気候危機から冬を守る。環境団体POW JAPANが “グリーンなスキー場” を増やすためのハンドブックを公開

スキー

冬が近づくと、スキーやスノーボードなどウィンタースポーツを楽しむ準備をはじめる人も多いだろう。しかし、近年は気候変動の影響により、「雪が降らずスキー場をオープンできない」といった話をよく耳にするようになった。

2023年~2024年シーズンは、北海道や東北でも複数のスキー場が営業を断念。雪不足・暖冬を理由とした閉業も増えており、倒産件数も過去10年で最多に並んだという(※)。大型スキー場は降雪機の導入を進めているが、中小の施設ではそれもままならない。施設の老朽化もあり、今後もスキー場の閉業が増加する可能性が指摘されている。

スキー場が脱炭素化・サステナブル化を目指すためのハンドブックが公開

こういった状況を受けて2023年12月に発足したのが、環境団体POW JAPANが立ち上げた「サステナブル・リゾート・アライアンス」だ。
サステナブル・リゾート・アライアンスは、スキー場運営者が、当事者意識をもって脱炭素化やサステナブル化を目指していくこと、また、スキーヤー・スノーボーダーにサステナブルな取り組みを行うスキー場の積極利用を促すためのプラットフォームだ。2024年8月現在、全国32ヶ所のスキー場がアライアンスに加盟している。

サステナブル・リゾート・アライアンスは2024年8月、スキー場の脱炭素化・サステナブル化に向けた具体的な取り組みを示す「サステナブル・リゾート・ハンドブック」を作成・公開した。
ハンドブックのPDF版はWEBサイトで公開されており、加盟外の施設やスキーヤー・スノーボーダーも無料で読むことができる。

ハンドブックは「【Chapter 1】グリーンなスキー場をイメージする」「【Chapter 2】グリーンなスキー場を実現する」の二部構成。前半では「国内外のスノーリゾートの事例」を、後半では「スキー場ができる12のアクション」を紹介している。それぞれ概要を説明する。

【Chapter 1】グリーンなスキー場をイメージする

先進事例として、フランス・北米・長野県の取り組みが紹介されている。フランスでは「移動」がツーリズム産業におけるCO2排出量の約76%を占めることと、特に大型リゾートが飛行機移動に依存する海外からの集客が存立基盤になっていることを踏まえ、海外からの集客に頼った経営戦略の切り替えや、公共交通機関の拡充や乗り合いの奨励といったトランジッション施策が行われている。北米においては、4つの大規模リゾートが「2030年までにカーボンニュートラルを目指す」と気候目標を合わせている。

長野県の事例は、サステナブル・リゾート・アライアンスに加盟している野沢温泉スキー場のものだ。野沢温泉では、村ぐるみで再生可能エネルギーへの転換を図っている。野沢温泉スキー場も、スキー大会で使う電力を再生エネルギー由来に切り替えた。加えて豊富な水源を活用した小水力発電を導入しており、夏場は電力が余るほどだという。

【Chapter 2】グリーンなスキー場を実現する

ここからは、具体的な取り組みをまとめた「実践編」となる。アクションリストは12個あるが、いきなりすべてに取りかかる必要はない。アクションごとに「取り組みやすい」「ゲストに支持される」「コストカットが見込める」「地域を巻き込む」「ゲストを巻き込む」「社会に働きかける」という6つのキーワードから関連性の高いものが表示されているので、始めやすそうなアクションから手を付けるのもおすすめだ。12点のリスト概要を紹介する。

Image via サステナブル・リゾート・ハンドブック

[Action 1]温室効果ガスの排出量を把握する
二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を算出することで、目標設定や効果的な排出削減対策、結果の検証ができるようになる。計算のためのツールやサービスは複数あり、中でも日本商工会議所の「CO2チェックシート」は無料で入手が可能だ。サイトからダウンロードしたエクセルシートに電気の使用量などを記入するだけで、簡単に排出量を割り出せる。

[Action 2]施設の省エネを進める
省エネ対策には初期投資が必要だが、LED照明への変更のように低費用で取り組める施策も少なくない。省エネは国や自治体が力を入れている分野でもあり、補助金の活用も可能だ。まずはできることから始めつつ、冷暖房などの設備を更新するタイミングで省エネ機械を導入するのもよいだろう。省エネ対策はランニングコストを抑えられるのはもちろん、施設の快適化も進むので、ゲスト・従業員の満足度向上にもつながりやすい。

[Action 3]再生可能エネルギー由来の電気を使う
再生可能エネルギーへの移行のためにできる手軽な取り組みは、電力会社や電力プランの見直しだ。すでに複数の電力会社から、再生可能エネルギー100%のプランが登場している。加えて、長期的なコスト削減に向けて太陽光パネル・小水力発電の導入も検討するとよいだろう。自家消費のみならず、災害への備えにもなる。

Solar panel skiing resort

Image via Photo by Michael Derrer Fuchs on Shutterstock

[Action 4]ゲレンデづくりのオペレーションを見直す
圧雪車や降雪機は、大量の温室効果ガスを排出している。低燃費仕様に変更するのが難しい場合は、低炭素燃料への切り替えを検討しよう。また、圧雪ルートの見直しで作業時間を短縮できるケースもある。近年は新雪の需要も大きく、非圧雪コースがかえって施設の魅力アップにつながることも。草刈りで地形の変化を抑え、18センチの積雪でオープンできた事例も存在する。

