2020年以降、世界中でリモートワークという概念が浸透し、さまざまな制限が解除されて自由に国をまたげるようになった今、拠点を移しながら暮らすように旅する「ノマド」というあり方に興味を持つ人も増えてきているのではないだろうか。
数週間、数ヶ月程度の滞在であれば、旅の延長として捉えている人も多いかと思うが、年単位で一ヶ所に滞在してリモートワークをしたいなら、「ノマドビザ」という選択肢をぜひ検討したい。それは「海外で働きながら暮らしたい」という願いを叶える手段のひとつであり、ワーキングホリデービザの取得可能な年齢を超えた人にも開かれた、海外暮らしの道でもあるのだ。
海外で長期間暮らすために、ビザの選択肢は知っておくに越したことはない。その部分をクリアして初めて、海外暮らしが可能になるということを覚えておこう。
※この記事は、2023年8月調査時点の情報に基づいて執筆している。ノマドビザの取得に関するルールは予告なく変更される可能性があるため、各国が発表している最新の公式情報も併せて確認を。
ノマドビザとは
デジタルノマドビザ(通称ノマドビザ)とは、ネット環境とパソコンさえあれば場所を問わず働けるノマドワーカーに向けたビザのこと。フリーランスでもリモートワーカーでも取得が可能だ。
この最大の特長は期間の長さで、6ヶ月〜最大5年(国により異なる)のあいだ滞在し働くことが可能になる。とはいえワーキングホリデーやワークパーミットと大きく異なる点は、原則として滞在国以外から収入を得ることに限定されている、ということ。それゆえ、ノマドビザでは現地の会社や店に雇用されて働くことはできないため、ご注意を。
現在、ビザ適用国はカリブ海諸国をはじめ、中南米、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中東と年々世界中に拡大中だ。特に観光資源国ではCOVID-19の影響が甚大で、ノマドビザを発給することで地元に消費を集めるという目的があり、今後もノマドビザの発行国は増加が予想されている。
ノマドビザを取得する心得
ノマドビザは、一見とても魅力的な可能性に思えるが、申請の条件は少々厳しいという一面もある。特に収入が不安定な、駆け出しのフリーランスにとってはなおのこと。
というのも、取得には経済的な余裕が求められるのだ。最低でも安定して月収約30万以上、国によっては現地の平均収入の倍以上の額証明が必要になる。さらに滞在国での保険への加入(特定の保険が指定されていることも)、納税証明など細かな書類も多く求められる上、コストもかかる。
もちろん比較的ハードルの低い国もあるが、アフリカやカリブ海など日本から遠い国が多い傾向にあることも知っておきたい。
とはいえこれらのハードルを越えて取得できると、何年か後には永住権につながる国もあるので、海外移住を前提とするノマドにとっては、苦労を乗り越えるだけの価値があると言える。
ビザ取得の共通条件
証明に必要な金額や細かな条件は国によって異なるものの、最低限の条件としては下記のものが共通している。
・有効なパスポートがある
・滞在国外からの安定した収入がある
・滞在国において確保している居住地がある
・滞在国で有効な健康保険に入っている
ノマドビザを発行している国
現在(2023年9月)、ノマドビザを発行しているのは下記の国々だ。個人事業主ビザなど色々な方法で長期滞在できる道がある国はほかにもあるが、今回は主にデジタルノマド向けのビザと設定されたものを中心に、すでにノマドが多く滞在しており比較的簡単に取得可能な国を取り上げている。
アジア・中近東
タイ「Long Term Residents Visa」、バリ「SECOND HOME VISA」、マレーシア「DE Rantau Nomad Pass」、ドバイ「Digital Nomad Visa」
ヨーロッパ
ポルトガル(※必要書類を大使館へ)「D8 Visa」、スペイン「Digital Nomad Visa」、マルタ「Nomad Residence Permit」、ギリシャ(※必要書類を大使館へ)「Greece Digital Nomad Visa」、アイスランド「Long-term visa for remote work」、ルーマニア「Digital Nomad Visa」、クロアチア「Digital Nomad Visa」、エストニア「Digital Nomad Visa」、ハンガリー「White Card」、ラトビア「Long-stay visa for remote work」、キプロス「Cyprus Digital Nomad Visa」、ジョージア「Remotely from Georgia」
中南米
メキシコ「Temporary Resident Visa」、エクアドル「Rentista Visa」、コスタリカ「Rentista Visa」、パナマ「Digital Nomad Visa」、ベリーズ「Work Where You Vacation」、アルゼンチン「Digital Nomad Visa」、コロンビア「Digital Nomad Visa」、ブラジル「Digital Nomad Visa (VITEM XIV)」
