都会のど真ん中で自然の循環を感じられる、大阪 新梅田シティ内「新・里山」ってどんな場所?

「自然を身近に感じられる、どこか遠くの山や森へ行きたい…..」自分の心はそう言っているけど、頭はそうは言っていない。

平日は仕事もあるし、子供の学校だってある。旅行にはちょっとしたお金だって必要だ。
そんな理由で、自然の中に身をおく旅を半ば諦めかけている自分がいる。

でもちょっと目線を変えれば、都会の真ん中でも植物や小さな生き物たちの気配を感じながら、自然の中の循環を体感することができる場所が実はある。

今回はそんな場所の一つ、新梅田シティ内にある「新・里山」と呼ばれる空間を訪れてみた。

そもそも「里山」とは

「新・里山」について触れる前に、「新」を外したそもそもの「里山」とはなんだろうか?

里山とは、日本の自然環境の中で、手つかずの自然である「奥山」と、人の居住地の間に存在する、多様な生態系を有する環境や地域のこと。二次林、農地、ため池、草地などが組み合わさっており、そこには人間と自然の共存の歴史がある。

環境省のデータによると、里山は日本の国土の約4割(*1)を占めていて、また日本の生物の希少種の集中分布地域の5割以上(*2)が里山にあたるそうだ。

このことから、人の暮らしだけでなく生物多様性を育む上でも、里山というエリアがいかに大切かということがわかる。そしてここで大事なのは、手つかずの自然とは違い、山や林に加えて田畑や池なども含む里山は、適度な人の営みがあってこそ維持されているということ。つまり人が自然を必要としているように、自然も人を必要としている。

「新・里山」はどんな場所?

大阪駅や梅田駅前からも目に入る、双子のような超高層ビル「新梅田スカイビル」を見上げながら、ビルのふもとを目指して歩いてみる。いざ辿り着くと窓ガラスが眩しく輝くビルばかりが目に入りがちだが、そのビルの北側には自然公園のような約8000平方メートルの緑地がある。

「新・里山」の外観

その森の手前には、およそ高層ビルには似つかわしくない、サトイモやお茶の木が植えられた畑、稲穂が揺れる田んぼに加えて、その稲を鳥から守るカカシまで立っている。そこだけ見ていると、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなりそうだ。

「新・里山」内のサトイモ畑[

「新・里山」内の田んぼにはカカシまで立っている

この高層ビルの谷間に脈絡もなく現れたようにも見える里山のような空間が、住宅や建築・土木、都市開発などに関わる事業を幅広く展開する積水ハウス株式会社を始めとした4社共同で管理・維持している「新・里山」だ。この場所がどんな経緯でつくられたのか、積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 環境推進部の八木隆史(やぎたかし)さんにお話を聞いてみた。

積水ハウスの「5本の樹」計画

現在、積水ハウスが企業として環境に関する取り組みに積極的なのは、安全・安心で快適な暮らしを提供するには、家の中だけでなく、住む人が気持ちよく暮らせる健全な地球環境も必要だと考えたから、と八木さんは語る。

そうした背景から、1999年に積水ハウスはすべての事業の基軸に「環境」を据える「環境未来計画」を発表。脱炭素や資源循環、生物多様性などへの取り組みをスタートさせた。

八木さん「生物多様性に関しては、まず『5本の樹』計画という活動からスタートしました。これは『3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を』というコンセプトのもと、お客様が建てた家の庭木を選ぶ際に、もともとその地域に気候風土にあった植物である在来樹種を中心に選んで植えることを提案する計画になります。そこにはこれまで日本で多く植えられてきた庭木が、人の手で人の好む形に品種改良された『園芸種』や、もとはその地域にはなく人によってその場所にもたらされた『外来種』だったという課題が前提としてあります」

ふだん私たちが何気なく眺めている庭の樹木や街路樹。その木が在来種かそうでないかで、一体なにが違うのだろうか?

