日本全国を旅しながら働く会社員夫婦が見た、都会とは違う幸せのカタチ

幸せとはどんな状態のことを呼ぶのでしょうか。都会に暮らし、都会の常識の中で生きていると、より多く稼ぎ、早く効率よく物事を進めて、より高いところへ登ることが正解のような気がしてきます。というより、正解かどうか考える暇や隙間もないほどに、ただその道を走っているという感じかもしれません。

間違っているとまでは思わないし、その世界にはその世界の魅力があるのだけれど、どこか息苦しさも感じる。そんな都会で、会社員として働き生きるなかで、ある選択をしたことから人生に変化があった夫婦がいます。「旅する日韓夫婦」という名で、現在多拠点居住サービスADDressを利用して、月の半分を東京の自宅で、もう半分を日本全国を旅しながら生活をする、ひょんさん・げんさん夫婦です。

ADDressは月額4.4万円を支払うことで、全国47都道府県の180ヶ所以上の登録拠点に、どこでも定額で住むことができるサブスクリプション型の多拠点居住サービス。

今回は、ADDressの利用をきっかけに2人に起きた変化や、気付き。ADDressのあるライフスタイルの魅力などをじっくり伺いました。

1年間の在宅勤務で発狂しそうになって始めたADDress

ーADDressを始めたのはどんなきっかけからなんですか?

ひょん:私たちはふたりとも上場企業の会社員です。もともと、げんちゃんの会社も私の会社もリモートワークの制度があって、フルリモートする人や週に数回リモートで働く人もいましたが、基本的には出社する人が多かったこともあって、2人とも結構会社に行っていました。だけどコロナになり、在宅勤務をして下さいということになって、そこから今まで私は1回くらいしか出社してないんですよね。げんちゃんもほとんど行ってないよね。

自粛が特に厳しかった時は、みんなそうだったと思うんですけど、家でずっと働いていて。朝起きてから夜寝る前まで仕事して、万歩計みたら1日500歩も歩いてないといった感じでした。もともと結構旅行が好きで、海外旅行もよく2人で行ってたんですが、全く移動もせず、旅行もせずっていうのを1年間やっていたら、なんだか発狂しそうになってしまって。それで2021年5月からADDressの会員になって今のライフスタイルを始めたんです。

私たちは日本と韓国の国際結婚で、生まれ育ちが全く違うんですよね。なので、出会った頃からの思い出や共有できるものはあるけど、「あの時これ流行ったね」といった小学生の時の思い出とか言われてもお互い分からないんですよ。でも、夫婦って共感できる部分が増えれば増えるほど、対話が増えて良い関係になっていくと思っていて。旅をすると共通体験が増えていくので、そういう意味で夫婦で利用したいなと調べていたなかで、ADDressにはパートナー会員制度というのがあって、二親等以内の家族や固定のパートナーなら1人、追加の費用を必要とせず利用できるという制度があるのを知り、利用を決めました。

道端の花の写真を撮り始めたげんさん

ーADDressを始めたことで、どんな変化がありましたか?

げん:ひとつは、東京がすごく異常な場所だと気づけたのが結構大きいです。特にIT業界に勤める人を中心にかもしれないけれど、東京には常に情報が素早く新しく流れていて、追いつけ追い越せの感覚がすごくあって。旧来的な、年収で人を判断するような基準とか、なんとなく新卒一括採用で有名企業に行くのが正しいみたいな常識があると思うんです。だけど、地方に行った時はそんな感覚が全くなくなって。驚くほど時間がゆっくりだし、資本主義とちょっと違うところにある幸せのなかで生きてる人たちが多くいるんです。

具体的な話で言うと、長野県の白馬村でお会いした方が印象に残ってます。その人は「白馬のとある山を滑るためのスノーボード」をオーダーメードで限定200個で発売していて、自身も毎日10時間以上滑っているような人。コアなファンだけに使って欲しいから200個以上作らないらしい。これが東京でやるってなると、D2Cとかってなって、拡大・生産となるんだけど、それとは全然違う世界で生きてる。しかもその人、ものすごく幸せそうだったんですよね。そんな出会いを通しながら、なんか、東京とは全然時の流れが違うんだなって気づきました。追いつかなくていいんだとか、自分って周りを比べて焦らなくていいんだとかも思ったかな。

