ワーケーション制度を導入する企業も増えつつある今、事業者の方の中には体制構築といった課題のほか、「ワーケーションによってどのような効果が得られるのか」が気になる方もいるのではないでしょうか。そこで、ワーケーションの効果について調べる実証実験に注目。その結果から、どのような効果が期待できるのかをまとめました。
ワーケーションにはどんな効果がある?
ワーケーションは近年、働き方改革やコロナ禍によるテレワークの普及、地域における関係人口の創出ニーズの拡大などを背景に注目されており、誘致自治体や個人ユーザーも増加傾向にあるようです。
一方で、制度として導入している企業はごくわずかにとどまるのが現状。労務管理の難しさやテレワーク環境構築コスト、セキュリティリスクなどの課題があると言われています。
そういった課題のほか、「ワーケーションでは休暇と仕事のメリハリがつかず生産性が落ちるのではないか」、「ワーケーションによって具体的にどんな効果が得られるのかわからない」といった懸念から、導入を踏みとどまる事業者の方もいるのではないでしょうか。
そこで今回、企業や自治体が実施した、「ワーケーションの効果を調べるための実証実験」をピックアップ。実験では、さまざまな調査方法のもとワーケーションを行い、参加者の心身にどのような効果をもたらしたのかを詳しく調べてまとめています。その結果から、具体的なワーケーションの効果やメリットが読み取れるかもしれません。
ここからは、3つの実証実験の概要と結果を紹介します。
ワーケーションの効果を調べる実証実験の結果
①JTB、日本航空、NTTデータ研究所3社共同の実験結果
2020年6月、JTBと日本航空、NTTデータ経営研究所の3社共同で「ワーケーションの効果」についての検証実験を行いました。
【実験の概要】
・目的:ワーケーションの効果・効用に関するエビデンス獲得
・実験場所:カヌチャリゾート(沖縄県名護市)
・参加者:研究チームの所属メンバーを中心とした男女18名
・調査方法:日程をプレワーケーション期間、ワーケーション期間、ポストワーケーション期間の3つに区分し、アンケート調査や実施対象者へのウェアラブルデバイスでの活動量や睡眠時間把握により効果を調査
【結果】
1.仕事とプライベートの切り分けが促進される
ワーケーションは、表面的に見ると公私が混ざり合う取り組みながら、むしろ逆の結果(仕事とプライベートのメリハリがつくようになる)となることがわかった。
2.情動的な組織コミットメントを向上させる
「ワーケーションを許可してくれた会社に対する帰属意識」など、情動的な愛着を促進し、結果的に従業員のパフォーマンス向上にも寄与することがわかった。
3.仕事のパフォーマンスを向上、さらに終了後も効果持続
ワーケーション初日、実験前より約20%パフォーマンスが向上。さらに、その向上はワーケーション終了後1週間持続した。ワーケーションは実施中の短期的な効果だけでなく、その後の残存効果も期待できることがわかった。
4.心身のストレス反応の低減と持続に効果がある
職業性ストレスが、ワーケーション開始後から平均して約37%低減。特に「活気」が上がり、「不安感」は期間終了後も低減が持続した。ワーケーションは心身のストレスを低減させ健康状態を改善させる効果が期待されることがわかった。
5.活動量(運動量)の増加に効果がある
活動量(歩数)の分析の結果、ワーケーション期間中は運動量が2倍に増加。ワーケーションの取り組みは身体的な健康にも寄与することが期待される。
この調査により、ワーケーションが精神的・身体的な健康状態の改善につながり、終了後も数日間は効果が持続することがわかりました。
<調査結果URL>
ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する。ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施
②BIGLOBEが実施した「温泉ワーケーション」実験結果
2020年9月、BIGLOBE株式会社が主体となり、日本能率協会コンサルティング(以下、JMAC)、一般財団法人 日本健康開発財団(以下、健康開発財団)とともに温泉地におけるワーケーションの実証実験を行いました。
【実験の概要】
・目的:温泉地におけるワーケーションの効果(フィジカル面・メンタル面での変化)の計測
・実験場所:湯河原、わたり、別府の温泉地
・参加者:BIGLOBE、損害保険ジャパン株式会社、三井住友ファイナンス&リース株式会社のリモートワークメンバー
・調査方法:JMACによる事前事後のアンケートおよび参加者へのインタビューと、健康開発財団によるフィジカル面、メンタル面での変化の計測(自律神経バランス、医科学的知見に基づく心身の健康状況などの評価)
