”深夜特急に憧れて” 上下に縦で捉えて見えた香港の魅力

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「旅」という言葉を聞いて、イメージするものは人それぞれだ。

アジアの繁華街を歩くバックパッカーを想像する人もいれば、パリやニューヨークなど大都会のカフェでパソコンを広げるノマドワーカーを想像する人もいるかもしれない。

筆者が「旅」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、長距離バスを乗り継いで、各国を陸路で移動する若者の姿。これは、旅人のバイブルとしても有名な『深夜特急』のワンシーンだ。

深夜特急は、インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスで向かう紀行小説で、作家の沢木耕太郎先生が自身の旅の経験について描いた実話である。

インターネットが普及した現代では、旅先の国や都市について調べればすぐに答えが見つかる。しかし、深夜特急の舞台となった1970年代はそこまで便利な時代ではなかった。

地元の人しか知らない食堂で出会った人々や、名前も知らなかった町で見た感動的な景色。それは、インターネットが普及していないからこそ得られる経験なのかもしれない。

「情報にあふれた現代では難しいけど、沢木先生が経験したような驚きと発見であふれる旅を自分も体験してみたい」

そう願っていた筆者は、その長年の夢を叶えるために香港へ訪れた。

地面からビルが生えている都市「香港」
香港の街

香港は、深夜特急で最初に登場する都市だ。

「航空券が安かったから」という理由で降り立った香港にいつの間にか惹かれ、思いがけず長居するところから旅は始まる。

筆者は今回の旅で初めて香港を訪れたが、空港から電車に乗り、街に降り立ってかなりの衝撃を受けた。

それは、ビルが建っているのではなく、地面から生えてるように見えたからだ。

香港のビル群

実際は、高層ビルがただ立ち並んでいるだけなのだが、細長いビルがあちこちでニョキニョキと生えているように見えた。

香港に高層ビルが立ち並ぶ理由の1つに、急激な人口増加と都市化がある。香港は東京の半分ほどの大きさしかないが、人口は730万人を超え、人口密度の高さは世界でもトップクラスだ。

人口密度の高さによる都市の混雑を解消するために、建物を横ではなく、縦に伸ばしたと言われている。

香港のビル

あまりにも高いビルが多いため、晴れているにも関わらず、日陰になっている場所ばかりなのが印象的だった。

道沿いにある食堂から聞こえる広東語や、道路から聞こえる大きなクラクションの音。

上を見上げると高層ビルで空が埋め尽くされていたが、香港の人々の賑やかな生活の音を聞いていると、なんだか窮屈さは感じなかった。

「上」と「下」で視点を変えると世界も変わる

香港といえば、大都市のイメージがある。

実際に訪れてみてそのイメージは間違いではなかったが、香港はそれだけでなく、もっと多面的で面白い都市だということに気づいた。

香港 ウォールアート

香港島の中環というエリアを訪れると、いたるところにウォールアートが見られる。古いマンション群のなかに突如として登場する先鋭的なアートは、昔ながらの香港に新しい香港が合体した絵画のような光景だ。

九龍半島 市場

九龍半島の中心には、多くの市場がある。市場のために用意されたエリアがあるというよりは、建物と建物の隙間を見つけて無理やりそこに市場を作ったようにも見える。

現代的なビルの麓にあるのは、地域の人々が運営する市場。これからさらに発展しようとするビジネスマンと、下町らしさの残る香港を守ろうとする地元住民が共存しているように感じた。

どの国もどの街も、エリアを移動すると雰囲気が変わるというのはよくあること。

ただ香港の場合は、エリアという「横」の視点だけでなく、高層ビルなどの「上」と、市場などの「下」の視点で覗いてみると、見える世界が大きく変わるのが面白い。

合理的で大胆なところが香港の面白さ

約10日間の香港滞在を終えて感じたのは、香港の面白さは「合理的だけど大胆なところ」なのではないかということ。

香港には世界一長いと言われるエスカレーターがある。全長800メートル、高低差135メートルのこのエスカレーターは、地域住民の通勤や買い物が便利になるように作られたという。筆者も試しに一番下から一番上までエスカレーターで登ってみたところ、20分ほどかかった。

「確かに坂道を上るならエスカレーターがあると便利だよね」と納得しつつ、「だからといってこんなに長いエスカレーターを街中に作るのか…」という驚きもあり、合理的だけど大胆な香港人の暮らしや考え方が見えた気がした。

ブルースリー像

深夜特急を読んで訪れた結果、思いがけない景色が広がっていた香港。

インターネットが普及していなかった当時の香港と比べると、今はもうかなり発展が進んでいるため、私が小説を読んで憧れていた頃の香港の景色にはきっと一生出会えないのだろう。

少し残念な気はしたが、それでも筆者にとって香港は、驚きと発見が連続する都市だった。

少し自分が視点を変えるだけで、「昔から変わらないもの」と「新しく生まれたもの」それぞれの良さや、それぞれの必要性に気づける。

自分の視点や見方にこだわりすぎないこと。香港の旅では、それを試されているような気がした。

【参照サイト】「深夜特急」公式サイト
【参照サイト】香港政府観光局
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佐藤 ひより

フリーライター。数時間に1本しか電車が走らない田舎に生まれたこともあり、その反動で都会や海外など外の世界に興味を持つ。大学時代にインドネシア語を学び、それからバリの虜になり今ではよく通うように。海外や日本各地を旅しながらその土地の人の価値観に触れること、美しい自然を見て心が震える体験をすることが好きです。