カリブ諸島
カーボベルデ「REMOTE WORKING PROGRAM」、バハマ「BEATS(Bahamas Extended Access Travel Stay)」、バミューダ「Work From Bermuda」、バルバドス「Barbados Welcome Stamp」、アンギラ「Digital Nomad Visa」、ドミニカ「The Work In Nature (WIN) Extended Stay Visa」、モントセラト「Remote Work Stamp」、キュラソー「@HOME in Curaçao」、ケイマン諸島「The Global Citizen Concierge Program」、グレナダ(※必要書類を最寄りの大使館へ郵送)「Digital Nomad Visa」、アンティグアバーブダー「NDR Program」
アフリカ
ナムビア「Digital Nomad Visa」、セーシェル「ワーケーション・リトリート・プログラム」、モーリシャス「Premium Visa」
※ビザの名称やプログラム名がない場合は、すべて「Digital Nomad Visa」表記
※国外で申請する場合はその国、もしくは最寄りの大使館へ問い合わせを
ここからはさらに特に人気の国、訪れやすい国を紹介するので、ぜひ候補地の参考にして欲しい。
東南アジア|タイ
デジタルノマドに愛されるタイ王国。開放感溢れるビーチリゾートや風光明媚な山岳地帯、点在するワット(寺)など素晴らしい観光地が多いことはもちろん、スパイスをふんだんに使ったタイ料理、さらにネットや生活環境が整っていること、町のいたるところにノマド作業に適したカフェが点在していることも人気の理由だ。
・
タイにおいてノマドビザとして活用できるビザ「LTR (Long Term Residency)」 が2022年9月に設定された。このビザは5年間有効で、10年まで更新が可能。さらに海外所得に対しては非課税になる、という特典もある。
LTRの取得は下記5種類のタイプの人たちにチャンスがある。Wealthy Global Citizens(裕福層)、Wealthy Pensioners(裕福な年金生活者)、 Work-from-Thailand Professionals(タイ王国以外から収入のあるリモートワーカー)、Highly-Skilled Professionals(タイ政府機関の企業などに勤務する対象業界の高度な技術を持つ専門家)、Spouses and dependents of LTR visa holders(同ビザ保有者の配偶者および扶養家族)。ノマドに関係しているのは3番目のリモートワーカーだろう。
条件を見ると、高学歴・高収入であることが前提のようだ。とはいえ長期滞在が可能であること、海外所得に対して非課税というメリットもあるため、可能性のある人は挑戦してみてはいかがだろうか。
・過去2年間の年収が80,000USD(2022年8月現在約1,080万円)以上
・過去2年間の個人収入が年間80,000USD未満の場合(ただし年間40,000USD以上)、申請者は修士号以上の学位を取得しているか、知的財産を所有しているか、シリーズA資金を受けている
・リモートで働いている証明(雇用者の場合は年間売上高が1億5,000万USD以上の会社で3年間以上働いていること)
・過去10年以上、現職の関連分野で5年以上の職務経験がある
・50,000USD以上の健康保険、またはタイでの治療を保証する社会保障給付、または100,000USD以上の保証金
・ビザ申請料は50,000バーツ
【ウェブサイト】Long Term Residents Visa Thailand
ヨーロッパ|スペイン
ヨーロッパのなかでも特に人々が陽気で、一年を通して天候も穏やか、海も山もある自然豊かな国として人気のスペイン。またパエリアなどシーフードやご飯を食べ、タパスやピンチョスとよばれるつまみとお酒をリーズナブルに楽しめるバルが多いことなど、日本人の食生活と相性がいいことも長期で暮らしたい人が多い理由かもしれない。
・
スペインでは2023年3月より、デジタルノマドビザの申請がスタート。同ビザは、スペインへの投資を促進することを目的とした「スタートアップ法」の一環として始まった。このビザは長期滞在しながらリモートワークができるだけでなく、5年間デジタルノマドビザで暮らすと永住権申請が可能に!この特典は、海外移住を本格的に目指したい人には強い魅力になるはず。
また税に関して年間収入の€60万までは15%の税優遇があり、それを超える分は47%で課税対象となる。
・会社や個人の適切な雇用の証明(労働契約書、リモート勤務が可能であることを確認する雇用主からの手紙)
