世界地図で見ると日本は小さな島国だが、その島国のなかに多様な文化や風習、景色、気候が存在する。北海道といえば雪景色、京都といえば神社仏閣、沖縄といえば美しい海など、人によってそれぞれの都道府県にイメージするものは違うだろう。
2023年の夏、札幌在住ということもあってかこれまであまり訪れたことのなかった中部地方へと足を運んだ。東京から長野、富山、岐阜、石川、福井へとバスを中心に移動するプランだ。
これらの地域を訪れることにしたのは、なんとなく日本ののどかな自然の風景に出合えそうだったから。
実際に訪れるまでは正直なところ、中部地方について「首都圏からアクセスが良い自然豊かな地方」くらいのイメージしか持っていなかった。実際に訪れてみて、確かにそのイメージは大きく外れていなかった。雄大な山々に透き通るような川など、見ていて癒される日本の景色が中部地方にはある。
ただ、それよりも筆者が興味深かったのは、これらの地域では「水」を起点に人と人とのつながりが生まれていることだった。
井戸や水路で人々の生活を豊かにする「松本の水」
「長野県は水がおいしい」と、聞いたことがある人も多いかもしれない。
長野県の山々から流れる水には、豊富なミネラルが含まれている。長野県のゲストハウスに到着して早々、スタッフの人に「長野のそばがおいしいのは、ミネラルが豊富な水を使ってそば粉を打っているからなんだよ」と教えてもらった。
確かに筆者も長野に訪れて、水のおいしさに少し驚いた。ただ、おいしいだけでなく、「水」という存在が街自体に馴染んでいるような感覚を覚えたことが印象的だった。
例えば筆者が訪れた長野県の松本市は、「湧水の街」と呼ばれている。綺麗な水を地下に蓄えている松本市には“湧き水スポット”があり、街のあちこちで昔ながらのいろいろな形の井戸を見ることができる。地元民のなかには、実際に井戸へ水を汲みに来る人もいるそうだ。
なわて通りと呼ばれる場所にある「若がえりの井戸」は、2017年12月にできた比較的新しい井戸。なわて通りといえばカエルの置物がいろいろな場所に置かれていることでよく知られているが、その「カエル」にちなんで「若がえる」と命名したらしい。ここでは猛暑のなか井戸の横に腰をかけて、雑談をしている地域の人々を見かけた。
また、古民家の周辺には美しい水路が流れて、猛暑のなかでもどこか涼しげな雰囲気を感じられた。井戸に水路、大きな川など、一つひとつはどれも特別なものではない。しかし、これらすべてが1つの街に揃い、人々の生活に自然に馴染むことで、松本のゆったりとした空気を作り上げているように感じた。
知らない土地でも地域とつながれる「起点」を探したい
長野県松本城の水堀の前で走り回る家族や、富山駅近くにある公園の川を眺めながらコーヒーを飲むカップル、岐阜県高山市の川沿いに座ってピクニックをしている若者たち。
中部地方を旅していているとき、どこを歩いていても水が身近な存在として横にあり、水の横に設置されたベンチなどで人々の交流が巻き起こっている姿を見かけた。
水の周りに人が集まり、水を起点に会話が始まる。地方では人と人とのコミュニティが密接だとよく聞くが、中部地方ではそのコミュニティを起こしているものの1つに「水」があるのではないかと筆者は勝手に推測した。
長野県松本市の山岳景勝地、上高地をハイキングしていたとき、湖を見ていたら同じくハイキングをしている人から話しかけられ、知らない土地で人と関わることの楽しさを実感した。
知らない街を旅しているとき、なんとなく自分が独りぼっちになったような、ふとした寂しさを感じることも少なくない。
しかし、中部地方の「水を起点にしたコミュニティ」を見て、独りぼっちに思えるような知らない土地にも、自分がその地域とつながれる場所があるのかもしれないと思った。
居酒屋や公園、コミュニティセンターなど。これから知らない街を旅するときは、地域と旅人、あるいは旅人と旅人をつなぐ起点を探してみるのも面白いかもしれない。
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佐藤 ひより
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