次に台湾に行くなら、ノスタルジックシティー「台南」をめざして

※本記事では、中盤で台南の環境音を聞くことができます

日本人にとってはもはや定番ともいえる旅行先、台湾。日本とは地理的にも近く、経済的・文化的結びつきも強い。そして、首都・台北には台北101や国立故宮博物院といった観光スポットも多く、コロナ禍以前は週末の弾丸旅行で台北観光を楽しむ日本人も多かった。

台北はとにかく便利だ。複数のMRT(地下鉄)路線が敷かれ、タクシーも多いので、移動で困ることもない。レストランやマッサージ店も多く、小籠包だって好きなだけ食べられる。日本では「台北の原宿」として知られる西門や、温泉で有名な北投など、各エリアに個性があるのも楽しい。

しかし、「台湾で一番好きな街は?」と聞かれたら台湾に幾度となく通ってきた僕は迷わず「台南」と答える。

台南は台湾西南部の都市で、歴史情緒漂う「台湾の古都」とされている。首都・台北から新幹線で約1時間40分と、さほど遠くもない。というより、そもそも台湾はその広さが九州と同程度の島だ。しかし、いざ台南市に降り立つと、台北では感じられない独自の雰囲気があることに気づく。

それは例えば、高層ビルの少なさや、歴史的建造物や寺院の多さ、といった街並みの違いに加え、天気も影響しているように思う。台南はとにかく晴れていることが多い。これは台北と台南の違いを語る際、多くの台湾人が真っ先に口にすることでもある。また、グルメの街としても知られており、坦仔麺や牛肉湯といった「台南美食(タイナンメイスー)」を求めて同市を訪れる観光客も多い。

confuciustemple

清朝末期までは台湾の最高学府とされていた台南の孔子廟

tainanfood

担仔麺

僕が台南を初めて訪れたのは2016年。その古都らしいノスタルジックな風景に、嬉しいような懐かしいような、言いようのない感情が湧き起こった。縁もゆかりもない土地なのに、何かつながりを感じるような、不思議な感覚だった。以降、僕は同地を頻繁に訪れるようになる。

コロナ禍でしばらく足が遠のいていたが、台湾では2022年3月からビジネス客の受け入れを再開(※1)。僕は出張で久々に台湾を訪れることとなり、もちろん台南にも足を運んだ。本記事は、そんな同地での一日の記録。

今回宿泊したのは「富華大飯店」。台南のランドマークの一つ、林百貨店の正面に位置し、台南駅からは徒歩約20分。台南には地下鉄がないことを考慮すると、アクセスは比較的良い。林百貨店は日本統治時代の1932年に創業、戦後は廃墟と化したものの、2013年にリニューアルオープン。当時の姿が再現されており、ついついお土産に買って帰りたくなるようなおしゃれな品物が多い。

林百貨店

富華大飯店を選んだ理由の1つが自転車貸出サービス。観光客にとって、台南での移動手段は課題だ。地下鉄は無いし、地元のバスもハードルが高い。基本は徒歩となるので、自転車が使えると行動の幅はかなり広がる。借りられるのは「いわゆるママチャリ」なのだが、乗り心地は悪くない。カゴは買い物に便利だし、鍵もついているので安心だ。

ホテルで朝食を取ることも可能だが、せっかく台南にいるので、できる限り色々な食べ物を試したい。ということで、この日は「東菜市」へと向かった。青年路に位置する歴史ある市場で、野菜やフルーツ、肉、海産物、お菓子、惣菜など食べ物はもちろん、服や生活用品まで、ありとあらゆるものが販売されている。

東菜市の入り口。「日本様品シアワセ」の看板が気になる

東菜市の中の様子

まずは惣菜のアソートを購入。餅米の腸詰めや、ピータン入りのかまぼこ(的な何か)など、見慣れない食べ物が多く、カタコトの中国語で「全部、興味ある」と伝えると、店主らしき女性が「それなら」と全種類、一口大サイズに切ってパックに詰めてくれた。

