5歳の息子と日本一周。自分も子供もどちらも諦めない「親子ワーケーション」という生き方

ワーケーションという言葉が広く知れ渡るようになって久しいが、実際にワーケーションを実践する人はまだ少ない。観光庁の「『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書(※1)」によると、ワーケーションの認知度は79%であるのに対し、実施経験者は全体の約4%に限られるのが現状だ。

そんな中で、2021年秋から親子で日本一周旅を始め、全国各地の魅力を記事にして伝える親子ワーケーションを実践する人がいる。多拠点生活ライターとして活動する今井美香さんだ。

本記事では、今井さんに親子ワーケーションのメリットと家族に起きた変化、子育て世代がワーケーションを実現する上でのポイントについて伺った。

話者プロフィール: 今井美香さん

mai-kamii-profile15年の転勤族暮らしを経て、コロナ禍をきっかけにフリーライターに転身。インタビューや観光地の取材、写真撮影を中心に活動中。現在はライティング業務以外にも、女性の働き方についての講演や親子ワーケーション事業にも携わる。現在は5歳の息子と2人で日本一周ワーケーション中。

親子ワーケーションをはじめたきっかけ

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写真提供:今井美香さん

──今井さんが親子ワーケーションをはじめたきっかけは?

私はもともと、旅行に行かないと落ち着かなくなってしまうほどの旅好きで、家にずっといるのが苦手。子供が産まれたからといってその体質は変わらず、週末は近所のショッピングセンターなど、とにかく外に出かけていました。

はじめて息子と2人で親子ワーケーションに挑戦したのは、息子が2歳になった頃です。青春18きっぷを握りしめて、旅行中の仕事はメール対応程度に留めつつ「行けるところまで行ってみよう。ダメだったら途中で帰ろう」と出発しました。東京から富士山周辺まで電車を乗り継ぎ、そのまま山梨に一泊。その経験で自信がついて、徐々に旅先までの距離を伸ばしていったんです。

──なぜ、一人旅やワーケーションではなく親子でのワーケーションを選択したのですか?

家族に子供を預けてひとりで旅をする選択肢も我が家の場合は取れるんですが、子どもと一緒に過ごせる時間が有限であるという事実はどうしても変えられないですよね。

その有限の時間を子供と一緒に過ごしたい。でも私は家でケーキを焼いてあげるなど、家の中で楽しむというようなことは苦手なので出来ない。「自分に出来ることは」と考えた時に、一緒のものを見て一緒のことを経験するというように、同じ時間を共有することは、私自身も楽しみながら出来るんじゃないかなと思ったんです。

自分自身の自由や楽しみも欲しいけれど、有限である子どもとの時間を一緒に過ごさずに将来後悔したくもない。なのでその両方を選択できる親子ワーケーションという選択肢を取ることにしました。

──親子ワーケーションをする期間や行き先はどのように決めていますか?

複数の地域を旅しながら、1か月ほどかけて長期ワーケーションをすることが多いですね。子どもが保育園を休園できる期間には限りがあるので、1か月の親子ワーケーションをした後はしばらく保育園に通い、また旅をするという形です。保育園での思い出も作ってほしいので、行事がある時期に合わせて登園させることもあります。

旅行先選びは、「誰かに会いに行く旅」を基準に決めることが増えました。以前は観光旅行もしていましたが、息子は観光地にさほど魅力を感じないタイプ。私の友人や取材先の方々に会いに行く旅に息子もついてくるというパターンが多いです。

──親子ワーケーションでの1日の過ごし方を教えてください。

まずは朝起きて、のんびりメールをチェック。その間に息子は自分の好きなことや、学習ドリルでの勉強をして過ごします。昼食は、地元食堂でその土地ならではの名物を食べに行くことが多いですね。

午後に取材が入っている日は取材に行き、その後は宿やコワーキングスペースで子どもの面倒を見ながら少し仕事をする時間に。近場で子どもと遊んだり、だらだらと過ごしたりすることも。夜に取材や会食が入ることも多いので、子どもも一緒に会議に参加してもらって話を聞いています。

親子ワーケーションのメリットとは

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写真提供:今井美香さん

──親子ワーケーションのメリットは?

私自身にとってのものでいうと、仕事を通じたインプットの量や幅が増えるのがメリットです。私は基本的に、取材などの仕事中でも子どもを預けず一緒に行動していますが、子どもがいるとコミュニケーションの輪が何倍にも広がるんです。先日も、仕事中に子どもの面倒を見てくれていた方がいて、話してみたら実は一番偉い方だったということもありました。子どもには人とのバリアを外してくれる力があると感じます。

一方で、親子ワーケーションは集中して仕事をするのには向いていません。私自身もワーケーション中に記事を書いていた時期がありましたが、時間管理や集中力の持続が困難でした。集中して仕事をする場合は子どもと距離を置いた方がはかどることも多く、デメリットもあります。

──親子ワーケーションを通じて、お子さんに変化はありましたか?

