旅と旅行。両者を自分のなかですみ分けている人は、どのくらいいるのだろう。
筆者自身は、この2つには全く異なる意味を与えていて、どちらも幾度となく経験したことがある。そんな私がそれぞれを一言で表すとすると、「旅行」は日程を予定で埋めて楽しみ、「旅」は余白を楽しむもの。
これはあくまで4年に渡り世界をひとりで放浪した私の個人的なすみ分けだと前置きをして、今回はこれから旅行や旅に出る人に、その二つの価値観の違いをシェアしたい。
旅行はあらかじめ決まっているもの
「旅行」というのは私にとって準備された娯楽。あらかじめ行先を決め、往復のチケットを取る。宿泊先を決め、その宿の料理を見てはワクワクする。その宿泊先から行ける場所にある名所をリサーチし、いくつかまわれたらいいなと思う。
往々にして旅行は、数泊から一週間以内のものを指す。そのため滞在するのはビジネスホテル以上、ご褒美旅行ならリゾートホテルに泊まることもある。そして旅行の目的は、たいていリフレッシュ、息抜き、癒しなど日常からの脱出になる。
旅は不確定な日常
「旅」それは私にとってなにも決まってない日々に身を放り出すようなもの。最初の目的地以外の行先はほぼ決まっていないし、チケットは片道。インターネットがここまで普及する前までの私の旅では、宿泊先は初日が夜着、もしくは到着日がその地域のイベントなどと重なっていない限り、前もっては取らなかった。(でもきっと今なら、ネットでだいたいのリサーチをしておくだろう。なぜなら宿は、旅の良し悪しを左右する大きな要素だから)
食事は現地の人におすすめを聞くか、道を歩きながらいい匂いのする方へ向かうだけ。観光名所も、よっぽど抑えたい場所以外は、成り行き任せだ。滞在期間は、だいたいその場所に飽きるまで、もしくはその国の観光ビザが切れるまで…。そして旅行なら誰かと一緒に行くことが多いけれど、旅は往々にしてひとりだ。だいたいそんななにもかも未定の「なにか」に、巻き込める人はそういないもの。
そんな日々も、続けるほど「習慣(ルーティン)」ができていく。日常の習慣だけでなく、新しい土地に着いてから、なにをするかどこへ行くかといった、私なりの旅の始め方の習慣というものもできてくる。そういった骨格の部分をある程度持ちつつ、そのときに起きるできごとやハプニングで彩られていく。そしてそうしたハプニングもまるっと想定内であると考えられる懐の深さが、旅を日常にするには必要かもしれない。
旅を愛していた理由
ブラジルのサンパウロで出くわしたカーニバルで地元の人と一緒にサンバを踊ったかと思えば、翌日にはアルゼンチンのサルタで看板さえ出ていない駐車場にある店で熱々のエンパナーダを頬張る。
南米流ギョウザとも表現できるエンパナーダの店は、はっきり言ってガレージに窓口が出ているだけで店とも呼べない代物で、その前を通るまでその存在を知らなかった。けれど、ガイドブックにも掲載されていないであろうその店の、できたてでフレッシュなエンパナーダが、半年に及ぶ南米体験のなかで一番印象に残っている。
注文をする窓口
丁寧に作られた絶品エンパナーダ
私が旅を愛していたのは、その不確定さゆえでもある。変化と可能性に満ちた日々を、心から愛していたのだと思う。
不確定な日々を生きることで、毎日がまっさらな一日だ、と肌で感じられるのが旅。旅を続けるほどにそれは日常でも同じことなのだと気づく。毎日同じように見える暮らしのなかでも、本当はまったく同じ日は二度となく、日々変化し続けていて、可能性に満ちあふれている。場所がどこかも関係ない、どこにいても私たちは可能性を含んだかけがえのない日々を生きているのだ。
旅を楽しむ秘訣
旅というのは、きわめてパーソナル(個人的)なものだから、楽しみ方もそれぞれ。でも、あえて秘訣というなら余白を残しておくこと、そして可能性に心を開いておくことだと思う。
予定でびっしりと埋めすぎずに、余白を残しておくことで、思いもよらない場所へ導かれたことが幾度となくあった。日々が「思いがけないこと」で埋まっていく、その奇跡に感動する。
ここでは私の体験談をベースとしているけれど、その人がそう思うなら「思い立ってでかけた一泊二日」だって立派に旅なのだ。国内でも海外でも関係ない。
可能性に開けていて、そのハプニングを楽しめる余白があるのなら…。
暖かくなる今、心も軽やかになり旅に出たい欲がうずうずし出す人もいるかもしれない。さぁ、あてのない旅に出よう!
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mia
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