普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみながら仕事を行う「ワーケーション」は、企業や事業にどのような影響を及ぼすのでしょうか?ここでは、企業から見たワーケーションのメリット・デメリットについて詳しくご紹介していきます。
企業から見たワーケーションのメリット
企業から見たワーケーションを実施する主なメリットとしては、下記が挙げられます。
- 有給休暇の取得促進
- 従業員満足度・メンタルヘルスの向上
- 人材採用力向上・人材流出防止
- 創造性・生産性の向上
- 新規事業・イノベーション創出
- SDGs・ESG・サステナビリティ推進
- BCP対策
有給休暇の取得促進
従業員にワーケーションによるテレワークを認めることで、長期休暇中の引継ぎの手間や長期休暇から復帰後の業務増加に対する不安やストレスなどを解消することができ、より有給休暇を取得しやすい職場づくりにつなげることができます。また、テレワークの推進により休日と休日に挟まれた平日の出社義務をなくすことで、有休を組み合わせた長期休暇を取りやすくなるというメリットもあります。
従業員満足度・メンタルヘルスの向上
ワーケーションにより普段とは異なる環境でリフレッシュしてもらうことで、従業員のエンゲージメントやメンタルヘルスの向上を期待することができます。昨今では従業員の健康やウェルビーイングを企業の重要な資産と捉え、経営指標に取り入れていく「健康経営」という考え方が注目されていますが、健康経営を実現する手段としてもワーケーションの推進は大きな可能性を秘めています。
人材採用力向上・人材流出防止
ワーケーションのように柔軟で多様な働き方を許容することは、優秀な人材の採用や、人材流出の防止にもつながります。昨今では「健康経営」に加えて、人材を企業の重要な資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値を高めていく「人的資本経営」という概念が注目されていますが、この人的資本経営を実現する手段の一つとしてもワーケーションを活用することができます。経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」の中でも「地域との関係性構築や、イノベーションの創出といった観点から、 リモートワークを活用し、観光地等、普段の職場とは異なる場所で仕事を 行う『ワーケーション』の活用も検討する。」と明記されています。
創造性・生産性の向上
ワーケーションは、従業員の創造性や生産性の向上にも寄与することが分かっています。NTTデータ経営研究所、JTB、日本航空らが2020年7月に公表した実証実験結果によると、ワーケーションの「実施中に仕事のパフォーマンスが参加前と比べて20%程度上がるだけでなく、終了後も5日間は効果が持続する」「心身のストレス反応の低減(参加前と比べて37%程度)と持続に効果がある」ことが分かりました。普段とは異なる環境で仕事をすることで集中力が高まったり、新たなアイデアが閃いたりと業務に対してもポジティブな影響が生まれるのです。
新規事業・イノベーション創出
ワーケーションは、新規事業やイノベーション創出の観点からも注目されています。ワーケーションを通じて地域と関わり、地域課題の解決に取り組んだりする中で新たな製品・サービスが生まれることもありますし、ワーケーションを通じて生まれる多様な出会いやそこから得られる新しい視点が、新たなイノベーションの源泉となることもあります。
SDGs・ESG・サステナビリティ推進
ワーケーションは、SDGs・ESG・サステナビリティの推進といった観点からも大きな可能性を秘めています。従業員がワーケーションへの参加を通じて地域が抱える「人口減少」「少子高齢化」「空き家」「一次産業の担い手不足」「放置人工林」「災害」「モビリティ」といった様々な課題の解決に関わることで、直接・間接的にSDGsの実現に貢献できるだけではなく、社会課題解決型の製品やサービス、事業の開発につなげることもできます。
BCP対策
ワーケーションの実施に向けてサテライトオフィスを開設する場合、BCP(事業継続計画)対策の観点からも有効な施策となります。都心部にある本社とは別に業務遂行が可能なサテライトオフィスを地方部に設けておくことで、災害時のリスク分散や継続的な事業運営が可能となります。
