最近「ワーケーション」という言葉をよく耳にするようになった一方、実際にワーケーションを取り入れている企業や個人の方はまだほんの一握り。
仕事とプライベートの両立に日々追われている子育て世代にとっては、ワーケーションを始めとした自由なワークスタイルは、まるで夢物語のように感じることも多いのではないだろうか。
そんな中で、子どもと一緒にするワーケーション「親子ワーケーション」を全国に広める為に、現役の新聞記者でありながら3人の子どもを育てている自らが実践者となり、親子ワーケーションの場をつくる事業を主催している方がいる。毎日新聞記者、株式会社毎日みらい創造ラボの今村茜さんだ。
本記事では、今村さんに親子ワーケーションに関する事業をスタートしたきっかけと、子育て世代が子どもと一緒に楽しめるワーケーションを実現する上で大切なことについて伺った。
毎日みらい創造ラボ/毎日新聞記者。子連れワーケーション推進中。ライフステージにあわせて誰でもどこでも自由に働ける道を探るNextStyleLab主宰。ワーケーション/リモートワーク、複業/起業、地方移住/2拠点居住などをテーマに「#働くを考える」イベントを毎月開催しています。2017年からワーケーションを取材&子連れで実践。親も子も成長する親子ワーケーションの受け皿を全国各地につくるべく、情報交換公開グループ「親子ワーケーション部」を運営しています。3児の母。
目次
- 親子ワーケーション事業の立ち上げ
- 親子ワーケーションとは?
- 親子ワーケーションを始めた理由
- 「親子ワーケーション部」の活動について
- 子どもの関係人口をつくる
- 親子ワーケーション実施者の属性<
- 親子ワーケーションをする上で大切な5つのこと
- 親子ワーケーションを通した家族の変化
- これからの展望
親子ワーケーション事業の立ち上げ
──親子ワーケーションを事業にしたきっかけについて教えてください。
私は鹿児島出身で、小6、小4、2歳の3人の子どもがいます。2006年に毎日新聞社に入社して、子どもを産んだ後も経済部の記者をしていました。そして2017年にJALのワーケーション導入についての記事を書いた時に、「私もやりたい!」と思ったんです。
夫は同じ会社の記者ですが、激務でワーケーションは出来ない。当時すでに娘が2人いて私がワーケーションをする場合、自分1人で子どもを連れて行くことになるので、旅先で仕事中に子どもをみてくれる人が必要になる。なのでそういったサポートのある親子で行きやすいワーケーションを探していました。
探し始めて、2018年には和歌山県の親子ワーケーション体験に参加。その翌年の春休みには、北海道知床の斜里町でも1週間超の親子ワーケーションをしてきました。
その後も春休み・夏休みに親子ワーケーションができる取り組みを探しましたが、全国的にそういうものが少ない。「ないならつくろう」ということで、ちょうど毎日新聞社内で新規事業立ち上げの機運があったので社内コンペに応募して、親子ワーケーション事業を2019年の秋にスタートしました。
その最中の2020年4月に3人目を出産し、産休に入ってる間にコロナ禍になり、ワーケーションがバズワードに。あわてて復帰して2020年の秋冬から親子ワーケーション事業を本格展開をしています。
親子ワーケーションとは?
──親子ワーケーションとは、どういったものなのでしょうか?
まず「ワーケーション」とは、「ワーク」と「バケーション」、つまり仕事と休暇をミックスした働き方とよく言われます。もちろんそれで正しいんですが、単なる働き方というよりは、仕事とそれ以外が融合する、場所に縛られないライフスタイルだと思います。
ワーケーションにはいろんなタイプがあるんですけど、私は企業都合で従業員を派遣するものなのか、個人が自分の意志で働きたい場所を選ぶものなのかで分けています。私が企画するものは図の下部の自己負担型が多いです。
現在では地方自治体、官公庁や民間も様々なワーケーションに関する取り組みをしていますが、実際にワーケーションをしている人は少ない。ただコロナ禍以降は働き方自体が変わってきていて、パソコン1台でどこでも働けるし、地域副業もしたいという方が増えています。そのような方の中にも子育て世代は多いのですが、ほとんどの方がワーケーションを諦めている。それを解決するのが親子ワーケーションです。
親子ワーケーションを始めた理由
──今村さん自身が親子ワーケーションをすることになった理由は?
