地域課題解決型ワーケーションとは? 個人・企業・自治体のメリット・課題を解説

地域課題解決型ワーケーションとは、企業の従業員が地域関係者との交流を通じて共に地域の課題を考え、解決アイデアを出したり、実際に解決に取り組んだりしていくスタイルのワーケーションスタイルを指します。企業のSDGsへの取り組みとしてだけではなく、地域での課題解決体験を通じた従業員の人材育成、地域との交流による新規事業の創出など様々な観点から注目されています。

具体的には、「地域の魅力を発掘する」「地域の空き家を活用する」「地域の伝統産業を再興する」「海洋ゴミ問題を解決する」「地域の農作物の付加価値を高める」など、地域が抱える固有の課題をテーマに据えて現地を訪問し、地域の人々との交流を通じて問題について学び、参加者らとともに解決策を考え、提案までを行う形式が一般的です。場合によっては、ただ解決策を提案するだけではなく、ワーケーションプログラムの終了後も継続的に地域と関わり、具体的な問題解決や事業開発に取り組むケースもあります。

地域課題解決型ワーケーションプログラムの内容は地域によって様々ですが、一般的には地域の課題を知るためのツアーが組まれており、空き時間で参加者同士がディスカッションしたり、自由にワーケーションしたりできる自由時間が用意されているという形式が多いようです。

プログラムの期間も様々で、1泊2日や2泊3日などのコンパクトなプログラムから、1週間から最大1ヶ月程度滞在するプログラム、複数回にわたって地域を訪問するフィールドワークを含んだ数カ月間にわたるプログラムなど、様々なスタイルがあります。

地域課題解決型ワーケーションの主催者も様々ですが、地方自治体が地域のまちづくり企業や団体、地域の伝統産業に関わる企業、DMOや観光協会などと連携しながら実施しているケースが多くなっています。

地域課題型ワーケーションの主なメリット

地域課題解決型ワーケーションに取り組むメリットを個人・企業・自治体それぞれの立場から整理すると、下記のようになります。

個人のメリット

  • 地域に入り込むきっかけとなる
  • 地域のキーパーソンや参加者とのつながりが作れる
  • 問題解決スキルが得られる

地域課題解決型ワーケーションに参加する個人としての何よりのメリットは、興味がある地域に入り込むきっかけとなるという点です。移住や事業展開などに興味がある地域があったとしても、個人ではなかなか地域のリアルな課題に触れたり、地域のキーパーソンに出会ったりすることはできません。その意味で、地域課題解決型ワーケーションは地域に入り込むきっかけとしてとてもおすすめです。

プログラムを通じて地域の方々と交流することで、その地域が自分と合うかどうかも分かりますし、継続的にその地域に関わろうと思ったときに役立つ貴重なつながりを得ることもできます。また、地域のキーパーソンとの出会いだけではなく、参加者同士のつながりがえら得ることも大きなメリットだと言えます。

地域課題解決型ワーケーションに参加すると、地方創生や移住などに興味がある人や、デザインやITといった自分のスキルを活かして何か社会貢献をしたい人など、様々なバックグラウンドを持つ方と出会うことができます。こうした出会いが自分の仕事やライフスタイルの選択肢を広げてくれる可能性も大いにあります。

さらに、実際にワーケーションプログラムをきっかけに地域の問題解決に取り組む場合は、企画力やコミュニケーション力、プロジェクト推進力など様々なスキルを身につけることができ、本業やその後のキャリアにプラスとなる経験を積むことができます。

企業のメリット

  • SDGsの実現に貢献できる
  • 人材育成につながる
  • 新たな事業機会につながる

企業が自社のリソースを活用して地域課題解決型ワーケーションに取り組み、地域が抱える様々な環境・社会課題の解決に貢献することは、SDGsの観点からも非常に価値があると言えます。また、ワーケーションやプロジェクトを通じて従業員に普段の業務とは異なる経験を積んでもらうことは、従業員の能力開発や人材育成にもつながります。

さらに、ワーケーションを通じて地域と良好な関係を構築することができれば、その地域における新たな事業機会が生まれる可能性もありますし、地域のリアルな課題解決プロセスを通じて生まれた製品やサービスを他地域に展開し、事業化することもできます。

自治体のメリット

  • 地域課題の解決リソースの獲得
  • 域外企業との関係構築・投資呼び込み
  • 移住・定住促進のきっかけづくり

自治体の立場としては、地域課題解決型ワーケーションを実施することで、ワーケーションの参加者から様々な課題解決アイデアを提供してもらえるだけではなく、場合によっては実際の問題解決に向けたリソースを確保することも可能となります。また、他地域からやってきた参加者との交流を通じて、地域の人々が自分たちの隠れた魅力や強み、地域資源に気付くケースもよくあります。