違う価値観の人。違う時間軸で過ごしている人。自分の世界では正解じゃない生き方をしている人と話すことで変わっていった感じがします。東京で仕事だけに向き合ってると、本当にぼろぼろになっちゃうんですよね。ずっと仕事し続けちゃうし、自分を追い込んでしまう。もっとやらなきゃ、もっとできる自分ならできるってなっちゃう。それとバランスをとる何かが必要で、それが人によっては副業でもいいだろうし、趣味でもいいと思うんだけど、僕は趣味がなかったから、多拠点生活が心のバランスを取るって意味で重要になってる。

げんさん、移動

写真提供:Hyunさん

あと、明確に人生観が変わりました。10年間、仕事が趣味くらい突き詰めてやってきたんですけど、いろんな綺麗な場所に海外旅行とかに行ってもなんとなく頭がボーッとしてて、何も入ってこない感じがずっとしてて。それが、なんだろう、ADDress初めて1、2ヶ月して「あ、花の匂いがする、この匂い好き」とか、「今日はちょっと湿気があるな」みたいな感じで、感性が戻ってきたんです。戻ってきて初めて、無くなってたんだなと気付きました。

ADDressを創業された佐別当さんともお話したことがあるんですが、「君みたいな人のために作ったんだよ」と言っていました。佐別当さんも会社員としてずっと東京で働き詰めで、このままだとまずいなと思ってADDressを作ったんだそうです。

ひょん:げんのその変化は隣で見てても感じました。感性が戻ってきたら、道端のお花の写真を撮りはじめたんですよ!笑

げん:言うな言うな。笑

会社ではなく、自分を主語に話し始めたひょんさん

げん:よく東京の人って地方をどうにかしなきゃとか言いがちだけど、地方の人のほうが全然幸せに生きてるし、地方創生じゃないぞ、創生なんておこがましいぞと思いますね。ひょんちゃんがよくいうんです。東京は本当に消費社会なんだけど、地方は色々なものを生産してる。野菜でもスノーボードでも居酒屋でも。生産してるから、それが生きがいになっているんじゃないかって。

ひょん:都会は本当に物が溢れていて、そこからどうやって最適なものを選ぶかっていうところに時間を使っちゃいがちですよね。でも地方に行けば、近くにコンビニもスーパーもないっていうことも多いですし、欲しいものが手に入らないことも結構あって、だから何かを作っていたり自分で何かをしてる人たちがすごく多いんです。その人たちはみんな「こういうことがやりたい」とWill、Want toを語るんですよね。そういったことを語れる人に沢山出会えたのも、ADDressを始めてすごくよかったことのひとつ。

そして、そういう人たちはみんな初めましての時に、会社名とか職種ではなく、自分がやっていることから自己紹介が始まるんです。それが大きいビジネスであれ小さいビジネスであれ、みんなすごく自信をもって自分のしていることを話します。

私は最初の頃は「◯◯会社の◯◯担当です」と自己紹介していたんだけど、みんな全然興味なくて、ふうんで終わるんですよね。それがすごく嫌でした。その体験をきっかけに、自分は何者で、世の中に何をどんな思いで提供してる人なんだろうと考えたり、働き方を見直しました。

今は、会社名は言わずに、会社員をやりながら夫婦で多拠点生活で全国回っていて、会社でウェブディレクターをやりつつ、トラベルインスタグラマーやってますって、2枚目の名刺をつくってそれを渡しています。

ひょんさん、もじこう

写真提供:Hyunさん

ーADDressを始めたことで、夫婦の間に起きた変化はありますか?

ひょん:深いことを話す機会は増えたかも。お互い新しい体験をしたり、新しい人に会うことが増えたから、そのなかでの気づきや、新しい価値観に対してどう思うかといったことを話すようになりました。ある滞在をきっかけに「どんな老後の死に方したいか?」といった話をしたこともありましたね。なかなか日常のなかではでてこないトピックですよね。

会いたい人がその日熱海にいるなら、目的地は熱海

ーADDressの魅力ってなんなのでしょうか?

ひょん:ADDressには家守(やもり)という制度があるんですけど、私は、ADDressって家守さんが全てじゃないかって思ってるくらいです。家守さんは、各拠点の管理をすると同時に、利用者同士や利用者と地域の人の交流の架け橋となるような、地域のコミュニティマネージャーのような役割をしています。

昔から旅は好きで、いろんな場所を訪れましたが、当時はあのホテルを目指すとか、あそこに行ってみたいとか、「場所」を目的地にした旅が多かったです。でもそれがADDressを始めてからは、「人」起因で旅するように変わった感じがあります。

この間も、鎌倉の家守さんに会いたいなと思って予約したら、「その週末私いないんですよ。熱海で花火大会があって」と言われたので、じゃあそっち行きます!と、鎌倉の予約をキャンセルして、2人で熱海に行ってみんなで花火見るなんてこともありました。

ーADDressを利用するなかで、記憶に残っている体験はありますか?

