じんわり温まり、リフレッシュできる温泉。
日本には、3000弱の温泉地があり、源泉総数は2万7969カ所にも及ぶ(※1)。
実は近年、エコにつながるエネルギーとしても注目されている。
宮城県の一の坊リゾートは2018年からエコ活動をスタートし、温泉廃熱システムの導入や、フードロス削減への取り組みにより「2023年度 省エネ大賞」を受賞した。東日本の温泉宿では初受賞となった。また、同時に「資源エネルギー庁長官賞」を全国の温泉宿で初受賞した。
温泉熱の利用はどのように行われているのか、温泉旅館で快適にエコ活動が行えるのか、一の坊グループの取り組みで見えてきた。
温泉熱を活用した取り組み
温泉井戸は全国に27,000本以上(※2)が存在しているとされている。観光施設や商業施設で温泉熱を熱・電気エネルギーとして利用するところも増えてきたが、有効活用はまだまだ進んでいないのが現状だ。
環境省では「温泉熱有効活用に関するガイドライン」を策定し、温泉熱の有効活用を促進するため、温泉熱に関しての広範な理解を得ることを目指している。今後も活用の広がりが期待されているエネルギー源だ。
⼀の坊の快適エコ活動
宮城県にある「海と山と森の温泉リゾート 一の坊」では、豊かな自然環境を守るために省エネに取り組んできた。一の坊グループとして2018年から「快適エコ活動計画」に取り組み、実施前の2016年と2022年との比較では、二酸化炭素排出量42%削減、エネルギー使用量37%削減の成果がでている。
温泉熱を利用したシステムの導入
仙台・作並温泉「ゆづくしSalon一の坊」では、浴槽からあふれ出るなど活用されないまま廃棄されてしまう「温泉の熱」に着目。その熱エネルギーを回収し利用する温泉廃熱利用システムを導入した。
客室露天風呂21か所と大浴場から廃棄されてしまう温泉の温度は35℃程度で、毎分90リットルにも及ぶ量だ。この廃棄されてしまう温泉を、二重管式熱交換器に通して熱回収し、浴槽保温のための加熱、貯湯槽補給水の予熱、冬季積雪時のロードヒーターなどに活用している。
こうした廃湯の熱を使い切る工夫により、既設ボイラーの稼働を抑制し、重油使用量を大幅削減に成功。再生可能エネルギーの活用と環境負荷の低減を実現した。
社内に「快適エコ活動推進委員会」を設置
そして、社長が責任者を務める「快適エコ活動推進委員会」を社内に設置。全社一丸となってPDCAによりCO2削減に取り組むシステム構築し、建物や設備の省エネ化を推進してきた。
快適エコ活動推進委員会では下記の指針を設けている。
・お客様の快適性を損なわない
・地球環境にやさしい再生可能エネルギー(温泉熱)の利用
・全スタッフがエネルギーの無駄を自ら発見・改善・提案できる工夫
宿泊施設ならではの、お客様の滞在に影響を与えないエコ活動は支持されるポイントになるだろう。また、今回の受賞ではスタッフが省エネ化を推進できる仕組み(設備運用)も評価された。
オーダービュッフェスタイルでフードロス削減
食品の廃棄や在庫過多などのフードロス問題は、宿泊施設での大きな課題の一つといえる。「松島温泉 松島一の坊」「仙台・作並温泉 ゆづくしSalon一の坊」の食事提供スタイルは、お客様がオーダーをしてから調理を開始するオーダービュッフェ。出来たての一皿をお好きな順番で楽しむことができる食事スタイルだ。
お客様からオーダーを受けてから目の前で調理、作り立てのひとさらを提供することで、自分が食べられる適正量で食べたいメニューのみをオーダーするため、個別提供や従来のビュッフェスタイルに比べて、残食による食品ロスを大幅に削減することができる。松島一の坊では、2019年度からオーダービュッフェスタイルの本格運用にともない、フードロスを36%削減することに成功した。
さらに、食材調理時に出てしまう食べられない部分やお客様の食べ残しを、食品リサイクルに活用できるよう分別し、協業組合松島清掃公社の食品リサイクルシステムで肥料化している。
理解を得ることがエコ活動のポイント
エコ活動は、最初のコストはかかるが、省エネ設備に投資したお金は固定費の削減となって効果が表れ、投資した費用を数年で回収することができる。一の坊グループの担当者は「社長をはじめ各温泉リゾートのスタッフに理解いただくことで省エネ活動が継続でき、感謝しています。」という。
エコ活動は一方通行で行うものではなく、周りの理解を得て、目的とする相手も快適に過ごせる環境を提供することで成り立っていく。
地球の恵みである温泉資源を無駄なく活用し、人にも環境にもやさしい、本当の意味での癒し空間が実現するのではないだろうか。資源の有効活用が誰にとっても喜ばれるものであることを願う。
【参照サイト】一の坊リゾート | 宮城・海と山と森の温泉リゾート
【関連ページ】地熱のパワーを体感しにいこう。別府・鉄輪で、地獄蒸しや温泉染めを体験できる施設「地熱観光ラボ 縁間」
【関連ページ】温泉旅館が日本の電力不足を救う? 地熱発電「山翠パワー地熱発電所」が運転開始
(※1)温泉利用状況|環境省
(※2)温泉の有効活用について|環境省
高橋 真理
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