ロンドンからローカル線で南へ1時間ほど行った場所に、「Lewes(ルイス)」という地域がある。人口は埼玉県と同等で、5つの町と2つの村で構成されている。
そのなかで庁舎がある比較的大きな町が「ルイス」だ。地域の名前にもなっている町で、2021年時点で1万6千人程が暮らしている。
人口にフィットするようにルイスの町はとてもコンパクトで、丸一日あれば全域を散策できる。一方で土地自体に何世紀もの歴史があるため、歩き回ることは安易でも町をじっくり味わうには、より時間が欲しくなる趣のある町だ。
旅人である筆者は2023年10月に初めてルイスを訪れた。ルイスの町をゆっくりと筆者と歩いているかのように記事を読み進めてもらえればと思う。
ルイスには独特の時間が存在する
町の主要駅「ルイス駅」に到着し、重いスーツケースを駅前の荷物預かり所に預けて周辺を散策。訪れたのは平日の午前10時半頃。英国は日曜日には店が休業になることが多いのは知っていたが、平日の午前中でもまるで早朝のごとく通り沿いに並ぶ店々は、まだグッスリと眠りについていた。周囲からは自分が歩く足音と、甲高い野鳥の鳴く声しか聞こえないほど、とにかく静かだった。
ルイスのメイン通り
駅からメイン通りまでは徒歩5分程度で、街なかには細い横道も多く基本的にはどこを通っても大きな通りに合流する仕組みになっている。
凹凸のあるレンガ道をしっかりと踏みしめながら細道を通り抜けると、カラフルな組み合わせの建物が並ぶ通りに到着。そこでようやく通行人と出会いホッと一安心。それまで、なかなか人とすれ違うこともなく「みんなどこにいるんだろう?」と少し不安になるほどだった。

しばらく進むと目の前には長い石畳の坂道が登場。息を弾ませながらゆっくりと坂を登っていき、途中で後ろを振り返るとルイスの町の周囲を取り囲む広大な自然の風景が見え、「ここで暮らしたいなぁ」と物思いに耽る。
ひきつづき町を歩いていると小さいながらも上質なアンティーク雑貨・家具の店、アートギャラリーなど美術品を販売している店のほか、書店も多いことがわかる。なかでも15世紀から存在する古本屋には驚いた。その外観は、外壁の中にグニャリと曲がった窓枠が押し込まれるように設置されていて、多くの時代を経てきたことが感じられる。現在も、土日限定で営業しているというが、訪れた日は平日だったため、残念ながら中に入ることは叶わなかった。しかし、先のお楽しみが1つ増えたと前向きに捉えて歩みを進めた。
The Fifteenth Century Bookshop
メイン通りに近づくにつれて少しずつ通り沿いの店々から、地域の店主たちが顔を出し始めた。時刻はお昼の12時まわった頃。美容院の店主が「Morning!(おはよう)」と声をかけながら、いそいそとシャッターの掃除を始めたり、朝ごはん?それとも昼ごはん?のパンを齧りながら散歩をしている人々の姿もチラホラと見かけるようになった。
午後になると町自体がすっかり眠りから目覚めたように、どこからともなく地域の人々が顔を出し始めて、メイン通りの奥にある教会やスーパーマーケットなどが集中している一角に腰を下ろす。そこは町で唯一の大きな川「Ouse river(ウーズ川)」が流れている場所で、周辺にはベンチも設置されているので人々の憩いの場所であり、ストリートミュージシャンたちの歌声も鳴り響く素敵な空間だ。
ウーズ川に掛かる「Cliffe Bridge(クリフ橋)」からの眺めは、ルイスでしか見られない絵になる風景。川沿いに町が誇る1790年設立のビール醸造所「Harvey’s Brewery(ハーヴェイズ・ブルワリー)」があり、クリフ橋から見える同醸造所の赤レンガは、ルイスを象徴する味のある景色をかたちづくる大切な要素なのだ。
橋のそばにはハーヴェイズのビール直売所と、ビールと一緒に食事を楽しめるパブ(酒場)もあるので、天気の良い日にはビールを片手に、外でゆったりと太陽のあたたかな日差しを楽しめる。
Harvey’s Brewery Shop
夕方17時にもなると町の人々の姿は一気に減り、通りは午前中のように閑散とし始める。どこに行ったのかと思えば、夕方はお楽しみのアルコール時間!みな吸い込まれるようにパブへと消えていきお酒を飲む。夜の22時にもなると人々の声も自然と静かになり、町はとっぷりと眠りについた。
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ルイスに朝から夜まで滞在して地域の人々の時間の過ごし方を眺めているなかで、自然の道理に身を任せるルイスの人々の自由な雰囲気を感じた。ゆっくりと一日をはじめ、お酒が恋しくなる時間にはパブへ向かい、一日をゆったりと終えるため家に帰る。
限られた時間で旅をしようと思うと、ここもあそこもとあくせくといろんな場所を周りがちになる。しかしたまにはゆっくりとひとつ場所に留まり、朝から晩まで町に漂ってみてはどうだろう。表層的ではない、その地域ならではの時間の流れや暮らしのあり方、文化がじわじわと見えてくるはずだ。
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Molly Chiba

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