フェアトレードの温かさを体感できる京都の町屋宿「六根ゲストハウス」

六根ゲストハウス

京都市役所駅から、寺町通を少し上がったところに建つ「菊屋雑貨店」。2023年5月に17年目を迎えた、フェアトレードと手仕事の雑貨店だ。京都において創業20年弱では老舗とは呼べないかもしれない。でもフェアトレードを扱う店としては、立派なパイオニアのひとつだろう。

今回紹介するのは、この菊屋雑貨店が「フェアトレードや手仕事を体験してもらいたい」という想いで始めた宿泊施設「六根(ろっこん)ゲストハウス」だ。菊屋雑貨店から一駅の「烏丸御池駅」より徒歩6分ほどのところに宿はある。

六根ゲストハウス両隣を建物に挟まれた町屋で、よく見ていないと通り過ぎてしまうほど、さりげない佇まい。ドアを開けると、親しみのある笑顔で店主・岡本佳代子さんが迎えてくれる。

ここを訪れる人は誰もが会うこの笑顔こそ、最初の六根ゲストハウス体験だ。

2つの好きが出合う

六根ゲストハウスを語るのに、佳代子さんとフェアトレードの関わりは外せない。そもそもなぜ、フェアトレードだったのだろう。それも、その言葉さえまだそこまで知られていない時代に…。

きっかけについて尋ねると、「まず人への関心ですね。学生の頃から福祉などの社会問題や環境問題などへの意識も高かったんです。またクラフトづくり、アートにも関心が…。土臭い、人間くさいモノづくりに惹かれるんですよね。両者が結びついたのがフェアトレード、だから私にとってはフェアトレードと関わりを持つ道を歩むのはとても自然な流れでした」と。

さらに佳代子さんの人への関心の根底にあるのは、「商店街で育ったことも大きい」と語る。どの家も商店なので扉がいつもオープンだし、道を歩けば知り合いだらけ。人と人の間の垣根が低く、そうした環境が、今の人懐っこく人想いの佳代子さんと、佳代子さん感性を育てたのだろう。

同じ志の人はみな仲間

菊屋雑貨店や六根ゲストハウスが扱う国外のフェアトレード商品は主に、約30年に渡りエシカルファッションを作り続ける「People Tree」や1999年に京都で生まれた「シサム工房」より仕入れている。

どちらも、フェアトレード界のパイオニアであることはもちろん、両者の社長やスタッフさんとの日ごろの交流から、絶対的な信頼があるからだと話す。「フェアトレードや、人と環境に配慮したモノづくりなどに関わりのある人たちは皆、仲間だと思っています。私たちは同じ場所にいるんです」。

もの選びの基準について伺うと、「やっぱり人!」と返ってきた。もちろんそのアイテムや商品の背景も考慮するけれど、それらは人の先にあるものだから、人が先。「その人の人となりを知ることで、物作りや扱い方への想いがわかるから」と佳代子さん。

人とご縁でカタチになっていく

六根ゲストハウス

旦那さまと佳代子さん

フェアトレードのショップを16年続けた佳代子さんが次に挑戦したのが、「六根ゲストハウス」だ。「知っている人にはもちろん、まだ知らない人にもフェアトレードをもっと身近に感じてもらい、フェアトレードを考慮した消費を加速させたい。日常的な消費が、より力強い支援につながるので」とのこと。

六根ゲストハウスは、築100年以上の町屋を改装し、元大工の旦那さんも内装を手がけている。なんとこの町家は、物件を探していた際に、菊屋雑貨店で提供する野菜を作る農家のお父さんが持っているという話が飛び込んできて使用することになった。佳代子さんは「人のご縁ですね」と笑う。

2019年の12月には開業資金を集める目的でクラウドファンディングにもチャレンジし、目標を達成。翌年明けのスタートを目指していた。が、そこから世界はパンデミックに突入することになり、まさかのコロナ禍でスタートを切ることに。「でも、ゲストハウス業は初めてだったから、準備期間になりました」と前向きだ。本格的に始動したのは2022年秋頃からだった。

六根ゲストハウスのエシカルなポイント

六根ゲストハウス

画像提供:六根ゲストハウス

フェアトレードと手作り、地産地消といったテーマを包括する六根ゲストハウス。全ては、人と環境に配慮した選択肢という共通点で結びついている。

フェアトレードの厳しい基準を満たしたアメニティや、京都産の自然農野菜を中心とした自慢の手作り朝ごはん、北山杉を自然の染料で染めた壁や家具を配したお部屋、さらに電気は「顔の見える生産者さん」より届く、「みんな電力」と契約した再生可能エネルギーだ。

宿泊すること自体が、人と環境に優しいアクションにつながっているのがわかる。

六根ゲストハウス

夏はとうもろこしご飯など、季節の味を丁寧に/画像提供:六根ゲストハウス

京都府亀岡の無農薬・無肥料・無堆肥の野菜を栽培している「ポトンファーム」さん、京北の「野生生活」さんより届きたての、野菜と米を使った朝ごはんは大好評で、ベジタリアン、ビーガン、アレルギーにも個別に対応してくれる。

