旅先のカフェに通う。奄美大島で一杯のコーヒーがつないでくれた出会い

拠点を探す旅としてうっそうとした自然を求めて訪れた奄美大島。前編は「ときの流れに身をゆだね、奄美時間に浸る旅」から。それでは後編スタートです

奄美大島で自然以外に大きく惹かれたもの、それはカフェだった。

カフェなら私の地元の大阪や京都にいくらでもある。だけれども、煌びやかな娯楽がないからこそ、奄美大島で飲む一杯は一層際立って私を魅了した。

例の宿では、地域で採れた旬の野菜や果物たっぷりの夢みたいな朝食が食べられる(要予約)。デキャンタに並々注がれたルイボスティーと一緒に。アフリカ産の野性味を感じるルイボスティーは好物で日常的に飲んでいるけれど、奄美のようなうっそうとした自然のある場所ではよりハマる気がする。

奄美コーヒーエッセイ

この朝食!毎朝が楽しみだった

それらを美味しく平らげた後、やはり求めてしまうのがコーヒーだった。私は海外在住時にバリスタとして何年も働いたほどコーヒーや、カフェそのものが大好きなのだ。

宿で美味しいコーヒーが飲める場所を尋ねたら、「NESARI COFFEE STAND(ネサリコーヒースタンド)」を教えてもらった。ネサリは有名なチョコレート専門店だが、自家焙煎のコーヒーが美味しいことも、地元民のあいだで密かに知られているようだ。さっそく、宿から借りっぱなし状態の私の相棒、自転車に乗って出発!

宿からネサリコーヒースタンドさん(以降、ネサリさん)のあいだの道はしばらく車道を走る。とはいえほとんど車が走っていないさとうきび畑に囲まれたのどかな道を、緩やかなアップダウンを繰り返し進むこと10分ちょっと。

島の特産物である奄美大島紬に関する施設「大島紬村」の駐車場に面したところに、ネサリさんはあった。店というにはあまりにも目立たない、テイクアウト用の窓口と駐車場に数席が用意されているだけのカフェ。窓口は注文を取ったら閉められてしまうため見落としやすく、最初は窓口を探して大島紬村の入口へ回ってしまったほどだ。

やっぱりここかなともう一度窓口の前にいくと、にこやかな女性が窓を開けてくれた。

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真ん中に見える窓が注文口

私は今、浅煎りコーヒーにハマっている。いかにもコーヒーという深みと苦味のある深煎りとは違い、浅煎りはコーヒーが果実だったと気づかされるフルーティーさが特徴だ。それまでコーヒーの舌に刺さるような酸味が苦手だった私も、本当に美味しい一杯を飲んでから、自分から求めて飲むようになった。

ネサリさんのメニューを見て胸が躍った。スペシャリティコーヒーは浅煎りか深煎りが選べるとある。「浅煎りあるんですね!」と声をかけると、向こうもぱぁっと笑顔になり「そうなんです!」と返ってきた。店内ではいかにも島っぽい風貌の男性が、次々とコーヒーを淹れている。

浅煎りの味がわかりやすいエチオピアを選び、席に座って待つ。駐車場の一角にあるこのスペースもまた素晴らしい。目の前にはジャングルのような森が広がり、太陽の光が神秘的に差し込んでいる。持ってきた本を広げたまま、あまりの心地よさにぼーっとしていたら、さきほどのにこやかな女性が一杯を運んできてくれた。「一緒にどうぞ」とネサリのチョコレートまで持って。

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ジャングルのような自然が目の前に

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贅沢なひととき

奄美大島まできてこんなに美味しいコーヒーを飲めるとは!そんな感動を生む繊細で軽やかな味わい。地元産黒糖を使った、ネサリさんのチョコレートの味は言うまでもなく絶品。この景色のなかでこのコーヒーとチョコレートを味わっている、それだけで奇跡のようなひとときだ。

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木の下にもテーブル席が

あまりに気に入って翌日も訪れたら、覚えてくれていた。「メニューにはないけど」と勧めてくれた希少なコーヒーを浅煎りでいただく、サービスのチョコレートとともに。

店員さんとやり取りするなかで何度も出てきた「257(ニコナ)コーヒー」の名前。「名瀬に行ったらぜひ!うちも焙煎法よく相談している」と言うので早速、名瀬リストに書き込む。

奄美大島の中心地である名瀬に着いた日、チェックインしてすぐに、257コーヒーへ。「ネサリさんに聞いてきました!」と伝えると店主も自然と笑顔に。そして「いやいや、僕の方がネサリさんにたくさん教えてもらいましたよ」と。それも本当らしく、お互い切磋琢磨しながら、より美味しい一杯を探求しているのが伺える。

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モーニングからやっている257コーヒー

257コーヒーのこだわりもなかなかのもの。「浅煎りの焙煎にこだわりがあるんですけど、カフェラテに使う豆は難しくて…。ミルクに負けないインパクトを保ちつつ、浅煎りのフルーティーさも残したいから、結果、浅煎りに近い中煎りになった」といかにも専門家らしい話を聞かせてくれる。

実際、東京のカフェを行脚したものの自分的に良いバランスになかなか出会えず、今も引き続き理想の焙煎をコツコツ探求し続けているのだとか。

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陽の光が差し込み明るい店内

初訪問でたまたま頼んだラテは、まさに彼の真骨頂ともいえる一杯だったのだ。確かに浅煎りのエスプレッソドリンクはバランスがカギになるので、一口目で「美味しい!」と感じられるのは本当に美味しい証だと思う。

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カフェラテと自家製ブルーベリースコーン

別の日には、エチオピアの浅煎りハンドドリップを注文する。そうそうこれ!ティーライクな軽やかさを味わっていると、コトン、別のミニカップが置かれた。
「今日は深煎りが美味しくできたんで」と店主。浅煎り好きの私に勧めたい深煎り。がぜん興味が湧き、一口…むむ、美味しい!透明感のある、スッキリした軽やかな味。いい意味で深煎りっぽさのない一杯だった。コーヒーが放つ香りのように豊かな時間…。

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浅煎りの一杯

初めて訪れる地で、大好きなカフェを通して生まれたいくつかの出会い。それは私にとって目の前がパーッと開けるような感覚になるものだった。

私がカフェを訪れるのは美味しい一杯だけが理由ではない。同じ店に通うことにこそ意味があり、カフェが地元の情報や人脈を得るのにも役立っているのだ。それは、好きなものが紡いでくれる出会い。何度も通い顔見知りが増えるところから、旅の日々は深みを増していく…。

カフェは今回、奄美で訪れた2つの土地をつないでくれた。知らない知り合いを訪ねていくような、不思議な出会い。これぞ旅の醍醐味なんだよなぁ、私にとっては。

・最初に訪れたカフェ「ネサリさん」
店名 NESARI COFFEE STAND(ネサリコーヒースタンド)
住所 鹿児島県大島郡龍郷町赤尾木1945 大島紬村 駐車場前
URL  https://www.instagram.com/nesari_coffee_stand/

・次に訪れたカフェ「257コーヒー」
店名 257(ニコナ)コーヒー
住所 奄美市名瀬石橋町5-34
URL  https://coffee257.amamin.jp/

【参照リンク】NESARI CHOCOLATE
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mia

旅するように暮らす自然派ライター|バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、オーストラリアに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストになっていました。ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。経験をもとに、旅をちょっぴりエコにするヒントをお届けします。