・€2,334/月、€28,000/年の収入がある
・3年以上の実務経験がある証明
・過去5年間に居住した国でクリーンな前科証明
・学歴の証明
・スペインで認可された保険会社と契約した公的または私的医療保険を認定する証明書の原本とコピー
・ビザ申請料金は€80
【ウェブサイト】Digital Nomad Visa|Ministerio de Asuntos Exteriores, Unión Europea y Cooperación
ヨーロッパ|マルタ
マルタ共和国はイタリア最南端のシチリア島からフェリーで約1時間45分、地中海の中心にある風光明媚な小さな島国。リゾートとしての観光も楽しみつつ、ヨーロッパのなかでは生活費が抑えられることもあり世界中のノマドから注目されている。
また日本人には西ヨーロッパほど認知度はないものの、実はマルタではマルタ語のほかに英語が公用語ということもあり、語学留学など中長期で訪れる日本人が多い国のひとつだ。
・
そんなマルタも、ノマド向けの居住者用プログラム「Nomad Residence Programe(NRP)」を2021年6月に開始している。一年間の滞在と、一年後の延長が可能になる。
申請するには、下記の3カテゴリーのひとつを満たしている必要がある。
①国外で登録された雇用主の下で働き、労働契約を結んでいる
②国外で登記され、申請者がパートナーまたは株主である会社のために事業活動を行う
③国外の恒久的施設で、申請者が契約を結んでいる顧客に対して、フリーランスまたはコンサルティングサービスを提供する
・上記の3カテゴリーのひとつに該当していること
・月収が€2,700以上であること
・マルタでのリスクをカバーする健康保険に加入している
・有効な不動産賃貸契約書または売買契約書を保持している
・身元調査に合格している
・ビザ申請料金は€300
【ウェブサイト】RESIDENCY MALTA
南米|アルゼンチン
南米大陸のなかでもブラジルやチリに次いで発展国であり、「南米のパリ」とも称されるアルゼンチン。イタリア系の移民も多く、特にブエノスアイレスはまさにヨーロッパのよう。また一帯がパタゴニアとなっている南端からボリビアと境を共有する北端まで、見える景色も住む人々もそれぞれに特徴があり、飽きることがない。
ワーキングホリデービザが取得できる国のひとつだが、2022年5月21日よりノマドビザも取得可能になった。
・
アルゼンチンのノマドビザでは、180日間(約半年)の滞在が可能になり、一度延長が可能なので計一年間の滞在ができる。ただ、まだ新しいビザということもあり、情報は少ない。その分、柔軟な対応がされるという説もあるが、実際に検討している人はそのタイミングでしっかりと確認を。
・雇用主が署名した申請書
・働く分野での経験、および達成した学習またはトレーニングのレベルを記載した簡単な履歴書
・経歴を証明する文書(契約書、会社保証、または労働需要の申請証明、収入または料金の証明書または領収書)、および職業に関連する少なくともひとつの参照情報を記録
・ビザ申請料金は80USD
【ウェブサイト】Tramitación de Ingreso Electrónica – Nómadas digitales
-
本記事ではノマドビザでの滞在において特に人気の国、訪れやすい国を取り上げたが、カリブ海やアフリカ、中東などノマドビザを発行している国は年々増加している。
リモートで安定した仕事が可能な人で、海外で暮らしてみたい人にとっては、見逃せないチャンスだろう。ある程度安定した環境に身を置きつつ異国体験が味わえ、気に入れば移住までつながるかもしれない。そんな可能性の開かれたビザだ。訪れたい国があればぜひ調べてみてはどうだろうか。
【関連記事】「海外ノマド」暮らし実践者が教える、自分にピッタリな滞在先に出合うための6つのヒント
【関連記事】NFTを用いてリジェネラティブシティの構築を目指す。デジタルノマドコミュニティ「Kift」の取り組み
【関連記事】クロアチア、初の公式デジタルノマドビレッジ「Digital Nomad Valley Zadar」がオープン
【関連記事】ワーホリの基本を押さえる10のQ&A。未来が見えてなくてもいい、一度日本の外に飛び出してみよう!
mia
最新記事 by mia (全て見る)
- 小さな村の伝統産業を守るためにつくられた、バリ島アメッドのエコホテル - 2024年2月21日
- 海ごみドレスでファッションショー。バリ島の小さな村で遭遇したエコフェスティバル - 2024年2月16日
- インドネシア・バリ島の町「チャングー」で、肌で感じたオーバーツーリズムのこと - 2024年2月5日
- 大都市からの移住夫婦がバリ島ウブドで始めた食堂が、私の居場所になるまで - 2024年1月18日
- これからにつながる輝く“なにか”をもらった。バリ島ウブドのエシカルホテル「Mana Earthly Paradise」滞在記 - 2023年12月20日