【結果】
1.新たな発想など従業員のエンゲージメント向上
参加者から、「ワーケーションによりリフレッシュできた」、「在宅勤務では得られない新しい発想があった」など、ポジティブな声があがった。ワーケーションは、従業員のエンゲージメントを高める施策として有効であることがわかった。
2.チームワーク向上
ワーケーション期間中のインタビューにおいて、「ワーケーションはチームにとってメリットがある」との回答が87%に。参加者からは、「チームのコミュニケーションが活性化され、ワーケーション後にもその効果は持続すると感じる」、「仕事以外の時間も一緒に過ごすことで、メンバーと深く関わることができた」といった声があがった。温泉地にてチームでワーケーションを実施すると、チームの絆が深まるということがわかった。
3.自律神経バランスなどフィジカル面の改善
参加者に対し、心拍変動に基づく自律神経バランス検査を行ったところ、ワーケーション最終日には自律神経バランスが理想的な状態に近づいた。また、血液循環検査では、血管推定年齢の低下や末梢血管健康度の改善などが見られた。温泉地滞在により、リラクゼーションや疲労回復、血液循環の改善につながったと推察される。
4.ネガティブな感情・気分の改善
国際的に用いられている、65項目の質問に答えることで心身の状態をはかるPOMS検査で評価を行ったところ、ネガティブな感情・気分である「混乱」や「疲労感」は低減し、ポジティブな感情・気分である「活気・活力」、「友好的気分」の改善が認められた。
この調査により、温泉地でのワーケーションは従業員のリラクゼーション効果など心身状態の回復に寄与することがわかりました。また、仕事以外の時間もチームで過ごすことで、メンバー同士のコミュニケーション促進にもつながったようです。
<調査結果URL>
BIGLOBEが実施した温泉ワーケーション実証実験の結果について | ビッグローブ株式会社
③和歌山県でのワーケーション実証実験結果
2021年3月、南紀白浜エアポートとTIS、NTTデータ経営研究所の3社共同で、「和歌山県でのワーケーション」と、「東京都での在宅リモートワーク」の効果・メリットを比較する実証実験を行いました。
【実験の概要】
・目的:南紀白浜地域における健康経営ワーケーションの効果・効用に関するエビデンス獲得
・実験場所:SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE、熊野本宮大社など
・参加者:TISを含む5社の男女20名(うち、ワーケーションでの参加13名、在宅ワークでの参加7名)
・調査方法:日程をプレワーケーション期間、ワーケーション期間、ポストワーケーション期間の3つに区分し、アンケート調査や実施対象者へのウェアラブルデバイスでの活動量や睡眠時間把握により効果を調査
【結果】
1.職業性ストレス(抑うつ感など)が低減
職業性ストレス(労働に際して発生する身体的・心理的なストレス)が、ワーケーション期間中および終了後も低減。特に抑うつ感は、期間中に最大56%低減した。
2.リカバリー経験が向上、終了後も持続
リカバリー経験(パフォーマンスを発揮するための、業務後の回復機会)が、ワーケーション期間中および終了後も20%以上向上した。
3.期間中および終了後の、ワークエンゲージメントが向上
ワークエンゲージメント(仕事に対する活力や熱意の程度)が、ワーケーション期間中に約24%、終了後も約16%向上した。
4.仕事のパフォーマンスが向上
ワーケーション前と比較し、仕事のパフォーマンスが約15%向上した。
なお、在宅リモートワークでの参加群では、ワーケーション参加群で見られたような変化は見られなかったようです。このことから、在宅ワークと比べ、ワーケーションが心身の健康、ワークエンゲージメント、パフォーマンス等にポジティブな影響を与えることがわかりました。
<調査結果URL>
和歌山ワーケーションは業務生産性および心身健康の向上に寄与 ~在宅リモートワークとの比較~
ワーケーションは心身の状態を向上させる効果が期待できる
それぞれの結果から、ワーケーションが生産性や仕事パフォーマンスの向上、ストレスの低減などプラスの効果を与えることがわかりました。
現在、健康経営に取り組む企業では、宿泊型新保健指導や森林セラピーなどのヘルスツーリズムを活用する動きが広がりつつあります。ヘルスツーリズムの一環としてワーケーションを取り入れれば、従業員のヘルスケアや企業の健康経営にも活かせるかもしれません。
今回の実験結果を、ワーケーション導入を検討する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。