私が親子ワーケーションをすることになった1番の理由は、小学生の娘の長い夏休み。保育園は周りが共働きばかりなので気にならないんですが、小学校だと約半分は専業主婦の家庭。夏休みで色々な経験をしているお子さんもいるのに、うちは共働きで長い休みが取れず、毎日都会のコンクリートジャングルの中、学童に行く。
当時は記者職だったので、在宅勤務やカフェでリモートワークをして、子どもは旅先の地域の方にみてもらえないだろうかと考えました。たとえば北海道や沖縄でその地域でしかできない体験をして、その地域の方々と仲良くなり、ひと夏の経験をしてそこで成長する。つまり「子どものために行くワーケーション」ができないだろうかと思い、親子ワーケーションを始めました。
親子ワーケーション部の活動
──親子ワーケーション部の具体的な活動は?
私が2021年1月に「どうしたら子育て世代が親子ワーケーションをできるのか」というテーマのイベントを開催した時に、そういった情報交換の場や仲間を見つける場がないという意見が多かったんです。そうした意見を踏まえてつくったのが、Facebookグループ「親子ワーケーション部」です。今では参加者1000人近くになっています。
親子ワーケーション部では、情報交換をしたり、オンラインイベント開催も手掛けています。そこには個人だけでなく、サービス提供側や地方自治体も入っていて、定期的に親子ワーケーションの告知をしたり、実践したい方がワーケーション先を探す投稿をしています。イベント参加者の中には「こんな働き方があったなんて」って驚く方や、今まで諦めていたけど、ワーケーションをする親子に対する受け入れ地域側のサポートがあるならできるかも、という方も増えています。
子どもの関係人口をつくる
──親子ワーケーションのメリットは?
私の場合は旅先で普段と同じ仕事をしているんですが、していることは同じでも場所がいつもと違うと、新たな出会いが生まれたり仕事のチャンスが広がったり、自分の無意識の偏見や、東京で生活しているだけでは気づかなかったことに気づいたりします。
例えば北海道に行った時には、知床の鮭漁師さんと仲良くなり、旬の季節の時にはイクラが送られてきたりだとか、年賀状のやり取りが始まりました。血の繋がりのない親戚のような関係が、東京から1,000km離れた知床にできる。それは自分にとっても子供にとっても視野が広くなる経験です。
──働く人の環境の幅を広げるのがワーケーションだと思ってましたが、親子ワーケーションはお子さんや家族のためのものでもあるんですね。
私がつくるプログラムでは、大人が仕事をしている間に子どもは地域の方々と触れ合って、そこでしかできない体験をします。その結果、参加者のお母さん同士でお互いにお子さんのケアをしたり、受け入れ側と参加側のお子さん同士が仲良くなったり、大きいお子さんが小さなお子さんの面倒をみたりと、そんな「拡張家族効果」も生まれやすいんです。
──昔の日本の長屋のお付き合いみたいですね。
また受け入れ側の地域としては、関係人口創出の観点でこの事業をされることが多いんですが、子どもの関係人口の方が大人よりも息が長いし、よりインパクトも強い。
プログラム参加者が定期的にその地域に行くことで、その地域がその子の第2、第3の故郷になる可能性もあります。もしかしたら子どもが成長した時にその地域にiターンするかもしれないし、受け入れ地域側の子どもと将来的に親戚みたいな付き合いができるかもしれない。そういった子どもの関係人口創出という観点でもすごくいい。
親子ワーケーション実施者の属性
──親子ワーケーション参加者の年代や男女比は?
参加者の方は会社員半分、フリーランス半分位で、30〜40代が中心。その6〜7割は女性からの申し込みになってます。子供を預けて、1人でワーケーションには行けないと思っているのはママさん側が多いようです。
──親子ワーケーションには何歳のお子さんから参加できるのでしょうか?
