【企業向け】ワーケーション、経費や労務管理はどうする?制度導入の手順やポイントを解説

「会社にワーケーション制度を導入したいけど、何から始めればいいのかわからない」と悩む事業者の方もいるのではないでしょうか。今回は、ワーケーション制度の導入手順や労務管理の方法を、メリットとあわせて紹介します。

ワーケーションが企業にもたらすメリット

新しい働き方の1つとして、ワーケーションに注目が集まっている現在。「そもそもどんなメリットがあるのか」が気になる方もいるかもしれません。まずは、ワーケーションを導入することで企業にもたらすメリットの例から見ていきましょう。

従業員のワークライフバランスの改善が図れる

世界各国に比べ、年次有給休暇の取得率が低い日本。「業務があるのに休暇取得をするのは会社や他の社員に悪い」という罪悪感から、取得をためらってしまう従業員が多いことが一因と言われています。

しかし、ワーケーションなら外せない仕事の予定が入っていても、その予定を含めた期間に長期休暇を取ることが可能。まとまった休暇が取得できるため、家族との旅行を楽しみながら仕事をすることもできます。会社にとっては「従業員の有給取得率の向上」、従業員にとっては、「ワークライフバランスの改善」と、双方にメリットがあると言えるでしょう。

仕事のパフォーマンスが上がりモチベーションも向上する

ワーケーションの効果を調べる実証実験から、「ワーケーションは心身のストレスを低減させ、健康状態を改善させる効果が期待できる」ことや「実験前より仕事のパフォーマンスが向上し、さらにその効果がワーケーション終了後も数日間持続した」という結果が得られています。また、「仕事とプライベートのメリハリがついた」、「制度を活用できる会社への愛着心が増した」など、従業員のモチベーション向上につながる効果も見られました。(※1)(※2)

このことから、ワーケーションによって仕事のパフォーマンスが上がり、モチベーションの向上も期待できることがわかります。

多様な働き方がアピールでき、人材確保につながる

各企業で働き方の変革が進められる中、就職・転職希望者においてもリモートワークや複業などの導入を重視する人が増加しています。(※3)(※4)
そのため企業として、リモートワークやワーケーションをはじめ、個人のライフスタイルに寄り添った柔軟な働き方を提供できるかどうかが重要になってきていると言えます。

ワーケーションの実施によって「従業員満足度」を高め、従業員視点でのメリットを対外的にアピールしていくことで、企業のブランドイメージや採用力の向上が期待できます。その結果、人材を確保しやすくなるというメリットが得られるでしょう。

ワーケーション制度を導入する前に押さえておきたい注意点

では、実際にワーケーションの導入を検討する際、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。ここでは、労務管理や法律の観点から見た注意点を3つ紹介します。

労働時間の管理

労働安全衛生法が改正され、2019年4月より「労働時間の客観的な把握」が義務化されました。ワーケーションにおいても例外ではないため、労働時間の把握・管理は重要視すべきポイントになります。

企業側は、労働者の労働時間を適切に把握し、基本賃金に加え時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金等の、いわゆる「残業代」も支払わなければならなりません。そのため、従業員がオフィスにいなくても、労働時間や勤怠が管理できる仕組み作りが必要になります。

年次有給休暇の扱い

ワーケーションは、有給休暇を取得しつつ勤務する働き方ではありません。基本的には、「勤務日と有給休暇は別日」という認識を持つ必要があります。法律で労働者の権利とされている有給休暇とは、「賃金を支給されながら、完全に労働から離れることが保障された日」のことをいうためです。

「有給休暇の前後をワーケーションとし、長期旅行をする」という活用方法は可能ですが、「ワーケーション」と「有給休暇」を明確に区別し、それぞれの日数をカウントし、有給休暇をしっかりと従業員に取得させることが重要なポイントです。

労災の範囲

ワーケーション中に怪我をしたり、病気になったりした場合、「業務上の災害」となるのか、もしくは「私的行為による私傷病」となるのかの区別が通常よりも曖昧になりがちなので注意が必要です。

事故等に遭った時間が、勤務中・休暇中のいずれかにより、労災保険の適用範囲が決まります。ワーケーション中であっても、業務内・外の行動を明確に区別できるよう、明確なルールを決めておきましょう。

ワーケーションを導入するときの流れ

ここでは、先述した注意点をふまえ、実際にワーケーションを制度として導入するときの流れを紹介します。

STEP1. ワーケーションの目的を明確にする

まず情報収集を行い、自社の現状の確認を行うとともに、ワーケーション導入に向けた推進体制を構築しましょう。

その上で、ワーケーションを導入する前に、「有給休暇の取得促進」や「従業員の満足度向上」といった目的を明確化することが重要です。目的に沿って、基本方針を策定し、社内での合意形成を行います。

STEP2. 実施範囲を決める

目的や方針に沿って、ワーケーションの実施範囲の検討を行い、対象者(適用業務や部署等)や対象の時期など、導入範囲を決定します。

トライアルとして、一度に全社に導入するのではなく、実施しやすい部門や職種からスタートしたり、夏季休暇の期間や閑散期のみとするなどして、長期休暇が取得しやすそうなタイミングで実施してみたりするのもよいでしょう。