げん:千葉県の南房総に横山さんというADDressの家守第一号、83歳の現役カメラマンの人がいます。ある日仕事が終わった時に「今から蛍みに行きませんか?」と急に言われて、車に乗せてもらって、地元の人じゃないと運転できないような暗い道を行った先に、蛍が2、3匹いて。もうなんか感動しちゃいました。蛍っているんだ今もって。

そういう体験をさせてくれる人柄に感謝だし、そんな色んな体験をさせてくれる、地元の魅力を伝えたいと思っている家守さんがたくさんいて、そういう人が、人生、なんていうかな、感性を高めてくれるきっかけをつくってくれるんですよね。

横山さん / 写真提供:Hyunさん

ひょん:私も横山さんと一緒に、たけのこを取りに行ったのを覚えています。たけのこってこんなに大きいんだ!とっていいんですか?!と驚きながら採ってきて、みんなでキッチンで調理して食べたのは記憶に残ってますね。

あとは、長野県の白馬がすごく好きで。気づいたら半年で1ヶ月くらい合計で滞在していました。白馬の人たちってすごく面白くて。特定の誰が面白いっていうよりは、白馬ってスノーボードとか、ウィンタースポーツが好きで、好きなことを追求しすぎちゃってそこに集まってる変人のコミュニティなんです。笑 

白馬村のみなさん

白馬のみなさん / 写真提供:Hyunさん

だいたいの普通の人は、長野市に住むんですって。だって雪かきとかすっごく大変ですから。だけど彼らは毎日滑りたい。昨日雪が降って、今日天気がよかったらもう滑りに行きたくて仕方ないみたいな感じで。好きをとことん追求してる人たちの集まりなんです。その行為にお金が発生しなくても、好きだからやるっていうのが彼らの中にはあるんです。仲良くなった会員の人から聞いたんですけど、雪が降った次の日の天気がいい日は、お店がどこも開いてないそうです。みんな滑りに行ってて、ゲレンデに行けば会えるっていう。笑

なんか社会人になって、自分の時間に対して好きってことだけやるって感覚ってなくなってたというか。そこに衝撃を覚えて、なんか気づくと白馬に呼び寄せられてますね。

げん:日本の未来ってすごい明るいなと思います。面白い人、ワクワクすることが本当にたくさんあるので。

白馬村の風景

白馬の風景 / 写真提供:Hyunさん

ー今後やっていきたいことはありますか?

ひょん:実は4月末で会社員をやめることにしました。去年1年間暮らし方を変えてみて、働き方の実験をしてたんですね。フルリモートでワーケーションをしながら、これだけ日本全国回って働く人がまだ周りにいないなかで、自分でやってみて何が変わるんだろうと。もともと、いずれはフリーランスになったり、自分で会社をやるんだろうなと思っていたんですけど、今年は働き方をもう一段レベルアップしてみたいなと思って、フリーランスになることにしました。

げん:今年は海外に行こうかなと思っているので、多拠点生活の枠を海外に広げるってこともやりたいですね。

あとは、やりはじめていることでいうと、ひょんちゃんに続いて僕も「全国を旅するテック企業役員」としてSNSでの発信を始めました。資本主義の株式市場ど真ん中の本当にビジネスビジネスした世界と、その真逆のお金とかじゃない、非生産的、非効率的なことにも楽しみを見出す多拠点居住生活と。その真逆なことを両方やり切れる人ってあんまりいないと思うので、こういうビジネスマンの生き方もあるし、出来るんだよというのを自分が広告塔になって発信できたらなって思ってます。

今自分のいる世界の常識は、他の場所では非常識になりうる。けれど、ひとつの場所にとどまりじっとしていると、その事実には気づくことができない。

幸せとはどんな状態のことをいうのでしょうか?それはひとそれぞれでしょう。でも、仮に今いる場所で幸せを感じられないのならば、その場所でじっと堪えて我慢せずに、一度居場所を変えてみるのも手なのかもしれません。

幸せの尺度も、幸せを感じる心も、環境によって変えることができると、ひょんさんげんさん夫婦が教えてくれましたから。

ひょんげん

写真提供:Hyunさん

【参照サイト】ひょんさん Instagram
【参照サイト】げんさん Instagaram
【参照サイト】ADDress

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飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると“いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。