貧困状態の人ほどコンビニで食事を済ませる、かつてそんな話がインターネットをにぎわせた。コンビニは便利だが、ほとんどの商品が定価販売だ。弁当類も決して低価格とはいえず、自炊をしたほうが安くすむはずだが、貧困に苦しむ人は疲弊していてスーパーに行ったり料理をする余力がない。だから自宅に近いコンビニで、割高な食料を買い続けるのだという。
「負のループ」から抜け出すには、立ち止まる時間が必要
置かれた状況に身動きが取れなくなるケースは、ほかにもある。DVの被害に遭っていたり「ワンオペ育児」で自分の時間がまったくないといった、家族間の問題にまつわるものだ。こういった事例では心身ともに追い詰められてしまい、正常な判断ができなくなるため暮らしがさらに悪化しかねない。
たった一日でも立ち止まる時間があったり、誰かと話せたら負のループを抜け出すきっかけになるかもしれない。そんな場所になれればと立ち上がったのが、長野県上田市のNPO法人場作りネットが運営する「やどかりハウス」だ。
困っていても、いなくても。誰もが500円で泊まれるやどかりハウス
やどかりハウスは、困りごとを抱えた人へゲストハウス「犀の角(さいのつの)」の宿泊を500円で提供する取り組みだ。年齢・性別は問わずに利用できて、実は困っていなくてもかまわない。息抜きをしたい、雨風をしのぎたい人は誰でも受け入れている。利用はやどかりハウス公式LINEの予約フォームで受け付けており、担当者からの連絡後に施設を訪問する流れだ。
画像引用:やどかりハウス 公式note
基本的には素泊まりだが、寄付された食材などを使って自炊も可能。シャンプー・コンディショナー・ボディソープは無料で使える。バスタオルや歯ブラシといったアメニティグッズは別料金のため、あらかじめ持参するとよいだろう。
やどかりハウスにはソーシャルワーカーや相談員がおり、生活相談に対応しているので、困りごとも聞いてもらえる。ほかのゲストと話してもいいし、ただ部屋にいるだけだっていい。過ごし方は、まったくの自由なのだ。
いざというとき逃げられる場所があれば、それだけで気が楽になる
画像引用:やどかりハウス 公式note
やどかりハウスへの宿泊は、2021年2月以来1700泊を超えた。約470名の利用者のうち、何らかの支援につながった人は約200名におよぶ。もともと女性専用でスタートした経緯もあり、多くを占めるのが家庭の問題を抱えた女性や母子だ。そのほかにも孤独・経済状況など宿泊の理由は多岐に渡る。中には、やどかりハウスのパンフレットをお守りのように2年間持ち続け、限界を感じて訪れた人もいるのだとか。
そんな困難な状況下の人々に、はたして束の間の休息が助けになるのだろうか。ところが、利用者から共通して聞かれるのは「逃げられる場所があると思うだけで気が楽になる」との声だ。滞在が心身の回復につながるのはもちろん、やどかりハウスの存在そのものが不安を少なくしている。今すぐに何かはできなくても、安定した生活を目指すための気力・体力を残しておけるのだ。
助成金の終了により、存続に向けたクラウドファンディングを開始
画像引用:やどかりハウス クラウドファンディング|Syncable
たくさんの人に寄り添ってきたやどかりハウスだが、助成金の終了により困難な状況に直面している。やどかりハウスへの支援として、施設のホームページより300円以上で寄付が可能だ。食料・日用品といった物品を届けたり、直接参加して活動をサポートしたりする方法もある。
2024年7月からは、クラウドファンディングも開始した。3,000円~100,000円までの7コースが用意されており、たとえば3,000円のコースなら1名がやどかりハウスに宿泊できる。「家出チケット」と銘打った宿泊プランや理事の対話型講演など、リターンもさまざまだ。(2024年8月22日まで)
誰もが人間らしく生きていくための「助かり合い」社会へ
画像引用:やどかりハウス 公式note
生きていくうえでの困難は、いつ誰の身に降りかかるかわからない。今助けたその人が、自分やほかの誰かを救う日だって来るかもしれないのだ。やどかりハウスでも「助けよう」でスタッフの責任が過剰なものとなり、活動が行き詰まった経験から、現在は「助かり合い」を目指しているという。
すべての人には、人間らしく生きる権利がある。困ったら堂々と助けてほしいと言っていいし、逃げ場のある社会のほうがずっと暮らしやすい。そんな心のやどかりハウスを支えに、誰もが前に進んでいけたらと願ってやまない。
【参照サイト】やどかりハウスとは~街に生まれた雨風しのぐ宿~|公式note
【参照サイト】やどかりハウス クラウドファンディング|Syncable
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Hiroko ASATO
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