導かれ、見えた “水” が巡る心地よい「屋久島」

ひとりが好きだ。

ご飯を食べているときに、ふとアイデアを思いついたり、
散歩をしているときに、偶然見つけたお店にふらっと入ったり、
旅をしているときに、初めましての人と意気投合したり。

ひとりだと誰かといては気付けないことに気づき、出会えないものに出会うことが多い。

でも、一方でひとりでは見えない世界もある。先日訪れた屋久島では、ひとりで訪れていたら決して見えなかっただろう世界をたくさん見せてもらった。導かれ、身をゆだね、見えた屋久島をここに記す。

「手で小さな丸をつくって、その穴から森を覗いてみてください」

屋久島に着いた一日目、ザーザー降りの雨のなか向かった屋久杉の森の中で、森林浴ファシリテーターである旅のガイドがそう言った。

森林浴ファシリテーター石黒燈さん

森林浴ファシリテーター石黒燈さん/Photo by Kenichi Sasagawa

どういうこと?と思いながら、手をすぼめ、小さな穴の先を片目で見る。

森のなか-手でめがね

Photo by Kenichi Sasagawa

最初の数秒は、ピントがうまく合わずよく見えなかった。しかししばらくすると、見えてくる。

青々とした苔の先端につく雨粒。木の根の間を流れる水。

視界を狭めることで見えた景色は、人間から見た世界ではなく、自然のなかで生きる虫や草木たちから見える世界のようだった。

レインコートにぼつぼつと雨が当たる。降りしきる雨のなか傘をささずに歩いたことなんて今まであっただろうか。

「上を向いてみると楽しいですよ」

見上げると大きな屋久杉たちのあいだから大きな雨粒が落ちてくるのが見えた。顔面に当たる水もなぜか嫌じゃない。目を開けたまま受け止めた。

yakusugiland

ガイドから森に生える植物や木々などの詳しい説明はほとんどない。頭ではなく、五感で森を捉えられるようにポツン、ポツンと出される穏やかな提案に、導かれるまま身を委ねる。

枝からしたたる水をそのまま飲んだり、苔に頬ずりしたり、落ちている葉っぱをちぎって香りを嗅いだり、目をつぶり耳を澄ませたり。

一時間半ほどゆっくりと森に身を浸して、外にでたら雨が豪雨に変わっていた。車で山道を下る途中、滝のような大量の水が山の斜面に沿って轟々と音を立てながら溢れ出ている光景に何度も遭遇した。あの水をまともに身体で受け止めたら…と思うと、水の持つ力や自然の脅威を感じずにはいられなかった。

森のなかの水のながれ

屋久島の電力は99%水力発電で賄われている/Photo by Kenichi Sasagawa

翌日の天候は曇り。一日目とは別のガイドのもと、森ではなく海と川に向かう。

屋久島といえば、苔がしげる「森」が見どころで、正直それだけだと思っていた。しかし屋久島の魅力を彼はこのように教えてくれた。

「僕が屋久島に移住してきたきっかけは『水』です。当時住んでいた大阪の町の川は濁っていて全く飲めそうになく、だから川の水は飲めないものだと思っていました。でも屋久島を訪れたときに、あるきっかけから川の水を飲んだら、ものすごく美味しかった。この水を生み出す秘密を知りたくてここに住むことにしたんです」

MOSS OCEAN HOUSE今村さん

Moss Ocean Houseの今村祐樹さん/Photo by Kenichi Sasagawa

屋久島は「月のうち35日雨が降る」と言われるほど雨が多い場所。屋久島周辺の海には、温かな海流・黒潮が流れ込んでおり、その黒潮が水蒸気となり屋久島の山肌を駆け上がって雲になり、雨を降らす。雨は、森に染み込み、溢れ出したものが川となり、海へと流れ、また雨になる。

「水を介して森と川と海はつながっている。頭では分かっていることかもしれませんが、屋久島はコンパクトだからこそ、このつながりを体感できる場所なんです。川は川じゃなくて、森でもあるし、海でもある。この全体性の感覚を取り戻しやすい場所が屋久島なんです」

確かに都会に住みながら、そのつながりを体感するのはすごく難しい。森と川と海を同時に視界に入れることはなかなかできないし、森から川をつたい海まで歩いていける場所も少ない。ぜひそのつながりを体感してみたいと思いながら、彼の後についていく。

海

Photo by Kenichi Sasagawa

海に出た。砂はなく、あたりは石だらけ。

「このあたりに寝転んでみてください」

ごつごつして痛そうではあったが言われるがまま石と石の隙間を見つけて横になった。

水の流れの上に寝転がる

Photo by Kenichi Sasagawa

水の音がする。石をいくつかどかしてみると、下の方に水が流れているのが見えた。水が流れるすぐ先には海があり、水が流れてくる方を向くと山がある。山から水が流れ今自分の体の下を通って海に流れていっている。その事実を体で感じた。

