黒川温泉旅館組合設立60周年。サステナブルな温泉地を目指す”黒川温泉 2030年ビジョン”を公開

熊本県阿蘇郡の山間部にある黒川温泉は、30軒の宿が集まった小さな温泉郷だ。黒川温泉の大きな特徴は、30軒の宿と里山の風景含め、すべてを「一つの旅館」と考えている点だ。旅館同士で競い合いながら質を高める一方で、手をとり知恵を出しあい温泉街全体でお客様をもてなす取り組みが行われている。特に、露天風呂を3か所選んで入浴できる「入湯手形」が好評で、年間約90万人が訪れる人気温泉地となっている。

黒川温泉観光旅館協同組合は2021年に設立60周年を迎えた。それに伴い、コロナ終息後における未来のありたい姿を表した「黒川温泉2030年ビジョン」を公開した。

2030年ビジョンは「世界を癒す、日本里山の豊かさが循環する温泉地へ」

里山の風土”人と自然の共生”をもとに旅館がもつ日本文化に根ざした時間と空間で世界中の人々をもてなし、阿蘇くじゅうの豊かな地域資源を活用、循環させることで環境、経済、人々の幸福につながるサステナブルな温泉地を目指す。

ビジョン実現に向けた取り組みは、黒川温泉の景観から、旅館で出る廃棄物、阿蘇の自然や生態系に関するものまで幅広い分野に目を向け実行されている。下記にて数点取り組みを紹介する。

・10周年を迎える「湯あかり」

2012年の冬から始まった「湯あかり」ライトアップ。球体状の「鞠灯篭」約500個と、筒状で高さ2mほどの「筒灯篭」を自然の景観に溶け込むように配置し、日暮れからライトアップする。夜の黒川温泉郷が幻想的な世界に包まれるイベントだ。例年12月~春先頃までの開催となっている。

・黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト

コンポストとは、微生物の働きを活用して生ごみや落ち葉など有機物を発酵・分解させて堆肥化させるものだ。焼却するごみの量が削減され、堆肥として使用される環境にやさしい取り組みだ。

黒川温泉では2020年9月から旅館で出た生ごみを利用した堆肥づくりを実施しており、できた堆肥は地元の農家さんに活用してもらう。そして、採れた美味しい野菜を旅館でお客様に提供するという地域資源の循環を目指している。

・次の百年をつくるあか牛”つぐも”プロジェクト

あか牛を軸とした循環の生態系を百年、千年先まで継いでいくために考えられた “つぐも”プロジェクト。つぐもとは、「継ぐ」と「牛(モー)」を意味する造語である。

阿蘇の広大な草原は1000年以上前から人の手で維持してきた。草原で放牧され育ったあか牛は黒川温泉の旅館でも提供されている。しかし、年々あか牛を育てる農家は減少傾向だ。あか牛の放牧がなくなると広大な草原の減少にも繋がってしまい、周辺の生態系にも影響を及ぼす可能性がある。

本プロジェクトの1つ「黒川温泉 あか牛ファンド」では、黒川温泉の加盟店で対象のあか牛プラン・メニューを食べることにより、1食につき50円が事務局に寄付される。寄附金は、あか牛の購入やPR活動、イベントなどに使用され、将来の南小国産あか牛を育て、草原を守ることに繋がる。

伝統を守りながらサステナブルな取り組みを積極的に行っている黒川温泉。温泉街一帯を1つの旅館として捉え、力を合わせて温泉地を盛り上げる温かさがとても素敵だ。今後も魅力的な取り組みにぜひ注目をしていきたい。

【参照サイト】黒川温泉公式サイト
【参照サイト】黒川温泉 2030年ビジョン