十和田八幡平(とわだはちまんたい)国立公園内を流れる「奥入瀬渓流」。清流と苔むした岩やさまざまな特徴を持つ滝、さらに木々の景色が美しい場所だ。その景観は、特別名勝、天然記念物にも指定されるほど。
その奥入瀬渓流の魅力をもっと体感してもらうために、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルでは「おいらせコケバス」を2024年8月10日~11月27日の間、運行する。コケを存分に楽しめるバスで宿泊者を奥入瀬渓流の自然に包み込んでいく。
コケバスの運行にいたるまでの取り組みをご紹介する。
コケの聖地「奥入瀬渓流」
青森県・岩手県・秋田県にまたがる、十和田八幡平国立公園。その中で青森県の十和田湖・子ノ口から約14km流れる奥入瀬渓流は、観光スポットとして人気の高い場所だ。
マイナスイオンをたっぷり感じる滝や渓流沿いのトレッキングを楽しめる。そんな奥入瀬渓流には、日本で約1800種類ある “コケ” のうち約300種類以上のコケが生息している。2013年には「日本の貴重なコケの森」に認定され、日本の中でも「コケの聖地」として知られている。
奥入瀬渓流のコケを1人でも多くの人に楽しんでもらいたい
奥入瀬渓流沿いに建つリゾートホテル「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」では、奥入瀬渓流のコケを観光資源と捉え、10年かけてさまざまなコンテンツを提供している。コケをじっくりと観察するネイチャーツアー「苔さんぽ」をはじめ、本物のコケが設えられた「苔スイートルーム」など、コンテンツは多岐にわたっている。
一方で、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルでは、コケにかかわるコンテンツを1日数名しか参加できず、体験できる人数が限られてしまっていることを課題に感じていた。同ホテルの宿泊者は、最大約400名。しかし、ほとんどのコケは大きさわずか3センチほど。スタッフがコケの魅力を伝えようにも一度に伝えられる人数や催行回数には限界があったのだ。
奥入瀬渓流のコケが宿泊のきっかけになっているのに、ほとんどのお客様はコケを楽しめない状況を解決するべく、ネイチャーガイドスタッフ「渓流コンシェルジュ」として活躍する小林 信輔さんが立ち上がった。2015年から9年間、奥入瀬渓流のガイドを行ってきた小林さん。短時間で一気に奥入瀬渓流を踏破する見流し観光では、奥入瀬渓流の自然の魅力をすべて伝えることは難しいとジレンマを抱えていた。
また、コケのガイドは専門的な知識が必要なため人材のリソースにも限りがあり、ネイチャーツアーを増やしたとしても参加への敷居が高くなることへの懸念も考えられた。そのため、なんとなくコケのことを知り、関心を持っているお客様へのアプローチが必要であった。
その答えが、1日あたり150名以上が利用する宿泊者限定の「シャトルバス」だ。
前代未聞の「コケまみれのバス」プロジェクト
奥入瀬渓流は歩くと片道約5時間かかるが、奥入瀬渓流ホテルではお客様が快適に散策してもらうために奥入瀬渓流を往復するシャトルバスを運行している。1日150名以上が利用するシャトルバスにコケを楽しめる仕組みを取り入れ、多くのお客様にその魅力を届けることにした。
当初、コケが胞子を飛ばす際に発生する「胞子体」という器官を、約1mの巨大なオブジェにしてバスの車体に取り付ける予定であったが、これは道路交通法の観点からみて車体に付属物をつけることは安全上難しかった。
「本物のコケを使用せずに、けれどもそのデザインの本質を伝えること」が一番だと考え、外装に奥入瀬渓流のコケの写真を拡大し貼り付け、そのデザインを楽しんでもらい、コケのリアルなデザインを内装に施す。この二つの軸で誕生したのが、「おいらせコケバス」だ。
コケは一見するとすべて同じデザインに見えるが、ルーペを通して観察することで、細やかな美しさに気がつく。本物のコケを使用できないという制約のなかで、小林さんはルーペを通してこそ気づくコケの細かな美しさを表現することにこだわった。
とくにこだわったのは、「コケの胞子体」。コケの種類によって胞子体はさまざまなデザインを持っているため、じっくり観察をすることでより一層コケを楽しめる。「立ち止まらなければ気づかない、自然の美しさ、繊細さに気づいてほしい」そんな想いがオブジェには込められている。
唯一無二のコケの魅力が詰まった「おいらせコケバス」。この秋は奥入瀬渓流の新たな風物詩 “コケまみれのバス” に乗って、まだ知らぬコケの世界を体感してみてはいかがだろうか。
【実施概要】
●期間:2024年8月10日〜11月27日
●時間:6:00〜16:00
●料金:無料
●定員:1便あたり20名
●予約:不要
●対象:星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル宿泊者
●備考:運行時間は季節によって異なります。1時間に1便運行します。
【参照サイト】星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル公式サイト
【参照サイト】十和田湖国立公園協会
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高橋 真理
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