また、最終的にはワーケーションプログラムを通じて個人や企業との関係構築に成功すれば、継続的な訪問による経済活性化だけではなく、移住やサテライトオフィスの開設など、より大きな成果につなげられる可能性もあります。地域の課題解決に貢献してくれるクリエイティブな個人や企業を呼び込むためには、地域の「魅力」ではなく地域の「課題」を発信することに意識を向け、個人や企業がその地域に関わって何かを始めたいと思えるような「余白」をしっかりと見せていくことが重要となります。

地域課題型ワーケーションの主な課題

地域課題解決型ワーケーションを実施する際の主な課題を個人・企業・自治体それぞれの立場から整理すると、下記のようになります。

個人の課題

  • 一定のコミットが必要となる
  • ワーケーションの自由度は低い
  • 本業への影響

地域課題解決型ワーケーションの場合、参加者は地域に対して課題解決アイデアを提案したり、実際にプロジェクトに取り組んだりすることが期待されているため、一定のコミットが必要となります。また、ワーケーション当日のプログラムは地域内のフィールドワークや地域の方々との交流など、予め用意されたスケジュールに沿って進められることが多く、どちらかと言えばツアー形式のようなスタイルとなるため、ワーケーションとしての自由度は低いと言えるでしょう。

さらに、ワーケーションプログラムへの参加後も本格的に地域と関わる場合は、本業との兼ね合いも意識する必要があります。取り組むプロジェクトが本業との相乗効果が見込める場合は問題ありませんが、本業との関わりが薄い場合には、事前に同僚や上司などの理解を得ておく必要があるでしょう。

企業の課題

  • 目的の明確化
  • 従業員の労務管理
  • 地域との継続的な関係構築

企業として地域課題解決型ワーケーションに取り組んだり、従業員の積極的な参加を促したりする場合には、目的を明確にしておく必要があります。将来的にその地域での事業展開やサテライトオフィス開設を検討しているのか、具体的な商品・サービス開発のために取り組むのか、あくまで従業員の能力開発や人材育成の観点から取り組むのかによっても、最適なワーケーションプログラムや実施地域、地域との関わり方は異なってきます。

また、地域課題解決型ワーケーションの場合は、福利厚生型ワーケーションなどとは異なり、従業員が自社の業務とは異なるプロジェクトに参加する可能性もあるため、従業員の労務管理についても予めルールを決めておく必要があります。

そして、地域課題解決型ワーケーションを通じて地域といかに継続的に良好な関係を構築できるかという点も重要となります。「課題解決」と聞くと個人や企業が地域のために何かをしてあげるといったようなニュアンスが出てしまいがちですが、実際には個人や企業が地域から受け取るものも多くありますし、外からは課題に見えることも地域の人々にとっては課題ではなく、かえってプロジェクトの実行が地域にマイナスの影響を及ぼしてしまうこともあります。

地域と継続的に良好な関係を構築するためには、成果を焦ることなく地域の方々や自治体の立場を尊重しながら長期的な目線で取り組んでいくことが重要です。

自治体の課題

  • プログラムの企画・運営
  • 地域の協力関係構築
  • 参加者との継続的な関係構築

地域課題解決型ワーケーションプログラムを実施したい自治体にとっての一番の課題は、地域に貢献してくれる魅力的な参加者を集められるような、魅力的なプログラムの企画・運営です。すでに先行して地域課題解決型ワーケーションに取り組んでいる自治体の事例なども参考にしながら、地域のまちづくり企業や団体、外部のアドバイザリーなども活用しながら、参加者の目線でプログラムを作り上げることが必要となります。

また、地域課題解決型ワーケーションプログラムの実施には、地域の方々の協力が欠かせません。訪問先となる地域内の企業や個人の方にもメリットが生まれるようなプログラム設計が求められます。魅力的なプログラムを作るためには、まず地域の中でしっかりと協力関係を構築しておくことが重要です。

そして、最後の課題は、参加者との継続的な関係構築です。せっかく地域課題解決型ワーケーションを実施しても、結局は課題解決につながらない表面的なアイデアの提案だけに終わってしまっては意味がありません。参加者の方々に継続的にこの地域に関わり、課題解決に取り組みたいと思ってもらえるようにプログラム内容を磨くことはもちろん、オンラインなども活用しながらプログラムの実施後も参加者が地域と継続的にコミュニケーションを取れる場や機会を用意するなど、「参加して終わり」にならない仕組みづくりが重要となります。

まとめ

いかがでしょうか?地域課題解決型ワーケーションは、個人にとっては新たなキャリアや移住などのきっかけとなり、企業は従業員の能力開発や新たな事業機会の模索に活用でき、自治体にとっても新たな関係人口、企業誘致のきっかけとなる、とても可能性に満ちたワーケーションスタイルだと言えます。今後、さらに多くの地域がワーケーションプログラムを提供し、個人や企業の選択肢が増えることを期待したいところです。

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