「地球には冬が必要だ」
1960年代を皮切りに何度も再来している、スキーブーム。特に、1987年に公開された映画「私をスキーに連れてって」は大きな火付け役となり、ゲレンデには多くのスキー客が押し寄せた。
スキー場は、ゲレンデマジックとも言うべく、気持ちを高揚させる魅力をたくさんもっている。
金曜の夜、深夜バスに飛び乗り、土曜日の朝イチからゲレンデで雪を満喫。リフトで頂上へ登っていくと、そこには往路の疲れなんか吹き飛ばしてくれる、美しい景色が待っている。ランチは決まってカレー。ゲレンデで飲むビールは格別だ。
夜はスキー場の近くの宿で、温泉に浸かって疲れを癒す。いつもより何だかぐっすり眠れ、翌日も朝から颯爽とスキーやスノーボードを楽しむ。山の頂上から滑走する爽快感や、自然と一体になる感覚はスキー場に行かなくては味わうことができない。
気候変動により運営が危ぶまれるスキー場
日本には、現在500〜600ものスキー場が存在していると言われている(※)。しかし、日本の観光産業を支えてきたスキー場が今、気候変動に起因する雪不足や気温上昇により、運営に支障をきたすほどの影響を受けている。
また、現在の気候下(1980〜1999年平均)における冬で最も多い積雪量を100としたとき、将来の積雪量(2076〜2095年平均)は30〜70程度まで減少。北海道の一部地域を除き、降雪・積雪は減少し、雨が増え、雪が降る期間が短くなると予測されている。

そこで、スノーコミュニティ発で気候変動から雪を守る活動に取り組む一般社団法人Protect Our Winters Japan(以下POW JAPAN)は、持続可能な運営を目指すスノーリゾートとその実現をサポートする企業や個人のスキーヤー・スノーボーダーを繋ぐ「サステナブル・リゾート・アライアンス」を始動した。
「地球には冬が必要だ」をスローガンに掲げ、POW JAPANの本拠地がある長野県白馬エリアでも、白馬村として2050年までに実現する「ゼロカーボンシティ宣言」を発令。脱炭素化や再生可能エネルギーへの転換は、地域をあげて目指すべきミッションとしている。
グリーンなスキー場を目指して
POW JAPANが掲げるサステナブル・リゾート・アライアンスでは、遊び場である「スキー場」と、遊び手である「スキーヤー・スノーボーダーたち」が、双方の立場からともに「サステナブルリゾート」の実現を目指せるプラットフォームとして機能する。

2050年ゼロカーボンの達成に向けて、スキー場が当事者として「脱炭素化」や「サステナブル化」に取り組むことは、スキー場の経営だけでなく、それを支える自然環境、周辺の観光業や地方行政などの持続可能性に直結する。それには、スキー場を運営する側とスキーヤー・スノーボーダーの双方が、再生可能エネルギーへの切り替えや省エネ、ゴミの排出削減などを意識し、取り組む必要がある。
しかし一方で、各スキー場が抱える課題は多種多様で「何から取り組めば良いかわからない」という経営者や担当者がいることも現状だ。サステナブル・リゾート・アライアンスでは、スキー場経営に長けた人、企業における脱炭素化の知見をもつ人、気候変動に関する科学的専門知識をもつ人など、各分野のプロフェッショナルを集めた専門チームをPOW JAPAN内に設け、スキー場の脱炭素化をサポートする。
欧米スキー場の先進事例や日本企業の脱炭素化を巡る潮流を踏まえ、日本のスキー場が着手すべき取り組みをまとめたガイドラインの策定・共有、また2024年春以降にはそれに付随したスキー場向けセミナーなどの実施も予定している。
日本全国から16箇所のスキー場が加盟
サステナブル・リゾート・アライアンスへの加盟条件は、サステナビリティを経営の優先事項に置くことと、脱炭素の取り組みをゲストや地域、関係事業者など「スノーコミュニティ」を巻き込んでともに実現するというコミットメントに同意することだ。

現在アライアンスへの加盟は、POW JAPANが日本で発足した2019年にいち早くパートナーシップを結んだ「エイブル白馬五竜」をはじめ、日本全国16箇所のスキー場が決定している。
1)ニセコ東急 グラン・ヒラフ(北海道虻田郡倶知安町) 2)ハンターマウンテン塩原(栃木県那須塩原市) 3)マウントジーンズ那須(栃木県那須郡那須町) 4)かたしな高原スキー場(群馬県利根郡片品村) 5)たんばらスキーパーク(群馬県沼田市) 6)糸魚川シーサイドバレースキー場(新潟県糸魚川市) 7)スキージャム勝山(福井県勝山市) 8)タングラムスキーサーカス(長野県上水内郡信濃町) 9)エイブル白馬五竜(長野県北安曇郡白馬村) 10)白馬八方尾根スキー場(長野県北安曇郡白馬村) 11)白馬岩岳スノーフィールド(長野県北安曇郡白馬村) 12)しらかば2in1スキー場(長野県北佐久郡立科町) 13)白樺高原国際スキー場(長野県北佐久郡立科町) 14)木曽福島スキー場(長野県木曽郡木曽町) 15)御嶽スキー場(長野県木曽郡王滝村) 16)斑尾高原スキー場(長野県飯山市) |
今冬は、加盟スキー場のうちいくつかと「POWチケット」の試験導入を進めている。POWチケットとは通常のリフト券に数百円プラスした特別チケットで、差額分がそのスキー場がサステナブルな取り組みを行うための資金として寄付される。デポジットをそのまま寄付に回せる仕組みなども取り入れたという。
未来へとつながるスキー場へ行こう
山頂から見える美しい雪景色、ウィンタースポーツでしか味わえない爽快感。
スキー場には、さまざまな魅力があり、人を高揚させる魔法のような力がある。
ウィンタースポーツの楽しさを未来につなげていくために、次にスキーやスノーボードに出かけるときは、サステナブル・リゾート・アライアンスに加盟しているスキー場に行き、POWチケットをゲットして、雪を楽しんでみてはどうだろうか?
今年も来年もその先も、スキー場に雪を残すために。
(※)参考資料:海外スキー場調査|国土交通省
【参照サイト】SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE | POW JAPAN
【関連ページ】いま足跡を残さずに、自然を未来に残すために。「Leave No Trace Japan」が伝えたい7つの原則
【関連ページ】北海道ニセコの自然に恋をした、わたしの目線から見える町の魅力

明田川蘭

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