タイの首都バンコクをはじめて訪れたのは、大学生のとき。ドイツ留学をきっかけに、気ままにヨーロッパをあちこち回っていたものの、東南アジアはほぼ未開の地。そんな私の背中を押すように、両親がバンコク旅行に誘ってくれたのが、のちのタイ移住のきっかけともなった。
高層ビルが立ちならぶ冬の青い東京をぬけて、成田空港へ。さっきまで走っていた東京の街並みを、飛行機の窓から眺めたり、機内食のランチを頬張りながら両親と雑誌のバンコク特集を読んでいると、あっというまに常夏のバンコクに到着してしまった。
タクシーで空港から市街へと向かい、ぱんぱんに膨れたバックパックを背負いながら賑やかなストリートを闊歩する。屋台に立つ地元の方のココナッツやマンゴーを細切りにしていく慣れた手つき、きらびやかな寺院とブッダの像、にゃーにゃーと近づいてくる愛くるしい猫たち。
「おなじアジア圏でも日本とタイでは、こんなにもみえる景色や文化が違うのか」
考えてみれば、はるか遠くの国々に目が向いていたわたしの目は、この日を機に、魅惑の東南アジアへと少しずつうつってきていたのかもしれない。
バンコクごはん、チェンマイごはん、どっちがお好き?
Photo by Kittitep Khotchalee on Unsplash
あれから7年の月日がたった今、わたしはタイのチェンマイに拠点を置いている。緑の山々に囲まれたチェンマイは住み心地がいいが、ときどきバンコクのあの活気あふれた都会のエネルギーがふと恋しくなることがある。バンコクは東京のように、高層ビルと路地裏の屋台が交錯する街で、新しい出会いが毎日を彩る。高層ビルが立ちならび近代的な街並みが増える一方で、古き良き伝統がまだまだ残っている二面性がこの街をより魅力的にしているのかもしれない。
そんなタイの都は、食文化も絶賛進化中。高級レストランからローカルな屋台まで、多様な食のスタイルが共存していて、伝統的なローカルグルメから都会的で洗練された料理まで勢ぞろい。国際都市ならではの世界中の食文化が交じり合い、タイ料理にフランスや日本、インドなど他の国の食文化を取り入れたフュージョン料理など、伝統と革新が交わった多国籍なお店がたくさんある。
対して、タイ北部にあるチェンマイでは、山の恵みを生かした伝統的な料理、カオソーイなどのスパイシーな北部料理を堪能できる。アットホームというか、ほっこりと心がほどけるほうなタイの北部料理は私のお気に入りだ。
ちなみにタイでは1962年に故プミポン前国王主導で開始した「ロイヤルプロジェクト」によって、有機栽培などに力が入っている。当時山岳民族の間で行われていたアヘン栽培を取りやめ、代わりに温帯作物の栽培をサポートするなど、山岳民族の生活環境を改善するとともに、高地の天然資源と環境を持続可能な形で回復するため取り組みが進めてられてきた。現在ではタイ全土に「ロイヤルプロジェクト」製品としてオーガニック野菜からコスメ商品、生活雑貨など幅広く扱うお店も展開しており、サステナブルな暮らしを送るための強い味方となっている。
さてさて、本記事ではそんなタイ在住の筆者がバンコクでサステナブルに「飲む」「食べる」を満喫できるディープな旅のおすすめスポットを2つ紹介する。
タイの伝統音楽を夜な夜な楽しめるバー「TEP」
Image via TEP BAR
ネオン街がざわつきはじめる夜8時。
チェンマイ出身のタイ人の友人に連れられて、おしゃれなバーが立ち並ぶチャイナタウンのはずれ「ソイ・ナナ」にある細い路地へと足を踏み入れる。コンクリートの壁と街灯だけの無機質な道の途中に、荘厳な扉がたたずむ。そっと扉をあけると外の雰囲気とはガラリと変わり、ろうそくの火がゆらゆら灯った店内に、タイ伝統楽器を奏でる陽気なバンドマンたちの姿が。店内は彼らをぐるりと囲むようにテーブルと椅子が配置され、ほぼ満席。2階からはバンドの生演奏に酔いしれる客たちが吹き抜けを通して拍手喝采をおくっていた。
このまるで隠れ家のような「TEP BAR」は、海外に留学していたタイ人のオーナー3人が、帰国後にタイの芸術や文化、料理の素晴らしさを海外に広めるためにオープンしたバー。毎日行われる伝統楽器の生演奏はいつも満席で、地元から海外まで老若男女さまざまな人が訪れる。
そして音楽のみならず、タイの薬草酒として有名なヤードンをベースにした珍しいカクテルや、そうしたお酒によくあう伝統料理のメニューも提供されており、レストランとしての質も高い。タイの伝統料理、フルーティーでスパイスのきいた南国カクテルたち、陽気なタイ人により奏でられるタイ伝統音楽。あらゆるタイの魅力に気づかされる、贅沢な時間をぜひ。
TEP BAR – Cultural Bar of Thailand
住所:69, 71 Yi Sip Song Karakadakhom 4 Alley, Pom Prap, Pom Prap Sattru Phai, Bangkok 10100, Thailand
地図:Google Mapでみる
公式サイト:https://www.tepmahanakhon.com/
タイ初のゼロウェイスト・アーバンファームレストラン「Haoma」
Image via The World Keys
ミシュランには「グリーンスター(Michelin Green Star)」という評価制度があるのをご存知だろうか。グリーンスターはミシュランガイドが持続可能性や環境への配慮を評価するために導入した新しい評価制度のことで、食材の調達方法やエネルギーの使用、廃棄物のリサイクルや管理、地域社会との関わり方など、環境に対する取り組みが評価される。
ミシュランを獲得しているレストランは数多とあれど、このグリーンスターを獲得しているレストランはタイ国内で4店舗のみ。2つはプーケット、2つはバンコクにあり、なかでもミシュラン1つ星とグリーンスターの両方を獲得している唯一のお店が、インド料理レストランの「Haoma」だ。
レストランでは持続可能な地元の食材、バンコクの自家オーガニック農園で採った食材を使用し、敷地内には循環型の有機農業法であるアクアポニックスのシステムを導入のうえ、日々メニューに使われる40種類のハーブや植物等を育てる。また、有機廃棄物の70%を堆肥化し、残りの30%を魚の餌にするなど、廃棄物リサイクルをおこなうことでゼロウェイスト活動にも取り組んでいる。こうした環境面の取り組みに加え、No One Hungry Initiative(飢餓ゼロイニシアティブ)を掲げ、飢餓に苦しむ人々への無償の食事の提供も行っており、食を通じて多様な社会問題にアプローチしているのが特徴だ。
店内には植物がふんだんに置かれ、ナチュラルで落ち着いた雰囲気のなかフレンドリーなスタッフとシェフが迎えてくれる。「都会の中にある自家農園レストラン」という意味でアーバンファームレストランと自称しており、都会に住む人々が、Haomaに来ることで「自然に回帰できる」ことをコンセプトとしているそう。まさに、都会のオアシス。コース料理も言葉を失うほどの美味しさとボリューム。バンコクに寄った際は、Haomaにて季節ごとに変わるコースをお楽しみあれ。
Haoma Bangkok
住所:231, 3 Soi Sukhumvit 31, Khlong Toei Nuea, Watthana, Bangkok 10110, Thailand
地図:Google Mapでみる
公式サイト:https://www.haoma.dk/
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鷹永愛美

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