初めてでも懐かしい

六根ゲストハウス烏丸御池という京都市内のど真ん中にあるのに、扉を開けるとまるで初めてではないような懐かしさを覚える。

もちろん店主・佳代子さんの人懐っこい笑顔や、温かい対応のためというのもあるけれど、歴史のある町家特有の包み込むような雰囲気もその理由だろう。

入ってすぐ、一階奥の部屋に通してもらう。まず目に飛び込んできたのは、ベッド越しに見えるプライベートな坪庭!こじんまりとしているけれど、しっかり小さな縁側まである。

次に目を引くのがバイオマスエネルギーを利用した環境にやさしいペレットストーブ、TOYOTOMIの「MUUMUU」。こちらはクラウドファンディングで集まった資金で購入したもの。堂々とした佇まいは本格的で、冬に泊まりに来て体験したいと思わされる。京都北山の間伐材を圧縮したもので燃やしており、佳代子さん曰く「密度が高くていい感じに燃える」のだとか。

六根ゲストハウス

TOYOTOMIの「MUUMUU」

六根ゲストハウス

京都北山の間伐材を圧縮したもの

ほかにも部屋には南アフリカのフェアトレードで購入したランプ、寝具やパジャマはPeople Treeのものをチョイス。滞在時には実際にそれらを使い、まとって眠ることができる。その経験こそが、六根ゲストハウスの生まれた理由のひとつだ。

六根ゲストハウス

南アフリカより届いた異国感たっぷりなランプ、もちろんフェアトレード

翌朝、本当によく眠れたよ、と声をかけてもらうときなど、その醍醐味を感じるという。気に入ったアイテムは、在庫があればその場で購入することが可能。ない場合は後から届けてくれるという。

まるでホームスティのような経験に

六根ゲストハウス

2階のお部屋

狙ったわけではないけれど、日本らしい町家に宿泊できるためか、今のゲストはほぼ外国人。ゲストとのやり取りは、実はチェックイン前から始まるという。

特に今の京都はコロナ前の活気を取り戻し、どこへ行っても混雑が避けられない状態。おすすめのレストランなども、当日に予約となると難しい。そのため、佳代子さんは前もってディナーの予約を取る手伝いもしているという。好きなもの、食べられないものなどを確認し、予約しておくのだ。

取材時にもちょうど、これからやって来るゲストからかかってきた電話で予約先施設との調整をしていた。大変なことも多いだろうと思うも、「注文やお願いをたくさん聞いてハードルが高ければ高いほど、別れがたく寂しいんですよね」と、にこにこ顔の佳代子さん。

ここまでしてもらえるゲストは幸せ者だと思うと同時に、なにかに似ていると思う。そうだ、ホームステイ先にお世話になる感覚だ、とピンときた。

佳代子さんの人との向き合い方こそ、フェアトレードの根底にあるものだと感じる。チャリティやボランティアという枠を超えて、人と人がつながっていくこととその豊かさを教えてもらった。

六根ゲストハウス

フェアトレードの寝具。実際に使ってよさを実感できる

ちなみに日本人では20代など若い人が多いのが特徴で、「初任給で来ました」と言ってもらうことも。「将来への希望が持てますよね!」と嬉しそう。

フェアトレード生産者のゴールを見据えて

六根ゲストハウス
今後の目標を聞くと「ゆくゆくは、ゲストハウスをたたんで、海外を拠点に移し、日本にニーズのある商品を作りたい」という、予想を上回る答えが返ってきた。

「今は、菊屋雑貨店やゲストハウスの運営を通して、人々のニーズや本当に欲しいと思ってもらえるものなど、さまざまな情報を集めている時期。それらを詰め込んだ、本当に喜ばれて欲しいと思ってもらえるスーパーアイテムを生産、フェアトレードで販売し、生産者とともに幸せで豊かな暮らしがしたい!」と笑いながら教えてくれた。

経験を積むと、一般的には「自分の手から離して、現場が回るように」と考える人も多いなか、佳代子さんは自ら現地へ出向き、世界の働き手と一緒に手を動かし働きたい、という。それはきっと潤っていく過程も、幸せになった先も一緒に経験し、見届けたいからなのではないか。なんとも人好きな佳代子さんらしいゴールだな、と感じた。

最後にゲストハウスを運営する醍醐味を聞くと、「シンプルに、来てくれた人にいい思い出を作って欲しい。『やっていてよかった』と感じるのはやはり喜んでもらえたその反応だから。朝食が美味しかった、寝具が心地良くてよく眠れた、予約してくれたレストランがものすごくよかったなど、なんでもいい」と、彼女らしい回答が返ってきた。

フェアトレードに関心があってもなくても、ここで過ごす時間は、人と関わることの温かさや、心くすぐる心地いいアイテムとの出会いに満ちた豊かなひとときになるはずだ。京都に行く予定のある人は、ぜひ滞在先に検討してみてはいかがだろう。

六根ゲストハウス
HP: https://rokkonguesthouse.com/
住所: 京都市中京区釜座通り御池上がる下松屋町720-5
電話番号: 075-222-0178
予約: 六根ゲストハウスの予約ページから

菊屋雑貨店
HP: https://www.kikuyazakkaten.com/
住所: 京都府京都市中京区妙満寺前町 469
電話番号: 075-222-0178

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mia

旅するように暮らす自然派ライター|バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、オーストラリアに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストになっていました。ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。経験をもとに、旅をちょっぴりエコにするヒントをお届けします。