「冒険のような旅がしたい」
パソコン作業で酷使した目を閉じながら、ふと小さい衝動がじわじわと胸に湧いてくる。
のんびりと自然のなかで、ただ何もしないでいるのも好きだが、たまにはドキドキとわくわくに満ちた旅がしたい。どこか良い場所はないかとタイ・チェンマイ生まれの友人に連絡をすると、すぐに連絡が来た。
私が住むチェンマイはタイの北部にある。そこからさらに北へ車やバイクで3〜4時間ほど走ったところ、ミャンマーとの国境あたりににある小さな集落「Baan Rak Thai(バーンラックタイ)」がおすすめだという。友人を数名誘って早速旅に出ることにした。
道中に、旅人が魅了される街「Pai」へ
バーンラックタイに向かう途中には、デジタルノマドの新たな聖地にもなってきているというPai(パーイ)という小さな街がある。チェンマイで出会ったあらゆる旅人におすすめされて気になっていたので、せっかくだからこの街にも1泊することに。
パーイに辿り着くまでの道は険しい。タイでも屈指の絶景ドライブコースとしても知られ、美しい山並みとトロピカルな風景を楽しめる一方、チェンマイからパーイまでの約130kmの道のりには、762ものカーブがある。ヘアピンカーブにS字カーブ、急な坂道を登ったり下ったりとまるでジェットコースターに乗っているかのような道が続く。
左右上下にゆれていた車がゆっくり停車し、青ざめた顔で車の外にでると、夕日で真っ赤に染まる空と山々、のどかな棚田に森と、あたり一面に絶景が広がっていた。まるで絵画のなかに迷い込んだような、そんな不思議な感覚におちいる。あらゆる旅人が魅了される理由がしっくりきた瞬間だった。
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夕飯を探しに市街に繰り出す。街はアートやヨガのリトリート、自然志向なカフェやレストランに加え屋台通りもあり、ゆったりとした空気感。訪れた日は金曜の夜ということもあってか至るところでパーティーが開催されていた。さすがバックパッカーの聖地。つねに旅人同士の交流やパーティーが湧き上がっているのも旅人がこの地を愛する理由なのかもしれない。
また市街から少し移動すれば渓谷、滝など手つかずの自然にもアクセスができるのも良い。次はゆっくり数ヶ月滞在してみようと思いながら街を後にした。
タイの山奥の秘境「Baan Rak Thai」まで
パーイから山奥にある「Baan Rak Thai(バーンラッタイ)」という小さな村までの道のりは、相変わらずの悪路ではあるものの、山々の連なりと時折みえる棚田、茶畑の緑が美しい。
約2時間ほどの怒涛のドライブを終え、標高1776kmの山あいに到着すると、目の前にはひっそりと佇む湖と小さな村が現れた。どこを切り取っても映画のセットのようで、まるでジブリの世界に迷い込んだかのよう。赤提灯の灯る屋台船が多く浮かぶ大きな湖の周りに、建物が立ち並ぶ。村には野生のパイナップルやアボカドが実り、いたるところに広がる茶畑では茶摘みをしている人の姿が見られる。
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村の中心地を歩くと、中華風のレストランの店員さんが中国茶の試飲をすすめてくる。景色とお店の内観に惹かれつつ、店員さんの説得力におされて店内へ。席に着いてメニューをひろげると、中国・雲南料理がずらりとならぶ。メニューは中国語とタイ語が記載され、周囲に座る地元民と見られる人々も中国語で会話をしていた。
「お姉さんたち、どこからきたの?」ボリューミーな雲南料理を運んできた店員さんが陽気な笑顔で話しかける。「チェンマイから車できました」と言うと、驚いた顔で「チェンマイからだと7時間かかるよね!でも最近は観光客も増えているよ」と言った後、バーンラッタイという地の歴史を教えてくれた。
1949年、中国・共産党軍との衝突で敗れた国民党軍の一部の兵士やその家族がこの地に移住。その後彼らが、農業や茶の栽培を発展させいまの村が形成されてきたのだとか。店員さんの祖父母も中国雲南省からの移民だという。そうした経緯があり、村には中国文化が色濃く残っているのだ。
「最近はミャンマーからの移民も増えているし、時代が変わっても歴史は繰り返すね」店員さんの一言で、チェンマイのカフェやホステルで出会ったミャンマー出身の友人たちの顔が脳裏をよぎる。近年はタイ全域に、経済的・政治的理由などによりミャンマーから多くの難民が移住しており、タイにはおよそ700万人(ラオスの人口とほぼ同じ)のミャンマー人が暮らしているとされている。
旅に出たからこそ知ることのできた、世界の片隅に確かにあった歴史。旅を通じてそうした歴史と出会い、過去を振り返り、どう受け入れ、未来に活かしていくか。それらを考えて行動していくことが、今を生きるわたしたちの責務なのかもしれない。
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鷹永愛美

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