東菜市の惣菜屋

買った惣菜のアソート。わさびと甘口の醤油ダレが付いてきた

その次は茹でとうもろこしを購入。台湾のとうもろこしはモチっとした食感のものがあり、最初食べた時は驚いたのだが、これが意外とクセになる。

モチっとしたとうもろこし

朝食を購入し、市場の入り口に戻ると、以前に訪れたことがあるゼリー系スイーツの屋台があることに気づいた。ところで、「ゼリー系スイーツ」という呼び方は大雑把すぎると感じる方もいるかもしないが、僕は未だにこの食べ物の名前が分からないのだ。本来であればその正式名や材料まで把握すべきなのかもしれないが、台湾では食欲が勝るので、何なのかよく分からないまま「うまい、うまい」と食べていることが多い。

メインとなるのは愛玉や仙草、杏仁豆腐など、プルッとしたゼリー系のもの。加えて、甘く煮込んだ小豆・緑豆や白玉だんご(的な何か)も並べられ、客はその中から3つか4つ食べたいものを選ぶ。そこに氷とシロップをかけるので、たとえ南部の酷暑にやられて、食欲不振に陥っていたとしてもツルっと食べられるのがいい。

調べたところ「八寶冰(バーバオピン)」という名前だと判明したスイーツ

朝食を済ませた後は、開山路のカフェ、錫鼓(Tin Drum)でしばし仕事に集中。ここは僕の友人のウンビンとジンジンが経営するカフェで、日本家屋を思わせるレトロな雰囲気が魅力。ウンビンは台南で数々のリノベーションを手がけてきたやり手の経営者で、できる限り古い素材を使うことにこだわっている。ランプからちょっとしたオブジェまで、その多くがアンティークで、インスタ映えスポットとしても人気を集める。僕はいつものカウンター席に座り、静岡抹茶檸檬をオーダー。お茶の渋みとレモンの酸味で、気分がシャキっとするのがいい。

錫鼓(Tin Drum)のカウンター席にて

錫鼓(Tin Drum)の中庭。少し侘び寂びを感じる

数時間の作業の後、ウンビンとジンジンから「ランチに行こう」と誘われ、錫鼓(Tin Drum)にて合流。彼らおすすめのレストラン、「葉明致面舗」へと向かう。入り口は簡素だが、中に入るとその広さや洗練された内装に驚く。面白いのは、これがカフェやバーではなく、台湾の伝統的な麺料理を出す店だということだ。僕は定番の麻醬麵をオーダー。麺を汁なしで、濃厚なゴマだれと混ぜ合わせながら食べる。

ウンビンたちは滷味(ルーウェイ)を取りに行く。これは台湾式の煮込み料理で、通常、カウンターから好みの具材を選ぶと、店員が味を整え、細かく刻んで、お皿に盛り付けてくれる。数人で来ると、具材のバリエーションを増やせるのがいい。ここのはさっぱりとした上品な味わいだ。

葉明致面舗

カウンターで滷味(ルーウェイ)の具材を選ぶ

麻醬麵

昼食を終え、僕はホテルに戻り、「安平(アンピン)」に向かうことにした。台南市の中でも海に近い地区の1つで、オランダ時代を象徴する安平古堡(ゼーランディア城)や、台湾で最古の商店街とされている安平老街など、台湾の歴史を理解する上で重要なランドマークが点在する。中心街から自転車で20~30分ほどと、エクササイズにはちょうどいい距離だし、民生路を超えてからは、運河沿いの安平路をひたすら直進するだけ。景色もよく、サイクリングコースとして気持ちいい。

