自然に寄り添う暮らしをしたい人、この宿とーまれ。福井県永平寺町の茅葺き農家民宿「晴れのちもっと晴れ」

自然に寄り添う暮らしがしたいけど、何から手をつけていいのかわからない。家庭菜園や有機農業にも興味はあるけれど、すぐに始めるのは難しそう。

そんな人にぜひ一度泊まって欲しい農家民宿が、福井県の永平寺町にある「晴れのちもっと晴れ」。

この宿を運営する2人が、これからチャレンジをするかもしれないあなたの背中をやさしく「ぽん」と押してくれるはずだ。

限界集落に建つ茅葺屋根ゲストハウス

福井県の永平寺町といえば、曹洞宗の大本山として知られる「永平寺」が有名だ。 770年以上の歴史を持つ永平寺は、雲水(うんすい)と呼ばれる修行僧たちが修行に励む様子を垣間見られる場所として海外からも注目されている。

そんな永平寺町からほど近い20世帯の限界集落「吉峰集落」で、おばあちゃんから受け継いだ築140年の茅葺屋根の農家民宿を運営するのが、民宿オーナーの芳沢(よしざわ)夫妻だ。

永平寺ICから車を少し走らせると、圧倒的な大きさの茅葺き屋根が見えてくる。

実際この茅葺き屋根の建物目にすると「茅葺き屋根ってこんなに高いの?」と驚きを覚える。一見人気のない古民家の敷地におそるおそる入っていくと、笑顔の爽やかな2人が玄関で出迎えてくれた。

芳沢 郁哉 (よしざわいくや)さんと、そのパートナーの芳沢 有希さん(よしざわゆう)さんだ。

275日間、16700kmの日本一周旅

2020年に転職のために都内の企業を辞めたいくやさん。始めは転職までの北海道一周のつもりで旅に出たが、「新しい会社で働くよりも、旅の方が自分を成長させてくれるのでは」と考えるうちに、いつの間にか北海道一周が日本一周に変化していた。

出発当初は移動することが目的の旅だったが、たくさんの出会いを繰り返すうちに旅慣れたのか、一箇所に長く留まることが多くなった。

その滞在の中で、有機農業を学び、塩作りを学び、コミュニティーづくりを学びと、いつの間にか「学び」が旅の中での目的になっていることに気づいた。そんな旅からの学びを通して「日本の暮らし」に興味が湧いたいくやさん。

旅をする中で「生きる起源」について考え抜いた結果、「住と食」この二つさえあれば生きて行けるという答えに辿り着く。そしていくやさんのおばあちゃんが一人で暮らす古民家がある場所、福井県永平寺町に移住することに決めた。日本一周中に広島で出会い、意気投合したパートナーのゆうさんも一緒に。

日本中の旅人の力を借りて古民家DIY

永平寺町に移住したいくやさんとゆうさんは、まず日本一周をする旅人を応援する宿「日本一周旅人応援宿」を開始。SNSに投稿した一つのツイートをきっかけに、全国から旅人がやってきた。

旅人に無料で宿泊してもらう代わりに、旅の話を聞かせてもらい、時にはゲストハウスの改装を手伝ってもらうという、お金を介さない価値と価値の交換。

入れ代わり立ち代わり訪れる旅人たちを見て、おばあちゃんもたくさんの孫ができたように思ったのか、旅人が帰る際には「生きているうちにまた泊まりにきてね」と名残惜しそうに声をかけるようになった。

DIY経験ゼロの2人が、地域の人や日本全国からやってくる旅人たちの力を借りて、築140年の古民家の抜けた床を修繕し、五右衛門風呂をつくり、20年放棄され森と化していた畑、田んぼを一から耕す。

そんな作業を丁寧にコツコツと。全国の旅人とのつながりを支えに、夫婦2人だからこそ続けることができる、地味で地道な作業の連続。

2人が福井に移住してから2年の月日が流れた、2023年の夏。自給自足な循環型ホテル「晴れのち、もっと晴れ | Farmers Hostel&Living 」が開業した。

人や生き物と出会える場で、自然に寄り添う暮らしを

今ではDIYによる鶏舎も完成し、自由に地面を歩き回る30羽のニワトリたちと暮らしている芳沢夫妻。
有機農業や養鶏に関しても経験が無いなりに、住み込みでの研修も受けた。

彼らの宿では、彼らが育てた無農薬米と平飼いの鶏たちが産んだ卵を使った、新鮮な卵かけご飯を食べることができる。詳しくは公式サイト上のプランを参照して欲しい。

「名前に『Farmers Hostel』という言葉を入れたのは、農家民宿だけど、交流もできるゲストハウスみたいな雰囲気をつくり出したいと思ったからです。人との交流だけではなく、地域と、地球に棲む生きものたちとも出会いが生まれるような場所にしたいんです。そしてこれから有機農業やゲストハウスをやりたい人の背中を押せるような場所にもしたいですね」

芳沢夫妻と話していると「地に足がついている」という言葉が浮かぶ。先祖から受け継いだ古民家をDIYで修繕し、畑を耕し、周囲の植物や生きものたちから恵みをいただく。「土とつながった暮らし」という言葉の方がより彼らにぴったりくるだろうか。

一泊した次の日の朝、帰り際に芳沢夫妻に手を降って宿を出た後、少しの間だけ道に車をとめ、少し離れた場所から合掌造りの茅葺屋根の宿を振り返る。もし仮にあの2人がここで宿を始めるという選択をしなかったとしたら、他に継ぎ手の居なかったあの古民家はいつか解体され、この場所から消えていたのだろうか。

そう考えると、2人の今をもっとも祝福しているのはあの大きな茅葺屋根の古民家なのかもしれない。

晴れのち、もっと晴れ
住所: 福井県吉田郡永平寺町吉峰14−5−1
予約はこちら
公式サイトはこちら

【参照サイト】note よしざわいくや | 晴れのちもっと晴れ

【関連記事】標高89メートルの山で見つけた小さなタカラモノたち。 アラジンさんのシンプルな生き方が問いかける「豊かさ」
【関連記事】ニワトリのぬくもりが教えてくれた「食べる」ということ