静かな里山の一棟貸し宿「小泊Fuji」で “いのちの中で呼吸する” 体験を

どこまでも続く、田園風景。

きれいに整列された稲穂が、風にザーッとなびき、
耳を澄ますと、小鳥の鳴き声や虫の音が、聞こえてくる。

スーッと息を吸うだけでも、心があらわれるよう。

長野県富士見町は、長野県と山梨県の境にほど近い、小さな集落。小さな伝説がいくつも残るこの地は、南アルプスが一望でき、八ヶ岳や富士山も望めるダイナミックな環境だ。

地面の奥底には、20万年前の八ヶ岳山帯崩壊(大噴火)の際にできた、大きな溶岩の塊が埋もれている。近くに見えるこんもりした小さな森も、その先に続いていく谷も、足元には気の遠くなるような時間の流れが積み重なっているのだ。

縄文時代にはたくさんの営みが見られ、そして時が経ち今に至るまで、豊富な水と穏やかな気候で諏訪大社の大切な神田(しんでん)として、この里山は人々に守られ続けてきた。

どこまでも続く田んぼを見ながら、小さな集落の中をどんどん進んでいくと、まるで童話に出てきそうな一軒の建物に出くわす。

日本初!世界的建築家・藤森照信氏設計の一棟貸し宿

長野県富士見町に、2023年8月20日にオープンした「小泊Fuji」。“人と自然が織りなす里山の風景に、ゆっくりと心を満たす滞在” を目的とした一棟貸しの宿だ。コンセプトは『いのちの中で呼吸する』。

建物は、横に長い平屋ではあるが、道に沿ってくり抜かれたトンネルのある造り。そして、地域のシンボルツリーでもある樹齢300年の枝垂れ桜に因んで、銅板の屋根の上に桜の木が植えられ、外壁を焼杉の板で覆う特徴的な建物となっている。

手掛けたのは、世界的建築家である藤森 照信氏。長野県茅野市出身の藤森氏が、建築最大のテーマとして掲げるのは『自然との調和』。建築史家としての知識を土台とし設計する建物は、どこの国のどの時代の建物にも当てはまらないのに懐かしいと表現される。建築物への植物の取り入れ方や独特の素材使いと感性は、世界中で高い評価を受けている。

藤森照信氏の手書きの設計図

そんな藤森建築に魅了され、建物と同じ雰囲気の藤森氏にも心惹かれ、宿のオーナーは宿泊施設の設計を依頼した。藤森氏をはじめ多くの人たちの協力を得て、企画13年目で着工。2023年8月、理想的な景色の中に「小泊Fuji」が開業したのだ。

周辺には田んぼが広がり、山々を望む4000平米の敷地の高台に建てられている。客室面積63平米、1日1組限定(定員5名)の小さな宿だ。チェックイン後に施設スタッフは常駐しないため、完全プライベートに藤森建築の世界観に浸ることができる。

藤森氏の建築の特徴として、漆喰の天井に炭を貼る意匠がある。宿泊記念としてお客様に寝室の天井に小さな炭のピースを貼り付けていただき、約1年かけて仕上げていくといった、そんなユニークな体験も用意されている。「建築は誰にでも関われるところがあるから面白い」と話す藤森氏の言葉を体現しているようだ。そして、今後はさらに建物が周囲の環境に溶け込んでいくよう、敷地内の田んぼを復活させ、植樹を行い、ゆっくりと完成を目指すのだそう。

人と自然が織りなす里山体験

室内には、くつろいだ雰囲気と開放的なデッキがあるリビングルーム、静かにお休みできるベッドルームがある。夏はデッキでのんびりと、冬は暖炉の炎をゆっくり眺めながら晩酌したり。長閑な地で、時をゆったり感じることができる。アメニティ類は必要最低限あり、ミニキッチンも完備。宿に篭り、この地ならではの食材で調理するのも良いだろう。

宿に併設された宿泊者専用のパントリーストア(売店のような役割)では、地元の食品やお酒なども購入できるので、加不足のない滞在をすることができる。

伸びやかに広がる田園風景に、ぽつんと佇む一軒宿「小泊Fuji」。ここには、神田として栄えた誇りと、春夏秋冬、どの季節にもここでしか味わえない景色や空気がある。

人と自然が織りなす里山の風景に身を委ね、ゆったり心を添える。そんな心がスッとあらわれるような滞在、あなたもしてみては?

小泊Fuji
住所:予約時に共有
HP:https://kodomari-fuji.jp/
予約:https://kodomari-fuji.booking.chillnn.com/

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明田川蘭

大の旅好き&温泉好き。一人で海外へ、一人で車を走らせて日本の名湯へ。アフリカ大陸と北極南極以外に降り立ち、行った国は30を越え、巡った温泉地は100を超える。沖縄観光メディアの編集者やホテルメディアの立ち上げ経験あり。「旅は人の心を豊かにする」と本気で思い、記事を執筆している。