23日、イギリスの国民投票においてEUからの離脱(ブレグジット)が決定され、世界を驚愕させました。EUから脱退国が出るのは、1993年の発足から初めてのことであり、世界5位・EU2位の経済規模を持つイギリスの離脱がEUに与える影響は非常に大きいと考えられています。今後、EUの離脱ドミノの可能性やユーロ通貨の信頼性の低下などが予想され、リーマン・ショックを超える世界経済危機に直面するのではないかと各国が緊急の対応を検討しています。
こういった動きのなかで、日本経済やインバウンド市場には、どのような影響が起こり得るのでしょうか?ブレグジットに関する情報を整理しながら、今後の民泊・インバウンドの動向を考えていきたいと思います。
ブレグジット(brexit)はなぜ起きたか?
国民投票では、残留派優位の事前予想を覆し、離脱が51.9%を獲得してブレグジットが決定されました。
その離脱派の主張は、主に以下のような点でした。
- 移民受け入れが社会保障の負担になっている
- 移民受け入れを続ければ、国民的・文化的アイデンティティの喪失にもつながる
- 離脱により、毎週3.5億ポンド(約530億円)のEU拠出金を自国の財源に充てることができる
- 規制や法律の多くがEUによって決められているため、離脱によって主権を取り戻すことができる
イギリスは社会保障が手厚い国ですので、難民にとっては非常に魅力的な国に映ります。EU加盟国は難民受け入れを拒否できないという制約があるため、社会保障費が膨れ上がっていく現状を変えるためには、EUから離脱しなければならないという主張です。
そのほかにも、巨額のEU拠出金が財源として利用できるようになる、貿易交渉などを国益に沿う形で行えば経済的メリットを生み出せるといった主張もありました。
これらの離脱派の主張を抑えるため、残留派のキャメロン首相もEUと交渉して有利な条件を引き出すなどの努力をしましたが、その後も離脱派の勢いは止まらずブレグジットが実現してしまいました。
イギリス国内とEU周辺国の動向
ブレグジット決定を受けて、イギリス国内ではすでに次のような問題が出てきています。
- ブレグジット決定後、通貨ポンドが急落し1985年以来の水準に
- キャメロン首相が辞意を表明し、10月に辞職
- EUの欧州委員長は、キャメロン首相の辞職を待たずに今すぐにEU離脱交渉を開始したいと発言(※1)
- EU離脱を受け入れらないスコットランドが、独立に向けて国民投票を再検討
- 金融大手企業などイギリス国内の外国籍企業が、EU離脱に合わせて移転・撤退を検討
※1 英EU離脱交渉今すぐに、待つ意味まったくない=欧州委員長 -ロイター
http://jp.reuters.com/article/britain-eu-juncker-idJPKCN0ZA3JV
EUは離脱ドミノを防ぐために、イギリスとの交渉に毅然とした態度で臨む必要があり、イギリス離脱派が想定していたよりも交渉が難航する可能性があります。また、スコットランドが再度国民投票を実施する可能性が高まっており、国内分裂の危機にも直面しています。
経済面では、イギリスに本社機能や欧州の統括機能などを置いていた外国籍企業が、EU離脱に伴いイギリスからEUの各国に移転を検討し始めています。特に、ロンドンは金融センターとして機能していたため、金融大手企業も多く存在しますが、英金融機関によるEU域内市場へのアクセスが限定的となる見方から、今後はブリュッセル、アムステルダムやフランクフルトなどロンドンと競合してきた都市へ移転を検討しています。これにより、ロンドンの金融センターとしての存在感が弱まっていくことが予想されます。
EUへの影響にも目を向けると、イギリスの離脱は、イギリスだけにとどまらずEUの他の加盟国へ波及するという見方が強まっています。各国の左派やEU否定派が同様に国民投票を求め始めており、EUの体制を大きく揺らがせる事態に発展していくことが予想されます。
この状況に対して、米国のFRB元議長のアラン・グリーンスパン氏も、経済テレビCNBCで「私が公職に就いて以降、思い出す限り最悪の時期」(※2)と最大限の危機感を表明しています。
※2 グリーンスパン氏「英EU離脱、これまでで最悪」- 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM25H0G_V20C16A6NNE000/
日本経済・インバウンドへの影響
ブレグジットは、日本経済にも大きな影響を与えています。ブレグジット決定後に、日経平均は1,286円安となり、一時1ドル=99円まで急騰しました。リーマンショック時の日経平均は最安でも1,089円安でしたので、今回のブレグジットがマーケットにいかに重く受け止められているかが分かります。
今後の動きとしては、円高・株安が進行すると輸出企業の受注減・利益減など業績の悪化や国内不景気を招き、投資や個人消費の低迷などにもつながるため、注意が必要です。
また、円高により他の国と比べて日本での消費が割高となってしまうと、訪日客の減少につながる可能性があります。世界経済のほうでも、株安が進行すると全体的に個人商品が低迷してしまいますので、世界全体で旅行自体が少なくなってしまう可能性があります。
ただ、今回のブレグジットは、イギリスやEUで深刻な影響が予想されるものの、欧州経済圏から遠い日本やアメリカではイギリスやEUほど影響を受けにくいという見方もあります。その場合は、不動産などに資金が向かう可能性もあります。(※3)
※3 不動産投信や先進国のヘッジ外債が人気:ニッセイアセット・赤林社長 -ブルームバーグ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-06-22/O9284U6JTSEH01
まとめ/ブレグジットショックで民泊はどうなる?
これらの動きを踏まえると、ブレグジットショックは民泊にもマイナスの影響が与える可能性が高いと言えるでしょう。世界株安や円高による訪日客の減少により、数年は民泊市場の伸びが限定的になる可能性があります。
ただし、ここまでの想定は、事態の収束までにほとんど有効打がなかった場合のものとなります。イギリス・EU・日本などの各国において、危機を回避する対策がうまく機能した場合には、深刻な経済危機には至らずに済む可能性があります。
また、前の項でも少し触れた通り、ブレグジットがアジアやアメリカで限定的な影響となった場合には、民泊客の主要国である中国・韓国・アメリカなどからの訪日客の回復も早いことが予想されます。
いずれにせよ、民泊を取り巻く状況は今後も大きく変化していく可能性が高いので、ブレグジットを含めて経済動向を注視していきましょう。
(Livhub 編集部)
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