震災復興の今を学ぶ福島発ダークツーリズム「ホープツーリズム」の可能性

戦争や災害、社会差別など人類の悲しく重い歴史と対峙する「ダークツーリズム」と呼ばれる観光のあり方が世界で注目されている。

2011年の東日本大震災で、地震・津波・原子力災害という世界でも類を見ない複合災害を経験した福島県では、ダークツーリズムから「ホープツーリズム」へと呼び名を変えて震災の教訓や復興への歩みを伝承する観光振興に力を入れている。

本記事では、福島の光と影をありのままに伝えるホープツーリズムの概要とその可能性についてご紹介する。

「ホープツーリズム」とは

ホープツーリズムは、地震・津波・原子力災害という複合災害を経験した福島のありのままの姿を体験するフィールドワークと、さまざまな分野で復興に挑戦する人々との対話を通じた、福島ならではの新たな学びの旅のプログラム。震災や原発事故というテーマを福島固有のものとせず、自分事としてどう行動変容に活かせるか探求・創造できるのが特徴だ。

福島県および公益財団法人福島県観光物産交流協会が2016年度から推進しており、これまでに国内外の学校向けの教育旅行や企業団体の視察などを受け入れている。

ホープツーリズムの参加者は年々増加。2022年度にホープツーリズムで福島県内を訪れた旅行者は17,806人と前年度の約1.8倍になった。(※1)2023年5月には現地の窓口を担うサポートセンターが富岡町に新設され、今後更なる観光客の増加が期待されている。

ダークツーリズムとホープツーリズム

原爆ドーム

広島/原爆ドーム

ダークツーリズムは、世界各地に点在する戦争や災害、迫害、社会差別など、近代発展に伴う悲しい出来事をテーマにした旅の包括的概念として1990年代に英国で提唱された。

環境破壊や労働問題等の社会問題や犯罪・病気に関連した場所、津波や地震をはじめとする自然災害による影響を受けた地域など、近代社会における人類のネガティブな記憶に関する場所はダークツーリズムの対象として考えられており、その内容は多岐にわたる。

2011年に発生した東日本大震災後、思想家の東浩紀氏が「福島第一原発観光地化計画」を打ち出したことで日本でもダークツーリズムへの認知度が拡大。2013年にはダークツーリズムが新語・流行語大賞にもノミネートされた。

世界的なダークツーリズムのスポットとしては、ポーランドにある「アウシュビッツ強制収容所」や2001年の米同時テロを象徴する「グラウンド・ゼロ」、日本では広島の「原爆ドーム」などが有名だ。

原爆ドームと同じ敷地内にある広島平和記念資料館には、2022年には112万人を超える観光客が訪れており、その地域にしかない価値に影の部分からアプローチするダークツーリズムの可能性は、新たな旅の手法として世界で注目されている。

見て、聞いて、考える。ホープツーリズムで得られる学び

福島ホープツーリズム

引用元:福島県ホープツーリズム

ホープツーリズムでは、福島の今を「見る」、福島の想いを「聞く」、福島の問題を他人事から自分事へ「考える」という3つをポイントに、施設視察や見学に加えて、地域住民との対話や交流、ワークショップなども組み込んださまざまなコンテンツを提供している。

フィールドワークや施設見学では、避難指示が継続する地域や復興に向けて歩みだしている地域など、ありのままの福島の光と影の光景を体感できる。

福島第一原発の北側に位置する浪江町請戸地区・JR浪江駅周辺にある、15mを超える津波に襲われ半壊となった福島県内唯一の震災遺構「請戸小学校」。請戸小学校は全員が無事避難できた奇跡の学校で、震災当時の姿を残す校舎の2階が展示スペースとなっている。

双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、災害直後からの経過や復興の歩みの全体像を、多くの資料や映像から学べるホープツーリズムの中心となるスポット。伝承館の名の通り、浜通りのさまざまな地域で被災を体験した語り部による講話を1日4回開催している。

ホープツーリズムでの宿泊拠点のひとつ「Jヴィレッジ」は、1997年に日本初のサッカーナショナルトレーニングセンターとして開設した施設。原発事故後は作業員らの拠点となっていたが、現在はその役目を終え営業を再開している。レストランや宿泊者限定で利用可能な人工芝フィールドもあり、友人や家族での利用もおすすめ。防災やリスク管理に関する課題解決型ワークショップも企業向けに提供している。

福島の復興・発展に向けたホープツーリズムの可能性
福島

ホープツーリズムは、悲劇の記憶を受け継ぎ、観光により地域への経済効果をもたらす可能性を秘めた旅の新たな提案だ。台風や地震をはじめとした自然災害が頻発する日本においては、防災意識を高め未来へ備える点でもホープツーリズムのはたす役割は大きいだろう。

帰宅困難区域の一部の避難指示が解除され、復興への歩みを進める福島県浜通り地域では、復興サイクリングロードを整備し、サイクルツーリズムを推進する動きも拡大している。2023年9月には、自転車ロードレース「ツール・ド・ふくしま2023」が開催され、国内最長となる211kmのコースをはじめ、浜通りの復興の進む地域から山間部まで多彩なルートを自転車が駆け抜ける予定となっている。

震災時の状況がどうだったのかを改めて学び、復興にむけた活動に取り組む方々の応援も兼ねて、今の浜通りを訪ねてみてはいかがだろうか。

(※1)福島県/県議会定例会

福島県ホープツーリズム
https://www.hopetourism.jp/

【参照ページ】福島第一原発観光地化計画
【参照ページ】東日本大震災・原子力災害伝承館
【参照ページ】Jヴィレッジ ホテル
【参照ページ】ツール・ド・ふくしま2023

【関連記事】災害と共生する未来都市を考える「リジェネラティブ・アーバニズム」 米国ロサンゼルスにて日米共同の展示会開催
【関連記事】「地域の入り口」は人それぞれ。鹿嶋市コミュニティスペース「みちくさ」 松崎侑奈さんが地域のつくり手になるまで
【関連記事】“あるもので美味しく” イタリアの郷土料理から学ぶ 、足るを知る幸せな生き方

The following two tabs change content below.

石崎リカ

福島県生まれ。美容と海外ドラマが好きな1児の母です。大学時代から旅に目覚め、これまでに約30か国を訪問。会社員として働きながら、旅行メディアで記事を執筆。ファミリーワーケーションや快適な子連れ旅を実践するヒントをお届けします。