街の音を聞く

安平での過ごし方はいつも行き当たりばったりだ。普段はせっかちで、先のことばかり考えがちな僕だが、安平では「何もしない」がしたい。その日はまず、「安平老街」を訪れることにした。よく知られているのは、飲食店やギフトショップがひしめく商店街なのだが、僕が最も好きなのはその北側に広がる住宅街だ。台湾の伝統的な家屋が立ち並び、迷路のような小道を当て所なく歩き回るのが楽しい。倒壊し、廃墟と化しているような家も多いのだが、それすらもどこか遺跡のようで、風情が漂っていていい。聞こえるのは、鳥のさえずりや住民の話し声程度で、穏やかな時間が流れている。

anping1

安平老街の北側に位置する住宅街

anping2

台湾の伝統的家屋

そこでふと、小さなカフェを見つけた。客たちは店先で談笑していて、何やら楽しげだ。「草香源葉」という店で、ハーブティーを専門としているようだ。「ここならではの特別なメニューはあるか」と尋ねると、桂花清冰をすすめられた。桂花(キンモクセイ)のシロップとレモンをかけただけのかき氷で、実に素朴な一品なのだが、まず香りがよく、シロップも黒糖のような自然な甘みで美味しい。

anping-cafe1

草香源葉

anpingcafe2

桂花清冰

かき氷が多すぎて食べきれず、店主に謝りつつ、カフェを後にする。次は安平の海を見に「橋頭海灘公園」へと向かう。

海の音を聞く

安平まできて、海を見ないわけにはいかない。太陽の光が海面に反射し、光の道のように見えるのが美しく、夕陽を見にくる人たちも多い。時間は午後4時ほど。10月下旬ともなれば、南部といえども冬めいてきていて、潮風も涼しい。コンクリートのベンチに腰掛け、ただ何もせず、ぼうっと過ごす。コロナ禍による日台間の水際対策もようやく緩和され、こうやって安平の海を眺めるのはほぼ3年ぶりだ。なんとも心に沁み入るものがある。

anpingocean

橋頭海灘公園

anping2019

2019年に撮影した安平の夕陽。防波堤から眺める日の入りが特に美しい

海に満足した僕は、市の中心部へと引き返す。ウンビン・ジンジンたちと再び合流し、夕飯を食べる約束をしているのだ。彼らが指定した店は、金華路三段に位置する「炒螺肉」という名の熱炒(ルーチャオ)のレストラン。「熱炒」とは揚げ物や炒め物、スープなど、さまざまな料理を、ビールなどのアルコール類とともに楽しめる、台湾式の居酒屋のような場所だ。さまざまな台湾料理を一度に試せるので、僕のような外国人にも嬉しい。

この日は4人で食事。イカの唐揚げや、チャーハン、焼き魚やモツ炒めなど、テーブルには熱炒ならではの品々が並ぶ。一見すると、日本人にも馴染みのある料理が多いが、その味は紛れもなく「台湾」なのだ。それは調味料や食材によるところが大きい。例えば、モツ炒めにしても、台湾では生姜をふんだんに加え、味付けも甘酸っぱいので、日本のもつ煮込みやスタミナ焼きに慣れている僕からするとかなり新鮮だった。その一方で、タウナギの炒め物や、油で焼き上げた魚のモツなど、かなり独特な料理もある。ビールが欲しくなるところだが、僕は自転車に乗っているし、他の3人もスクーターで来ているので、アルコールは一切なし。もっぱら食事を堪能する。

炒螺肉で頼んだ料理

tainandinner2

タウナギの炒め物。見た目はウナギのようだが、脂身の少ない、プリッとした食感で、一度ハマると病みつきに

tainandinner3

油でカリッと焼き上げた魚のモツ。レモンをかけて、刻み生姜とともにいただく。一見、とっつきにくいが、苦味や臭みはそれほどなく、想像以上に食べやすい

夕飯を終え、ジンジンが「近くでデザート食べよう」と言うので、炒螺肉から金華路三段を挟んでほぼ向かい側の「石家正阿美緑豆湯」へと向かう。緑豆湯(リュードウタン)とは、台湾では定番の、緑豆を使用したぜんざいのようなスイーツ。タロ芋やサツマイモなどの芋類から作られるモチっとした食感の団子、芋圓(ユーユェン)がたっぷり入っていて、とにかくボリューミーだ。特に熱炒でしっかり食べた後だと、「デザートは別腹」がただのレトリックであることを強く思い知らされる。学生やカップルなど、客がひっきりなしに来ていて、人気店であることがうかがえた。