企業から見たワーケーションのデメリット
企業から見たワーケーションを実施する主なデメリットとしては、下記が挙げられます。
- リモート環境整備などの運用コスト増加
- セキュリティリスク・コストの増加
- 労務管理コストの増加
- 人事評価コストの増加
- コミュニケーションコストの増加
- 賃料の増加(サテライト開設の場合)
リモート環境整備などの運用コスト増加
ワーケーションやテレワークのように柔軟で多様な働き方を推進しようとすると、リモート環境でも問題なく仕事ができるようにするための通信端末の付与など、新たなワークフローの整備や運用に伴う対応コストが増加します。
セキュリティリスク・コストの増加
ワーケーションに伴い社外での作業を許可する場合、従業員のパソコンやタブレット、スマートフォンといった作業用端末の紛失リスクや端末からの情報漏洩リスク、公共スペースにおけるミーティングや会話から生まれる情報漏洩リスクに対する対策などもしっかりと行う必要が出てきます。特にワーケーション滞在先のwifi環境は万全なセキュリティ状態で接続できるとは限らないため、会社からポケットwifiを付与する、従業員のセキュリティ教育を徹底するなどの施策も必要となります。
労務管理コストの増加
ワーケーションのように多様な働き方を認める場合、企業によっては勤怠管理や労務管理の仕組みを根本から見直す必要が出てきます。労働時間の申告方法や確認方法、業務時間と休暇時間の切り分け、労災の適用範囲、ワーケーション滞在先までの移動時間の取り扱いなど、検討すべき項目は多岐に渡ります。現状の人事制度と照らし合わせながら、ワーケーションに参加しない従業員との公平感も意識したうえで法律に沿った人事システムを設計し、運用していく必要があります。
人事評価コストの増加
ワーケーションを始めとするテレワークの推進は、人事・労務管理だけではなく人事評価の方法にも影響します。一般的に、ワーケーションはオフィス勤務とは異なり実際の仕事ぶりを管理者が確認することは難しいため、プロセスではなく成果をベースとした評価との相性が良いように思われがちですが、実際には担当業務や職種によっては定量的な成果指標による評価が難しいケースもあります。人事評価は企業文化にも大きな影響を与えるため、長期的な目線に立ち、運用後の改善を前提とした対応と社内へのコミュニケーションが必要となるでしょう。
コミュニケーションコストの増加
ワーケーションによるテレワークは、社内におけるコミュニケーションコストの増加につながるリスクもあります。ワーケーションの滞在先における報連相の方法や連絡可能な時間、緊急トラブル発生時の対応方法などについて、社内で事前に取り決めを行っておくことが重要です。一方で、従業員が一緒にワーケーションに参加することで、従業員同士のコミュニケーションの質を高めることも可能となります。ワーケーションの実施による社内のコミュニケーションロスをどのように減らし、逆にどのようにコミュニケーションを活性化させるのか、事前の戦略的な設計が鍵を握ります。
賃料の増加(サテライト開設の場合)
ワーケーションの実施に伴いサテライトオフィスを開設したり、シェアオフィスやコワーキングスペースを法人契約したりする場合、当然ながらそのぶんの賃料がコストとして上乗せされることになります。一方で、テレワークの推進により本社の面積を減らしたり、従業員の交通費が削減される場所にサテライトオフィスを開設したりするなどして、テレワークやワーケーション推進により賃料コストを削減することも可能です。ワーケーションの実施やそれに伴うサテライトオフィスの開設によりどのように直接的な経済的インパクトが生まれるのかを事前にシミュレーションするのがよいでしょう。
まとめ
いかがでしょうか?ワーケーションという新たな働き方の実現には多くの課題が残されている一方で、ワーケーションは健康経営や人的資本経営、事業開発やイノベーション、サステナビリティ推進など様々な観点から企業に多くのポジティブな影響をもたらす可能性を持っています。ワーケーションを導入したい企業の方は、ぜひ実施するうえでの課題を一つ一つ丁寧に検討し、クリアしていきながら、ワーケーションを企業価値向上につなげるためのクリエイティブな施策を展開していきましょう。
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