[Action 5]ゲレ食の食材とメニューを見直す
地元の食材を使うと、輸送の際に排出する二酸化炭素を削減できる。その土地でしか食べられない料理はゲストの満足度が高く、地域内でお金の循環を生み出せるのもメリットだ。外国人観光客からの需要が大きいビーガンやベジタリアン料理は、肉を使用しないため温室効果ガスの削減につながる。

[Action 6]ごみを減らし、活用する
手始めにやるべきは、食品廃棄の削減だ。生ごみは水分が多く、焼却時に多大なエネルギーを消費する。食べ残しの多いメニューを変更したり、ごはんの量を調節できるようにするとよいだろう。バイオ式生ごみ処理機やコンポストを導入するとゴミを減らせるだけでなく、堆肥を作って食の循環につなげることが可能だ。使い捨て容器の廃止やチケットのデジタル化も省資源になる。

[Action 7]ゲストの移動に新たな選択肢をつくる
公共交通機関からスキー場へのバスを導入すると、マイカー利用を減らせるほか車の運転が苦手な人や外国人観光客も呼び込めるようになる。電動バスであれば、さらなる二酸化炭素排出量の削減が可能だ。EV充電設備の設置は、電気自動車での来訪をおのずと増やす。乗り合いの促進も効果的で、アメリカ・ディアバレーではゴンドラなどの設備に近い駐車スペースを3人以上の乗り合いに限定している。

[Action 8]森林を保全し、活用する
スキー場周辺の森林保全は、景観の維持はもちろん気候変動対策の観点からも欠かせない。ところが、保全活動を担う林業従事者は木材需要の低迷により減少している。地元の木材や間伐材を積極的に使って、林業を応援することが重要だ。林業従事者の支援としては、連携して自伐型林業を始める方法もある。自伐型林業で森林を適切に管理すれば、カーボンクレジットの活用も可能だ。

Image via Photo by Chizhevskaya Ekaterina on Shutterstock

[Action 9]地域全体の脱炭素化に貢献する
スキー場が脱炭素化に取り組むことで、周辺の産業に影響を及ぼし、地域全体でサステナブルリゾートを実現しようという機運を高められる。Action 8で紹介した森林保全のように、スキー場だけではできない活動への賛同も得やすくなるだろう。そしてサステナブルなエリアは、環境への意識が高いゲストにとっても魅力的だ。

[Action 10]身の回りの人と気候変動について話す
気候変動のあおりを受けるのは、スキー場だけではない。スキー場がオープンできなくなれば、当然スキーヤー・スノーボーダーにも影響が及ぶ。そういったゲストに脱炭素化などの施策をアピールすることでリピーターを増やせるし、ゲスト自身も環境保全への貢献を実感できるようになる。従業員や地域の人との取り組みの共有も、施設の内外にファンを増やすはずだ。

[Action 11]SNSやWebサイトで取り組みを発信する
SNSの活用は実際にスキー場を訪れる人にとどまらず、たくさんの人へのアプローチが可能となる。詳細な情報を伝えられるWebサイトと組み合わせて、施設の取り組みを発信するのがおすすめだ。環境意識の高いZ世代・外国人観光客へのアピールになるだけでなく、ウインタースポーツ業界や地域全体に脱炭素化・サステナブル化の加速を促すことができる。

[Action 12]気候変動政策に働きかける
スキー場が施策を講じても社会が動かなければ、気候変動そのものを止めることはできない。自治体や国会議員・地方議員に働きかけて、大きなムーブメントを起こす必要がある。まずは対策に取り組んだ際の困りごとをまとめ、欲しい制度・支援のアイディアを膨らませてみよう。ウインタースポーツや環境に関する団体に加盟して、政策にアプローチする方法もある。

あなたの一歩が、「冬」を次につなげる
Leo Mendes

Image via Photo by Leo Mendes on Unsplash

環境団体POW JAPANはサステナブル・リゾート・ハンドブックの「はじめに」のページで、スキー場のことをこう言い表す。

美しい景色、かけがえのない体験、家族や仲間との楽しい時間。
「雪」という素晴らしい自然資源とともに、多くの人に愛されるスキー場。

何か取り組まなくては、そう思えど「何からはじめていいかわからない」「経営的メリットはあるか」など悩みや不安を感じている方は、ぜひこのハンドブックをまず開いてみてほしい。前向きに一歩を踏み出すためのヒントやきっかけがきっと得られるはずだ。

そしてもし今これを読んでいるあなたがスキーヤー・スノーボーダーなら、今年の冬はサステナブル・リゾート・アライアンスに加盟しているスキー場まで滑りに行こう。あなたの一歩が冬を次につなげるはずだ。

(※)参照データ:帝国データバンク/「スキー場」の倒産動向
【参照サイト】サステナブル・リゾート・ハンドブック
【参照サイト】SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE | POW JAPAN
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Hiroko ASATO

元保護猫と暮らすライター。好きな野球・サッカーチームの遠征についていって、その街を旅するのが楽しみ。最近は大河ドラマ関連の史跡めぐりと、気軽に行ける地元の銭湯サウナに夢中。