tainandessert1

石家正阿美緑豆湯

tainandessert2

緑豆湯

緑豆湯をなんとか完食し、僕はお腹を休めるためホテルに一度戻ることにした。ウンビンとジンジンは経営するバー、「LOLA(蘿拉冷飲店)」にそのまま出勤するようだ。ここは僕が大好きなバーの1つでもある。台湾ではコロナ禍の影響で国内観光が盛んになり、最近は市外から毎週末、観光客がやってくるのだという。また、台南でナイトライフを楽しむ人も多いようで、LOLAの売り上げは減るどころか、伸びている。

lola

LOLA(蘿拉冷飲店)

「飲食業は楽じゃない」と2人はその多忙ぶりを嘆いていたが、僕は「商売繁盛ならいいじゃないか」などとつい呑気なことを言ってしまった。というのも、僕の大好きな場所が消えてしまうのは悲しいので、彼らにはなんとか頑張って欲しいのだ。

僕が出来ることといえば、その魅力を発信するか、極力彼らのお店を利用するかしかないので、今夜もLOLAで飲もうかと思う。

台北もいいけれど、よりディープな台湾を味わいに次の台湾旅では滞在日数を伸ばして、「台南」まで足を伸ばしてみてはどうだろう。一度訪れれば、その古都らしいゆったりとしたバイブスにきっと魅了されるはず。

・今回泊まった宿
店名 富華大飯店
住所 700 台南市中西區忠義路二段28號
URL http://www.fuward-hotel.com.tw/tainan/jp/

・歴史ある市場
店名 東菜市
住所 臺南市中西區青年路164巷26號
URL http://tnma.tainan.gov.tw/Market.aspx?Cond=22d7d6a2-9fe4-4fa9-88c5-468a216d73c5

・ウンビンとジンジンの経営するカフェ
店名 錫鼓(Tin Drum)
住所 700 台南市中西區開山路35巷39弄5號
HP https://www.facebook.com/%E9%8C%AB%E9%BC%93Tin-Drum-337562839689320/

・ランチのお店
店名 葉明致面舗
住所 700 台南市中西區青年路226巷4號
HP https://www.facebook.com/yehnoodles/

・海のそばのかき氷を食べた店
店名 草香源葉
住所 708 台南市安平區中興街47號
HP https://www.facebook.com/herbsflavor

・夕飯を食べた熱炒
店名 炒螺肉
住所 700 台南市中西區金華路三段66號

・デザートの店
店名 石家正阿美緑豆湯
住所 700 台南市中西區金華路三段33號

・ウンビンとジンジンの経営するバー
店名 LOLA(蘿拉冷飲店)
住所 700 台南市中西區信義街110號
HP https://www.facebook.com/profile.php?id=100052578747099

(※1)2022年10月13日より、観光目的で日本から台湾に行く場合、ビザ及び隔離無しでの入国が可能になりました。ただし、入国時に空港で無料配布される自己検査キットにて2日に1回検査が必要など条件があるので、(2022年12月26日確認時点)詳細はオフィシャル情報をよくご確認ください。

【関連記事】台湾ワーケーション体験者がすすめる、仕事も読書もできる台北のカフェ4選

The following two tabs change content below.

関俊行

編集や執筆、音楽制作など幅広く活動中。タワレコ運営メディアMikikiで『台湾洋行』を連載。近年はwebや雑誌、ラジオなどさまざまなメディアで、台湾を中心にアジアの音楽・カルチャーを発信している。