「たとえば外来種のヒマラヤシーダーを利用する生き物は、日本では約20種類程度と言われています。一方、在来種のクヌギを植えると、約300種の生き物が利用できる環境になります。つまり地域の在来種を庭木として植えることで、多様な生き物が住みやすく、安定した生態系を育むことになる。生態系が安定すると、生物間の捕食などの調整が発生することで害虫などが増えすぎず、人にとってもメリットがあります」

つまり「5本の樹」計画は、人も含めたすべての生き物にとっても心地よい空間を提供する計画だということ。この計画が都市部の個人住宅を通して広がれば、大規模な緑地や自然公園がなくても、生き物たちの小さな生態系がネットワーク状になり、生物多様性を守ることにつながるわけだ。

大阪都心で里山の思想を伝える「新・里山」

2001年から全国で展開していた「5本の樹」計画の実践の場として、2006年に積水ハウス本社のある梅田スカイビルの足元に「新・里山」がオープン。植栽設計や管理のエキスパート、樹木医の資格をもつ社員などが加わり進められた「新・里山」プロジェクトは、これからの都市の緑化に一石を投じるチャレンジの始まりだった。

「『5本の樹』計画にも、『新・里山』にも、自然に人が手をいれることで、より生物多様性が豊かになる、という里山の思想が生きています。

敷地内には樹木だけでなく池を中心としたビオトープや、蝶が好む吸蜜植物に加えて、蝶の幼虫の餌となる食草を植えた『蝶の庭』と呼ばれる場所をつくりました」

「新・里山」内の蝶の庭

「土壌も大事なので、落ち葉を堆肥化するコンポストをつくり、その周囲には樹木を剪定した枝や、地中から出た瓦礫を積み上げることで、小さな生き物の棲家となっていますと生息域が形成されていきます」

敷地内の田んぼの藁を使用してつくったコンポスト

小動物の「エコスタック(棲み処)」

「これらの取り組みにより、確認できただけでも年間あたり30〜40種類の野鳥や、50種類以上の蝶・昆虫類がこの新・里山を訪れるようになり、2023年10月には環境省から『自然共生サイト』にも認定されました」

さらに「5本の樹」計画も「新・里山」も、地域の生態系を守るためだけのものではない。”「わが家」を世界一幸せな場所にする”という理念を持つ積水ハウスは、そこに住まう家族の毎日がより豊かで快適になることを目指している。もし「梅田スカイビル」が「わが家」なら、「新・里山」は「わが家」の庭。つまりその場所で働き、暮らす人々の生活を豊かにすることも大切な使命の一つ。

「梅田スカイビルで働くオフィスワーカーたちが、出勤前や休憩時間に野菜の育ち具合をチェックをしたり、近隣の小学生が田植えや稲刈りをしたり。散歩をしながら、鳥のさえずりに耳をすませる近所のご夫婦がいたり。そんな光景が『新・里山』の日常になっています。

「新・里山」の秋の風物詩となった小学生の「稲刈り」

新・里山には自然のサイクルに沿った管理を行う造園・植栽管理のプロが常駐していて、敷地内で自然に生まれる会話や、ワークショップなどの開催を通じて、新・里山の活動の意義やコンセプトを訪れる人々に伝えることも大切にしています」

10年以上続いてきた「新・里山」という場所は、単に都会の中の豊かな緑地というだけでなく、かつて自然とともに生きてきた人間の知恵や里山のあり方を表現し、伝える場でもあるようだ。


このところ「生物多様性」という言葉をいろんな所で耳にするようになった。もちろんその大切さを頭では理解しながらも、その価値を自分自身の体験を通して実感する機会や、自分の身体を直接自然の中に置き、直接生き物や植物にふれる機会の少なさに、少しだけ引け目を感じることがある。

でも豊かな自然を身近に感じ、そこにある課題を自分ごとにしたいと思った時、飛行機や新幹線に乗ってどこか遠くへ旅をすることだけが唯一の手段ではない。

まずは家の外に出て、近所をふらっと散歩してみる。ベンチにでも座って、目に入る庭木、街路樹や公園の緑、そしてそこに生きている小さな生き物たちを、ただぼーっと眺めてみる。そんなことから初めてみるのもいいかもしれない。そろそろ自分もPCを閉じるかわりに家のドアを開けて、身近な自然を探しに出かけることにしよう。

※1 環境省 自然環境 生物多様性 日本の里地里山の調査・分析について(中間報告)
※2 環境省 里地里山パンフレット ~古くて新しい いちばん近くにある自然~

【参照サイト】積水ハウス株式会社 新・里山とは?
【参照サイト】積水ハウスの「5本の樹」計画

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いしづか かずと

Livhubの編集・ライティング・企画を担当。訪れた場所の風景と自分自身の両方を豊かにする旅を探している。神奈川と長野をいったりきたりしながら、二拠点生活中。今気になっているのは環境再生やリジェネラティブツーリズム。環境再生医初級。