楽しむことで、地域がより良くなっていく「東京マウンテンツアーズ体験記 (後編)」

先日、東京都奥多摩で早朝のカヤック体験ツアーに参加してきた。その様子は記事前編でご覧頂きたいのだが、後編の本記事では、カヤックツアーをはじめ、東京の山間地域を中心にツアーを企画提供している「東京マウンテンツアーズ」の青木祥民(あおきよしみ)さんに伺ったお話をシェアしたい。

東京マウンテンツアーズは、「地域や人と巡りあい、関係を育みあう」「ワクワクするアクティビティを楽しみながら、地域課題を学びあう」そんな体験を地域を愛する人と一緒に企画し、提供している。

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東京マウンテンツアーズHP

カヤックツアーのガイドを担当してくださった後藤めぐみさんも、25年以上奥多摩地域で活動する、地域を愛し自然を愛する方だった。

自らの足で地域を歩き回りながら地域を愛する人々を探し、一人一人に話をしてお願いをしながらツアー企画を行っているのが青木さんなのだ。

青木祥民さん

地域にも環境にも良い「時間」をつくる

「私はもともと新卒から大手旅行代理店で働いていたのですが、多忙なのもあり心身ともに壊してしまい休職したタイミングがありました。休職中は、ずっと部屋に閉じこもっていましたが、もともと自然が大好きだったので外に出てみようと思って山を歩いたり海に浮かんだりしてみたら、良くなったんです。やっぱり人間って自然の一部ですし、自然のなかに居ることのほうが自然だしありのままなんだなと感じて、通勤電車に乗って都内に通う自分の生活に疑問を持って、結婚を機に退職しました」

「私たち大手旅行代理店は、オーバーツーリズムという特定の観光地に訪問客が増えすぎることによって、地元住民の生活や自然環境などに悪影響を及ぼす状況をつくる観光における大きな問題の原型を作ってきたんです。利益を最大化することを目的におくと、いかに効率的に大量のお客様を一つの場所に集めるかが大切なので、そうした問題を誘発します。しかしこのやり方が原因で、地域住民の方やNPOなどからクレームも多く来ていました。地元の伝統的なお祭りが、オーバーツーリズムによる問題で参加人数の制限をせざるを得なくなってしまったことも」

「自分自身もパッケージツアーの企画をしていましたが、私がやりたいのはこれじゃないなとずっとどこかで思っていて、それも退職理由の一つです。せっかくやるなら、地域課題に貢献出来るなど、ただの観光ではない地域との関わり方を提案できないか。訪れる人だけじゃなくて、地域にも環境にも良いような。観光、ツアーではなく、『体験』というか『時間』のようなものを提供したいと思い、今の仕事をしています」

今回筆者が参加した「白丸湖 朝カヤック 奥多摩野菜たっぷりブランチ付き」といった名称が付いたツアーの定員は1〜5名で最小催行人員は2名。恐らく青木さんの前職の大手旅行代理店では行われないような小規模のツアーだ。

カヤックツアー写真

白丸湖 朝カヤック

正直ツアーだけでは儲からないと青木さんは言うが、ツアーを実施することによって生まれるつながりや関係性など、副産物が多くあるため、この方法で実施できているという。

利益の最大化と社会や環境に良い選択、その二つのバランスをどう取っていくのか、それは今きっと多くの企業や人々が直面している課題なのだろう。

楽しく地域課題を解決

「『”地域にも環境にも良い時間” を提供するには、まず地域のことを知らないと』と思ったので、色々と練り歩いて、地域の課題がどこにあるか聞いて回りました。そんななかで、コロナ禍でアウトドアのマナーを守った楽しみ方を知らないままソロキャンをする人が増えたことで、多摩川上流付近で100均などで買ってきた包丁や網などがそのまま放置されるようなことが多発していると聞いたんです。そうした放置されたごみをカヌー、カヤック、ラフティングなどリバーアクティビティをこの地域で提供する事業者の人たちがボランティアで拾っていたんですよね」

「その課題を聞いた時に、IDEAS FOR GOODというメディアで見た、オランダの首都アムステルダムの街中の川に浮いているごみを船に乗って釣るというアクティビティがあるという記事を思い出して、『ごみ拾いをアクティビティにできないか』と思いついて。御岳渓谷でゴミ拾いを自発的に行っていた、みたけレースラフティングクラブの柴田大吾さんという方に、『ラフティングとごみ拾いを掛け合わせて楽しく地域課題を解決しませんか?』提案したんです」

「最初は、提案に対して難色を示されました。今まで地域のためにボランティアでごみ拾いをしていたものを、いきなり有料にして慈善活動を営利活動にするということへの違和感など、さまざまな懸念点がでてきて。でも話し合いをするなかで実施できることになり開催したところ、当時コロナの自粛中で都外への移動が制限されていたのもあったとは思うんですが、主に23区内から参加者が多く来てくださったんです」

多摩川リバークリーンラフティングの様子

IDEAS FOR GOODは弊メディアLivhubと同じ運営会社であるハーチ株式会社が運営しているメディア。社会をもっとよくする世界中のアイデアを発信している。

課題がアイデアとかけ合わさることで、楽しみながら解決できる体験に変わる。理想ともいえるような、社会課題の解決方法のように感じた。

そしてもう一つ、体験を通して社会課題を解決した東京マウンテンツアーズのツアー事例を教えていただいた。

「奥多摩の特産はわさびなんですが、2019年に来た大きな台風によって、わさびを育てるわさび田の大部分が流されてしまったことがありました。その事実を知り、崩壊してしまったわさび田をツアーでお手伝いできないかと考え『奥多摩わさび田再生プロジェクト』を実施しました」

わさび田での再生作業時

「デイヴィッドさんというオーストラリアから奥多摩に移住してきた奥多摩わさびの農家さんに協力してもらい、デイヴィッドさんの畑をツアーの参加者と一緒に修復していったんです。何度かツアーを続けることで畑がしっかり修復されたんですよ!デイヴィッドさんにもすごく喜んでもらえて。この体験は印象にすごく残っていますね」

再生されたわさび田

日常のちょっと先に、ふらっと気軽に旅しにいこう

東京の水資源を守るため、整備され守られてきた奥多摩周辺の森林や自然環境。大都市東京からもアクセスのよい場所にありながら、意外と何故だか休みの日の目的地の候補には挙がらないという人も多いのではないだろうか。

ちょっとお出かけをする時は都内に買い物や食事に行き、遠出をするとなると山梨や長野まで足を伸ばす。奥多摩など東京の山間地域は、そのどちらでもない曖昧な地域として認識されているのかもしれない。

「みなさん旅行と日常のギャップが激しすぎて、その間の楽しみ方がわからないんじゃないかと思うんです。東京の山間地域は、日常のちょっと先、非日常の手前にある、ふらっと気軽な旅ができる場所です。これからも、楽しくて、そして何か人生のちょっとした変化のきっかけになるような感動のある体験を、この地域から届けていければなと思います。みなさん是非、遊びにきてくださいね」

東京マウンテンツアーズでは、定期的に様々なツアーを開催している。ぜひサイトを確認し、好みの体験をしに訪れてみてはいかがだろうか。地域を愛する素敵な人たちが、あなたを出迎えてくれるはずだ。

【参照サイト】東京マウンテンツアーズ
【参照サイト】みたけレースラフティングクラブ
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飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると“いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。