立ち上がり、水の流れを辿っていくと竹藪が現れた。竹藪をかき分けながらガイドに導かれるままゆくと、視界が開けうすく苔に覆われた岩肌がそこに。まるで探検家のような気分で、人生で初めて岩を登る。苔があるので滑りやすく、一歩一歩確かめながら進む。足元にはずっと水の流れがあった。

沢登り

最終日、また別のガイドの案内で2つの場所を訪れた。一つ目は「牛床詣所(うしどこもいしょ)」。屋久島は古くから山岳信仰の島で、牛床詣所は山岳信仰の重要な行事である「岳参り」の際に、家族が山に詣でた男たちを迎えた場所なのだという。

牛床詣所

鳥居をくぐり、参加者一人一人祠に手を合わせる。静けさがあたりを包む。気づくとみな話すのをやめ、ただ静かにその場所に佇んでいた。なんとも言えない心地よさがある場所だった。

牛床

Photo by Kenichi Sasagawa

ふとガイドが一言発する。

「なんで人は祈るんでしょうね」

思いがけず急に飛んできた大きな問いに、思考が始まる。なぜ人は祈るのだろう。

木漏れ日

Photo by Kenichi Sasagawa

旅の最後に訪れたのは、森の中に佇むプラントベースのカフェ「Plant-based Cafe & Act【ne-】」。暖簾をくぐるとそこにはいい風が流れていた。空間には人工物がほとんどなく、木や石など自然物の温かさで溢れている。牛床詣所につづき、なんとも心地のいい場所だ。

ne-

「『心地よさ』ってひとつの必然性だと思うんです。体にいいとか環境にいいという入り口ではなく、心地いいや美味しいといった必然性をつくっていきたいなと思い活動しています」

ne- 丸山さん

【ne-】運営者のひとり、丸山悟さん/Photo by Kenichi Sasagawa

カフェを運営する方がそう教えてくれた。心地よく美味しいプラントベースドのお弁当を頂いたあとは、カフェを抜けてすぐそばにある7000年の森へと向かう。

ne-裏の森のなか

Photo by Kenichi Sasagawa

すぐ近くに川が流れ、木漏れ日が煌めく森のなかに座り、裸足になる。こんなに心地いい場所があるのかと思うほどに気持ちがよく、目を閉じて眠りたいくらいだった。贅沢な3日間の旅を思い出しながら、やっぱり私は自然が大好きだと思った。その大好きな自然を守り受け継ぐために自分にできることは何だろうかとも。

旅先で、ツアーに参加したり、ガイドをお願いする人はどれくらいいるだろう?

正直私は今までそういった経験がほとんどなかった。ひとりや友人、家族だけで旅するほうが気楽だと思っていた。しかし、今回の屋久島での体験を通して、ひとりでは見えない世界がたくさんあることに気づいた。

導いてもらうことで、屋久島の森の魅力を深く体感し、思いもしなかった「水」や「森川海のつながり」という屋久島の新たなる魅力を知り、ガイドの問いや言葉から新しい気づきや思考のきっかけを溢れるほどにもらった。

森を見て「きれいだ…」で終わらずに、屋久島に行って「縄文杉は大きかった…」で終わらずに、より深くその土地を見つめるために、次の旅では素敵なガイドに導きをお願いしてみては?

◆ 森を案内してくれたガイド

森林浴ファシリテーター 石黒燈さん
森林浴ファシリテーターあかりん
石黒さんと島結の笹川さんが実施するツアー詳細は「屋久島で生きると戯れる はじまりの旅 2023年」から。参加者募集中!

◆ 海を案内してくれたガイド

Moss Ocean House 今村祐樹さん

MOSS OCEAN HOUSEが実施するプログラム詳細は「MOSS OCEAN HOUSE Action」から。参加者募集中!

◆ 牛床詣所と【ne-】を案内してくれたガイド

屋久島アウトドアガイド 島結 -SHIMAYUI- 笹川健一さん
ささっちょ 屋久島ガイド
島結が開催するおすすめのツアー情報は「屋久島ガイドおすすめのツアーご紹介」から。参加者募集中!

◆ 【ne-】の運営者

【ne-】 Plant-based Cafe & Act 丸山悟さん

丸山さんは森林と人が木を通じて繋がることで、自然・人・地域が共に豊かになることを目指してツアー提供などを行うKIZUNA PROJECTにも従事。KIZUNA PROJECTが提供するツアー詳細は「KIZUNA PROJECT Tour」から。

※本記事は、現在公募は行っていない「Yakushima learning camp 2023」に参加のうえ作成しています。
【関連記事】日本最高峰のアウトドアガイドに出会える「Kammui.com」でプレミアムな自然体験を
【関連記事】いつもより一歩深く、町と関わってみる。「町歩きツアー」を開催している、ゲストハウスやホテル7選+番外編

The following two tabs change content below.

飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると“いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。