0歳から参加できます。歩かないうちの赤ちゃんは身体に装着する抱っこ紐に入れておけば寝ていることが多いので、意外と参加しやすいように思います。歩き始めた1歳、2歳など未就学児は危険が多い割に言うことを聞かない年齢なので、小学生以降のように学校のスケジュールに縛られない分、手厚いサポートが必要になってきますね。
親子ワーケーションをする上で大切な5つのこと
──まだ踏み出せていない子育て世代の方々に、親子ワーケーションを実現させるためのアドバイスをお願いします。
まず最初はグループでの親子ワーケーションプログラムに参加することから始めるとやりやすいと思います。今年の開催についても「親子ワーケーション部」というFacebookグループ上で告知をしていくので、ご参加いただくと情報が集まってきます。
そして親子ワーケーションをする上で大切なことが5つあります。
1つ目は、ワーケーションの目的を明確にすること。ワーケーション先で仕事をやるつもりでも、子供がママから離れなかったりします。その時に、自分は子どもに色んな経験をさせたくて参加したのか、それとも自分の仕事をしたくて参加したのか、新しい挑戦がしたいのか。そういう理由を自分の中で明確に持てば、もし子どもに仕事のペースを乱されても「まあいっか」となれる。あくまでも子どもが優先であるならば、仕事の量は少し抑え目で持って行くなどの調整をしておいた方が無難です。
2つ目は、子連れ旅に慣れること。特にお子さんが小さいうちは、旅先で仕事をするのはハードルが高いんです。なので親子ワーケーションに挑戦する前に、子連れでの旅行に慣れておくといい。荷物に関しても、自分1人と子どもを連れて行くのとでは雲泥の差があります。
3つ目は、自宅以外のリモートワークにも慣れておくこと。たまにあるのが在宅勤務をしているけど、コワーキングスペースに慣れていなくて集中できないという方もいます。親子ワーケーションの時には、子どもが公園で走り回る横のベンチで仕事したり、電車の中で仕事をしたりする場合もあります。
4つ目は、お子様の協力も必要なこと。ママやパパは旅行じゃなくて、お仕事をする時間のために来ていることを子どもに理解してもらうことが必要です。なのであらかじめ行く前にお子さんにお話しておいた方がベターです。
5つ目はワーケーションプログラムに自律的、能動的に関わること。親子ワーケーションではお金の対価としてサービスを受けるだけはなく、参加者さんも地域側もそれぞれ能動的にサポートし合う関係性をつくりたいと考えています。なので、参加者を公募する時には、能動的に関わってくれる人を優先しますと明記しています。行く地域、関わる人達、それぞれが能動的に関わっていくことで、皆が得るものが多くなると思うんです。
親子ワーケーションを1度やってみたいという方には、この5つをいつもお話します。
親子ワーケーションを通した家族の変化
──親子ワーケーションを通して、ご家族には何か変化がありましたか?
親が仕事をしている姿を自然に見せられたことで、子どもが将来の仕事について具体的なイメージを掴むきっかけになったり、内気だった娘が積極的に他の子に話しかけられるようになりました。そして3人目の子どもが生まれてからは、上の子だけを連れて親子ワーケーションする機会も増えました。その留守中に夫が家事や育児を担ってくれて、私がいない間に夫と子どもの絆が強くなっていたり、夫の家事力、育児力がアップしていたりして嬉しいです。
これからの展望
──今村さんの親子ワーケーションに関するこれからの展開に関して教えてください。
親子ワーケーション事業としては地域副業と絡めながら、参加者が持つスキルを受け入れ地域の地元企業に提供することで参加費負担を和らげるような策を入れて、参加者と受け入れ地域の双方にとってWinWinになるようなプログラムをつくっていきたいです。また今は単発でプログラムを開催していますが、地方自治体さんと連携して年間を通して親子ワーケーションができるプラットフォームをつくりたいと思います。
–
個人的な興味から始まった今村さんの親子ワーケーションに関する活動は、それに共感した子育て世代だけでなく、企業や地方自治体を巻き込んだ1つの流れとなり始めている。この親子ワーケーションという働き方を通して、子育て世代のライフスタイルが豊かになるだけでなく、次世代の関係人口が育まれたり、地域を越えた繋がりが各地で生まれていく。そんな優しい仕組みを全国に広めている彼女の活動には、今後も個人や企業を問わず各方面からの注目が集まりそうだ。
【参照サイト】毎日みらい創造ラボ
【参照サイト】親子ワーケーション部(Facebookグループ)
【参照サイト】日本ワーケーション協会
【参照サイト】地方創生テレワーク事例集
【参照サイト】毎日新聞編集企画「リモートワーク最前線」
いしづか かずと
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