旅を通じていろいろな方と知り合う機会が増えたことで、コミュニケーション力が成長したのを感じます。旅を通して視野も広がり、誰に教えられるでもなく多様性を受け入れているなと感じることもあります。先日、車いすに乗った方がエレベーターに乗れずにいる姿を見かけた息子が「お先にどうぞ」と声をかけたんです。車いすの方を珍しがらず、当たり前に接する姿に息子の成長を感じました。

子どもに限らず、人は自分の見聞きした範囲でしか夢を描けません。子どものうちに多くの大人に出会ってさまざまな仕事の形を知ることで、将来やりたいことに早く気づいてほしい。可能性を広げながら成長してもらえたらと考えています。

その一方で、長期ワーケーションを重ねると学校や保育園での団体行動の感覚が薄れてしまうと心配になることもあります。1人の子と深く付き合う時間も少ないので、濃い人間関係も築けるよう見守っていきたいです。

──多拠点生活で、今井さんご自身が変化を感じたことは?

ワーケーションでの多拠点生活を通じて新しい居場所ができ、全国の方々とお互いを気にかける関係になれたことで、以前よりも精神的に安定しました。交友関係が増えて仕事の幅も広がっています。出会った方の紹介で思いもよらない仕事が舞い込むこともありました。

親が楽しめないときは、親子ワーケーションを途中でやめてもいい

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写真提供:今井美香さん

──子どもと一緒のワーケーションでは、苦労も多いのでは?

正直なところ、今でも難しさは多々あります。ワーケーション中は社会のルールを守らなければいけない場面もあるので、メリハリを大切にしています。例えば、大人同士が話しているときに子どもが割り込んできたら、順番だからと待ってもらいます。ルールを守ってほしい理由を説明することで、仕事中は大人しく待ってくれるようになりました。

──親子ワーケーションをするときに、大切にしているポイントは?

一番大切なことは、ワーケーションの準備段階や旅の途中で親自身が嫌になったら、親子ワーケーションを無理に続けないことです。「親子ワーケーションをしたけれど、楽しくなかった」となってほしくないんです。

家族で近所のカフェに行って親が1時間パソコンを開いて仕事をする間、子どもはフラペチーノを飲んで過ごす。これも立派な親子ワーケーションへの第一歩です。無理をせず、短時間で身近な場所から始めてみるのがおすすめです。仕事と遊びと子どもの割合が、3:3:3位になるのがちょうどいいワーケーションの比率だと思います。

旅行中は、子どもと親それぞれがやりたいことのバランスを取るのが大切です。我が家の場合は、1日のスケジュールに親と子どもがやりたいことを1つずつ組み込むようにしています。必ずしも、子どもの楽しみに親が合わせる必要はありません。親と子供が同程度楽しめていることで、子どもの満足度も高まります。

バケーションが前提ではない。近距離から気軽にワーケーションをはじめよう

──今井さんの今後の活動について教えてください。

私は、大好きな旅と地方創生に関わる働き方をしたいと思い、その足掛かりとしてライターの仕事をはじめました。最近は、講演依頼などワーケーションから派生した新たな仕事の機会も増えています。結婚や出産などでライフステージが変化しても、好きな場所で好きに働けることを私自身の活動を通じて発信していきたいです。

親子日本一周旅は、来春、息子が小学校に進学するタイミングで一区切りにしようと考えています。コロナ禍で制約が多く予定より2か月ほど遅れていますが、長期の休みを活用して日本一周達成を目指したいです。

──最後に、親子ワーケーションに興味を持つLivhub読者へメッセージをお願いします。

ワーケーションは、いつもと違う場所に身を置いて刺激を受けることに意義があります。遠出してSNS映えする場所で仕事をするイメージが定着していますが、隣町にある純喫茶や近所の居酒屋でも、楽しく仕事ができて新たな発見が得られれば立派なワーケーションです。旅先では、いつもと同じ仕事量を目指さず、企画のイメージを練るなど気軽にできることからはじめてみてください。

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写真提供:今井美香さん

子どもと過ごす中で感じる、自由が制限される感覚。好きな時間に好きな場所へ出かけられない上、働き方も制限される生活。しかしその制約は自分で自分を縛る鎖に過ぎないのではないだろうか。「ライフステージが変わっても何も諦めることなく、好きな場所で好きに働き、やりたいことはやれると伝えたい」と語る今井さんの生き方は、きっと多くの人の背中をこれからも押していくだろう。

親子ワーケーションは、親が一個人として仕事も遊びも両方楽しめる新たな選択肢である一方、遠方に出かけようとつい力が入ってしまいがち。まずは身近な親子でのお出かけに少しだけ仕事も組み込んでみてはどうだろうか。

(※1)観光庁 | 「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書

【参照ページ】今井美香(カミイマイ)さん Twitter
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石崎リカ

福島県生まれ。美容と海外ドラマが好きな1児の母です。大学時代から旅に目覚め、これまでに約30か国を訪問。会社員として働きながら、旅行メディアで記事を執筆。ファミリーワーケーションや快適な子連れ旅を実践するヒントをお届けします。