STEP3. 就業規則の新規作成または変更を行う

既存の就業規則がワーケーションの導入に対応できない場合は、就業規則の変更や、ワーケーション実施対象者にのみ適用する新しい就業規則の作成が必要です。

ワーケーション中に行える業務範囲や、1日・半日・時間といったワーケーション取得の単位、禁止行為など基本ルールの整備を行います。そのほか、申請・決済方法、ワーケーション中の承認フロー、発生した経費の負担方法などについても細かく定めておきましょう。

STEP4. 労働時間の管理方法を決める

ワーケーションを利用する従業員の意識や、従業員間の公平性を保つ観点からも、ワーケーション中の実労働時間の正確な把握が必須となります。

旅先であっても、1日仕事をした場合は出勤となりますが、1日のうち一部の時間を仕事にあてた場合は、時間単位での有給休暇としてカウントする必要があります。タイムカードやパソコンのログ、もしくは出勤・退勤の報告ルールを使って、労働時間を記録できる体制を確立しましょう。

STEP5. セキュリティ対策を強化する

ワーケーションではノートパソコンやタブレット、スマートフォン等を使って仕事をする場面が多くなります。会社のモバイル端末を貸し出す場合はもちろん、従業員の私物を活用する場合は、紛失や盗難、破損、情報の流出、ウイルス感染などのリスクに備えたセキュリティの対策が必要です。

ワーケーション中に使用可能な端末や利用可能なネットワークの制限、また資料の持ち出しについてルールを整備するほか、万が一の事態に備えたセキュリティソフトのインストール等の対策を行いましょう。

STEP6. 従業員への周知および管理者への理解促進を行う

制度の準備ができたら、運用を開始する前にまずは従業員に周知して理解を得ます。

働き方や休暇に対する考え方や価値観は、年代・企業での立場・家族構成などによって異なるでしょう。そのため、ワーケーション制度をどのような目的で導入するのか、また導入することでどのようなメリットがあるのかなどを従業員全員に対して丁寧に説明し、理解を得てから導入しましょう。

また、管理者の理解促進も重要です。ワーケーション対象者だけでなく、その上司もワーケーションの趣旨を理解し、部下への配慮が必要になります。そのため、管理者向けの説明会や、教育・指導の機会を設けるとよいでしょう。

その上で実際に運用が開始したら、体験者の声を社内で共有するなどし、「ワーケーションを取得しやすい社内の雰囲気」といった企業の文化や土壌づくりを進めていけるとよいですね。

制度の運用ルールを作るときのポイント

最後に、ワーケーション制度の運用ルールを作るときのポイントを3つ紹介します。

プライベートと仕事が区別しやすいルールを作る

ワーケーションは、私的な時間と仕事の時間が混同しやすいという課題もあります。休みに仕事を持ち込まないよう、「予定していた会議などの業務のみに限定する」、「休暇中は仕事の連絡をしない」といったルールを設けて、オンとオフの区別をつけられる運用体制を確立することがポイントです。

休暇と業務とのバランスをどう取るのかは企業の目的次第となりますが、「仕事ばかり」もしくは「休んでばかり」という偏った状況にならない仕組み作りを意識しましょう。

経費など、費用負担についても明確な規定を定める

ワーケーションでは、交通費や宿泊費、通信費などのさまざまな費用がかかります。そういった費用を企業側が負担するのか、従業員側が負担するのか曖昧になりやすいかもしれません。

出張などと同様に、「ワーケーション滞在先として、企業が指定した宿泊先・ワークスペースに限り費用負担する」、「企業の費用負担には、上限金額を設定する」など明確なルールを制定し、周知しておくことが重要です。

アンケートなどを活用しルールの見直しを行う

導入後は、ワーケーションの効果測定・検証を行って課題を把握し、利用推進のための見直しを随時行っていくことが大切です。

検証には「PDCAサイクル」を用いたり、社内アンケートを活用したりする方法が有効かもしれません。そこで洗い出された課題や新たなルールを就業規則に反映させていくなどし、常に従業員が最適な形でワーケーション制度を利用できるようにするとよいでしょう。

社内での運用ルールを整備し、ワーケーションを導入しよう

   
企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらすワーケーション。近い将来、一般的な働き方となっている可能性もあります。運用ルールづくりやセキュリティ対策など、導入までにはさまざまな課題がありますが、一度に全てをクリアしようとするのではなく、手順に沿って徐々に進めていったり、トライアルを設けて一部からスタートしてみたりすれば、体制が固めやすいかもしれません。

これを機に、自社へのワーケーション制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(※1)ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ~ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施
(※2)和歌山ワーケーションは業務生産性および心身健康の向上に寄与 ~在宅リモートワークとの比較~
(※3)Re就活登録会員対象 20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(テレワーク)2021年12月版
(※4)転職サービス「doda」、20~30代のdoda会員約1,500人に「第2回リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する意識調査」を実施
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