民泊を主要な収入源としている地域コミュニティとの共生をどのように図っていくべきなのか。政策的にも非常に難しいバランスが求められるが、引き続きAirbnbおよびニューヨークの動向に注目したい。
【参照記事】HOW AIRBNB CAN SUPPORT LOW-INCOME NEIGHBORHOODS IN NYC
【レポートダウンロード】HOW AIRBNB CAN SUPPORT LOW-INCOME NEIGHBORHOODS IN NYC
(Livhub 編集部 佐々木 久枝)


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